この記事では、会社勤めのサラリーマンの方向けに会社が出している決算書類の読み方について解説します。
決算書類なんて普段読まない方が多いと思います。決算書は会社の会計のルールに従って書かれているので、ルールを知っている人が読めば何が書いてあるかわかります。しかし、会計について知らないと何が書いてあるかさっぱりわかりません。
サラリーマンをされている方は転職活動や就職活動で、働く会社を選んだ経験があるはずです。しかし、働く会社の会計書類を見られたことのある方は少ないのではないでしょうか。会計書類には、会社の置かれている状況がまざまざと書いてあるので、会社を選ぶ時には読めるのであれば必ず読んでおきたい資料です。とはいえ、読み方がわからないと読むことができないですよね。そこで、会計の知識がない方に向けて会社が出している決算書類のうち主要なものである、「貸借対照表」と「損益計算書」の読み方を簡単に説明していきます。
この記事のゴールは、とりあえず貸借対照表と損益計算書で出てくる言葉が何を言っているのか理解できて、経営が安定している会社を見つけることができるようになることです。
流れとしては、会社が出している決算書類のうち、貸借対照表・損益計算書のざっくりした読み方を紹介し、実際の会社の決算書類を見ていきます。
決算書類はどこにある?
経理の仕事をしている方でなければ、普段仕事の中で自分が働いている会社の決算書を読むことなんてないですよね。自分の働いている会社が株式市場に上場している会社であれば、会社の決算書類は絶対にインターネット上に公開されています。株式市場に上場しているということは、誰でも株を買ったり売ったりするということなので、多くの人に会社の情報を公開する必要があります。
実際にどこを探せば決算書類が出てくるのかというと、会社のホームページの中に必ずあります。「会社名 決算書」で検索すれば、だいたい決算書類が載っているホームページが出てきます。
ここでは、トヨタ自動車のホームページを例にしてみていきましょう。
「トヨタ自動車 決算書」と検索すると、一番上に出てくるページはこんな形になっています。

決算報告のページで、決算関連の資料が並んでいます。この中で、読むべきなのは有価証券報告書か四半期報告書のどちらかです。企業は四半期(3か月)ごとに決算を発表しています。最新の決算書類を見る場合は、四半期報告書を読めばいいです。決算短信と書いてあることもあります。有価証券報告書は、1年分の四半期報告書がまとめられて、1年の決算がまとめて書いてあります。1年分の決算を読む場合は、有価証券報告書でもいいんですが、とにかく長いんです。有価証券報告書は、上場企業の場合提出することが法律で義務付けられていて、監査法人の監査を受けています。有価証券報告書は決算の内容以外にも、たくさんの項目が書かれているので、貸借対照表と損益計算書を読む場合には、四半期報告書でも十分です。
複式簿記で書いてある
企業のホームぺージから、決算書類を見ることはできたとしましょう。しかし、初見だと何が書いてあるかわからないと思います。というのは、会社の決算書類は複式簿記という書き方で書かれているからです。
経理の仕事をしている方以外で、複式簿記を普段からつけている方は少ないと思います。そこが、決算書を読むハードルが上がる理由です。いくつか、知らないといけない用語がありますが、必要最小限な用語で解説します。まずは、貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)から解説します。
貸借対照表は会社の健康状態を表す
貸借対照表は大きく3つのカテゴリに分かれています。3つのカテゴリとは、「資産」「負債」「資本(純資産)」です。この3つは貸借対照表を読むうえで外せないので、それぞれ説明していきます。
資産
まず、資産です。ここでいう「資産」は、一般的に使う資産とは少し意味合いが変わります。貸借対照表で出てくる資産とは、会社が持っているお金や事業を運営するために買ったもの(機械・土地・建物など)のことを示しています。現金や現金に変えられるもの、今後も事業を行っていくうえで必要なものが資産に入ります。
資産の中でも、1年以内に現金に変えられるものを流動資産といい、1年以上利用する予定だったり現金化するのに時間がかかる資産を固定資産(非流動資産と書かれていることもあります)といいます。流動と固定の境目は、1年だとざっくり考えてください。例えば、会社が持っている現金は流動資産になりますし、土地や建物を持っている場合はだいたい固定資産になります。
負債
次に、負債について解説します。負債とは一言で言うと、いつか返さないといけないお金のことです。簡単に言うと、借金です。この負債にも、1年以内に返さないといけないものと、1年以上先に返せばいいものがあります。1年以内に返さないといけない負債を流動負債といい、1年以上先に返せばいい負債を固定負債といいます。負債の時も資産の時と同じように、流動と固定の境目は1年です。
1年以内に返さないといけない借金の例は、例えばクレジットカードの利用残高があります。クレジットカードを使う際は、お金を使う瞬間はカード会社が立て替えてくれていて、あとから利用者に請求が来ます。自分がお金を使うと、1~2か月後に請求が来て払わなければいけません。しかし、1~2か月払うまでに時間があります。払わないといけないことは決まっているけれども、支払いまでに時間の余裕があるものが流動負債に当たります。
1年以上先まで払わなくていい借金の例としては、奨学金の返済や家のローンがあります。奨学金や家のローンは、1年以内に払わないといけない分もありますが、1年以上先に払えばいい部分もあります。額としては大きかったとしても、払うまでに時間的猶予があるのでしばらくは返さなくていいお金のようなイメージが固定負債です。もちろん、固定負債であっても返さなければいけないお金であることに変わりはありません。
資本(純資産)
最後に、資本(純資産と書いてある場合もある)です。資本は、一言で言うと「資産-負債」です。
資産は、会社が持っている現金や現金化できるもの、今後の事業のために持っているものでした。負債は、いつか返さないといけないお金でした。つまり、お金になるものや今後の事業のために持っているものから、返さないといけないお金を引いてやると、会社の持っているものの合計(資産)から、返さないといけないお金(負債)を引くことになり、自分たちの正味の資産がどのくらいなのかを表しています。資本は、返さなくていいお金なので資本が多ければ多いほど会社の借金は少ないことになります。
資産・負債・資本をまとめるとこのような図になります。

この図から、負債+資本=資産という構造になっているのがお分かりいただけると思います。複式簿記をやったことがないと、本当に負債+資本=資産になっているのか、疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ちゃんとこうなるようなルールに則って複式簿記は書かれています。
資産<負債になるとどうなる
ここまで、資産・負債・資本についておおまかに説明してきました。厳密なことを言うともっと詳しく説明しなければいけませんが、イメージとしてはつかんでもらえたのではないかと思います。
さて、先ほど資産=負債+資本と言いました。もし、資産より負債が多くなってしまった場合はどうなるのでしょうか。式からすると、資本がマイナスの値になってしまいます。これを、債務超過と言います。債務超過の時は、会社が持っている資産を全て売っても負債(借金)を返せない状態です。債務超過=倒産ではありませんが、かなり倒産のリスクが高いです。上場企業で債務超過の貸借対照表に出会うことはほとんどありませんが、無いわけではないので、一つ覚えておいてください。ニュースで、○○社が債務超過と聞いたら、その会社はかなり倒産の危機が近づいています。
損益計算書はいくら利益が出たかを表す
貸借対照表だけで長くなりましたが、次は損益計算書について解説します。損益計算書は、簡単に言うとその期間にどれだけ利益が出たかを示してくれています。損益計算書は、「収入-支出=利益」の中身を細かく書いてくれています。
収入-支出=利益
簡単に言っていますが会社の収入から会社の支出を引くと利益になるというのが、損益計算書のイメージです。とはいえ、会社の収入と支出にもいろいろな種類があります。それぞれ名前がついています。
会社が本業として、商品やサービスを売って顧客から得た金額のことを、売上高といいます。損益計算書は売上高からスタートします。商品やサービスを売るには、商品やサービス自体の原価が必ず出てきます。例えば、コンビニでおにぎりを売る場合には、コンビニはお客さんに売るためのおにぎりを仕入れる必要があります。このように、商品やサービスを売るために仕入れたりするのにかかったお金を原価として差し引きます。売上高から原価を引いて残った部分が、粗利(売上総利益ともいいます)と呼ばれます。

売上高から原価を引いた部分が粗利になるイメージは図のとおりです。コンビニの例を再び出すと、コンビニでおにぎりを売るためには、レジを打つ店員さんが必要です。コンビニに限らず、何かの商品やサービスを売るためにはそれを作るために人が働いています。また、商品を宣伝するために広告を打つこともあるでしょう。このような、働いている人や広告にかかったお金を販売費および一般管理費(販管費)と言います。そして、粗利から販管費を差し引くことで、その会社が本業でどのくらい儲かったかを示す営業利益が出てきます。式にするとこうなります。
粗利-販管費=営業利益
図にするとこんな感じです。

このように見ると、売上高から原価と販管費を引くので、数式的には原価と販管費をいかに低くするかが営業利益を増やすことに直結しているかがわかります。
一番ベースになっているのが、営業利益です。図では、営業利益がプラスの場合を示していますが、場合によっては粗利の時点でマイナスだったり、粗利がプラスだったとしても販管費の方が高くなって営業利益がマイナスになってしまうこともあります。そういう場合は、営業損失となって本業で儲かっていないことを示すことになります。こう見ると、粗利がほとんど出なかった場合(売上高と原価がほぼ同じ場合)、販管費は確実にかかってくるので、営業利益を出すのが絶望的になることがわかります。また、粗利がマイナスになることがある業界も世の中にはあります。(半導体産業は、業績が悪い時に粗利がマイナスになることもあるくらいアップダウンの激しい業界です)
営業利益・経常利益・純利益
ここまで、営業利益の解説をしてきました。決算書を見ると、営業利益以外にもいくつか利益が書いてあります。会社は、本業の商品やサービスを売ること以外にも収入を持っていることがあります。本業と本業以外の部分を一緒に書いてしまうと、本業で儲かっているかどうかを区別することができないです。そこで、本業の利益の部分を営業利益として書いています。本業以外の部分が絡んでくるのが、経常利益と純利益です。
経常利益は、営業利益をベースにしています。営業利益に対して、営業外利益を足して、営業外費用を引きます。営業外利益や営業外費用とは何かというと、会社の本業以外の部分で生じた利益や費用のことです。例えば、会社が他の会社の株を持っていて、その配当金が入ったとします。非常に少ない額であれば話は別ですが、数億円単位で配当金が入るくらい株を持っているとすると、配当金の収入は営業外利益とみなされることがあります。
本業以外の部分の収入や費用を表すものとして、特別利益・特別損失があります。特別○○と営業外○○の違いは、特別○○はその期やその年限定で生じた利益や損失のことで、営業外○○はその年やその期だけではなく、継続的に見こまれる収益や費用に対して使うようです。線引きが難しいですが、営業外利益・損失と特別利益・損失は本業以外の部分で得られた収益やかかった費用だと考えてください。
営業外利益と営業外費用を考えたうえで出された経常利益に対して、特別利益と特別損失を加味した利益が「税引き前当期純利益」になります。ここから、会社には法人税がかかるので、法人税などの税金を差し引いた残りが、当期純利益になります。売上高から始まって、色々な、ものを足したり引いたりしましたが、やっと純利益までたどりつきました。ある期間に事業を行って得た利益から会社に残るのは、この当期純利益になります。
営業利益が大きくて当期純利益が大きい会社というのは、本業で稼ぐ力を持っていてコンスタントに稼いでいる証拠です。このように、損益計算書を見るとその会社がどのような稼ぎ方をしているかを見ることができます。
会社や業種によって、売上高に対する営業利益の額が違うので、興味のある会社の決算書を見てみると面白いですよ。上場企業であれば、決算書は無料で読むことができますし、非常に勉強になります。
東芝の決算書類を見てみる
貸借対照表と損益計算書について解説してきました。内容の解説をしてきましたが、具体的に会社の決算書を読むときにどうしたらいいのかをざっくり解説していきます。今回取り上げるのは、株式会社東芝の決算書です。
東芝の決算短信を開くと、表紙はこんな感じです。

上場企業の決算短信は、どこも似たり寄ったりな構成になっています。最初のページで、四半期の売上高・営業利益・純利益・総資産などがダイジェストで書いてあります。もう少し読み進めないと、貸借対照表や損益計算書は出てきません。
読み進めていくと、貸借対照表が出てきました。縦に並んでいるので、まず資産について書いてあります。

単位は、百万円単位なので流動資産だけでも2兆円あります。各項目について、横に3つ数字が並んでいますが、今期のデータ、前の期のデータ、今期と前の期の差が並んでいます。細かい項目が気になる方は、個別に調べていただければすぐ出てきます。ざっくり見ていくので、負債と資本の部も見ていきます。

負債を合計すると、2.2兆円くらいあります。だいたい、上場企業の貸借対照表はこんな感じで書いてあります。どう読めばいいかわからないと、何が書いてあるかさっぱりわからないと思います。
続いて、損益計算書も出てきました。本業での儲けを示す営業利益の部分はこちらです。

私自身驚いたのが、6か月で1.5兆円売り上げがあることです。さすが、大きな上場企業という感じです。1年換算すると、年間3兆円の売り上げです。365日で割ると1日当たり約80億円の売り上げですから、いかに規模が大きいかわかります。そして、記事でも紹介したように売上高から売上原価と販管費を引いて営業損益が出ています。(営業損益と書いてありますが、数字がプラスなので営業利益のことを示しています。) 6か月の営業利益が27億円です。1.5兆円売って利益が27億円というのを、どう感じるかは人それぞれですが、売上高の0.2%しか利益になっていないようです。販管費がもう少し多ければ、営業損失になっていてもおかしくない線です。売上高自体は高いですが、利益を出すことには苦戦していることが損益計算書から読み取れます。
続いて、本業以外の収益を見ていきます。

営業外利益が、1500億円近くあります。雑収入が1200億円近くありますが、内訳が書いていないので詳しいことはよくわかりません。営業外損失が1270億円なので差し引いてプラスですが、営業利益よりも営業外で稼いだ額の方が大きい状況のようです。営業外利益が大きいので、最終的な純利益は1000億円程度になっていて、売上高の6.3%の利益が出ているように見えています。しかし、ちゃんと決算書を読むと、本業の利益である営業利益は27億円で、営業外利益が全体の利益を底上げして、純利益が1000億円になっていることを読み解くことができます。
最終的な企業の利益は、純利益を評価することが多いので、純利益が多いに越したことはないですが、本業であまり稼げていないことが損益計算書を読むとよくわかります。本業で稼いだ営業利益が低いということは、会社の売上高は高いにもかかわらず、あまり稼げていないことになるので、純利益1000億円を維持するのは難しいであろうことが予想できます。決算書を読むだけで、こんなことを見つけることもできるので、とても勉強になりますし、決算書が読めることで損することは絶対にありません。自分の好きな商品を作っている会社や、興味を持った会社の決算書をぜひ読んでみてください。
もっと詳しく知りたい方向けの本
貸借対照表と損益計算書について解説してきました。決算書類を読んだことが無い方向けに、イメージを掴んでもらえるように書いたので、大枠とわかりやすさを意識して書いています。もっと詳しいことを知りたい方や、細かい内容を知りたい方向けにおすすめの本を2冊紹介します。
1冊目は、「いちばんわかりやすいはじめての簿記入門」です。私自身も大昔に読みましたが、背景知識が無くても読み進められたので、初学者にはもってこいの1冊だと思います。
2冊目に紹介するのが、「スッキリわかる 日商簿記3級 第13版」です。簿記3級を取るための参考書なんですが、本を読んで簿記を頭では理解したつもりでも実際の複式簿記の付け方がよくわからなくて買った本です。簿記3級を取る必要は無いと思いますが、内容が解説されていて、例題や問題がついているので、実際にどうやって書くのか理解するにはもってこいです。
この2冊を読めば、とりあえず貸借対照表と損益計算書を読むことはできると思います。
大企業の会計は、かなり高度な簿記が必要とされますが、大企業で経理をされている方以外であれば、そこまで高度な内容をやる必要はないと思うので、この程度で十分でしょう。簿記自体を仕事にすることよりも、本業が別にありながら会計書類が読めることの方が大事です。
まとめ
この記事では、会社勤めのサラリーマンの方向けに会社が出している決算書類の読み方として貸借対照表と損益計算書のざっくりした読み方について解説しました。貸借対照表のキーワードは、「資産」「負債」「資本」です。損益計算書のキーワードは、「売上高」「原価」「販管費」「営業利益」です。上場企業の決算書は無料で読むことができるので、気になる会社の決算書をぜひ読んでみてください。
おわりに
長くなりましたが、ここまで読んでいただいてありがとうございました。記事の中でよくわからない点がありましたら、コメント欄かお問いあわせフォームからご連絡いただければお返事できるようにいたします。それでは、今回はここまでです。次回の記事でお会いしましょう。
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