みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
今回は、日本で最先端半導体の製造を目指す会社として作られたラピダスが、国産最先端半導体を作ることができるのかについて書いていきます。
結論を最初に言ってしまうと、最先端の半導体を国内で製造するためにラピダスは残念ながら成功することはできない可能性が非常に高いです。やる前からできないと言ってしまうのは心苦しいですが、現場にいくら優秀な技術者を置いたとしても、枠組みとして無理なものは技術者がどう頑張っても無理なんです。
というわけで、なぜラビダスが成功するのが難しいかについて、昔半導体エンジニアだった観点から解説していきます。
半導体業界に興味がある方や転職してみたい方は、こちらの記事も読んでみてください。

ラピダスが直面する3つの課題
国産で最先端半導体を作るために作られたラピダスが、実際に最先端の半導体を作ろうとすると直面する3つの課題があります。直面するであろう課題は、こちらの3つです。
・先端技術を開発できる技術者がいない
・最終的な決定を誰がするのかわからない
それぞれの課題について解説していきます。
最先端半導体を作る技術が無い
まず一番大きな課題として挙げられるのが、ラピダスには最先端半導体を作る技術が現時点で無いことです。
最先端の半導体技術といっても、半導体には様々な種類があるので、今回はラピダスが作ろうとしているロジック半導体での最先端を考えます。ロジック半導体の最先端は、高速で動作することを求められる半導体の中でも一番早く動作しないといけないので、技術開発には困難が伴います。
ロジック半導体は、かつては日本のメーカーも最先端の開発を行っていました。NEC・東芝・パナソニック・日立などの電機メーカーが半導体部門として先端開発を行っていましたが、今となっては全て先端開発からは撤退しています。
現在でも日本で半導体メーカーとして大きな会社といえば、ソニーの半導体部門・キオクシア・ルネサスエレクトロニクスがあります。各社の主力製品はそれぞれ、ソニー:CMOSイメージセンサ、キオクシア:NANDフラシュメモリ、ルネサスエレクトロニクス:車載用マイコンです。
ルネサスエレクトロニクスが、一応ロジック半導体を作っているので一番毛色が近いですが、残念ながら2018年に車載用の先端プロセス(当時は28nm世代)の自社製造を取りやめて、外部委託に切り替えています。これは、つまり先端品の自社開発をやめたということです。
そして、ソニーやキオクシアが最先端のロジック半導体を製造する技術を持っていれば、まだよかったんですが、ラピダスという会社をわざわざ作ろうとしているところを見ると、最先端のロジック半導体を製造する技術は持っていないようです。
つまり、現在でも残っている日本国内の大手半導体デバイスメーカーは、最先端のロジック半導体を製造する技術を持っていないわけです。それでは、ラピダスは最先端のロジック半導体を製造する技術を持ってこようとしているのでしょうか。
ラピダスを作るときの思想としては、アメリカのIBMと協業することで、最先端のロジック半導体を製造する技術を持ってこようとしているようです。IBMの研究開発体制に関しては、こちらの記事で詳しく解説されているので、詳しく知りたい方は参照してみてください。
https://news.mynavi.jp/techplus/article/ibm_semiconductor-2/
簡単に言うと、先端半導体の開発には莫大な投資が必要で企業内で開発を行う場合1社では投資を負担しきれなくなってきているため、先端開発への投資を分担できるIBMのプラットフォームに乗っかることで投資を減らしながら最先端の技術開発が可能になるということです。
とはいえ、IBMから技術を持ってくればすぐ最先端品が作れるわけではありません。半導体は、常に最先端の技術開発が行われていますが、その前提として最先端より前の世代は製品化できているということがあります。
先端ロジック半導体の開発を行っている、TSMC・Samsung・Intelといった会社は、それまでの会社の歴史の中で、数年前に先端開発を行っていた開発品は、すでに製品となっており量産技術もある程度確立しています。つまり、最先端品の開発を行えば、それより前の世代は製品として世の中に出ている水準まで技術が確立できているわけです。
しかし、ラピダスのやり方は違います。最先端品の技術をIBMと協力して手に入れる予定であることは明示されていますが、最先端品より前の世代に関しては特に明言されていません。最先端品より前の世代は、IBMから提供してもらえると好意的に解釈することもできますが、もしそうだったとしても苦しい部分があります。
仮にIBMから、最先端品や最先端より前の世代の技術をパッケージとして提供してもらっても、自社に前の世代の量産技術を持った技術者がいないわけです。これは、次の項目で解説する「先端技術を開発できる技術者がいない」ことにもつながりますが、工場を建てて製品を生産しようとする以上、製品を量産する製造技術が必ず必要になります。その製造技術を持った人が社内にいないことは、製品を作ろうとしている会社からするとかなり厳しいと言わざるを得ません。
先端技術を開発できる技術者がいない
ラピダスが直面するであろう課題の中で最先端半導体を作る技術が無いことが一番の問題でしたが、さらに問題があります。それは、先端技術を開発できる技術者が国内にいないことです。
これはどういうことかと言うと、日本のメーカーが先端ロジック半導体の開発から撤退してしまった結果、世界の最先端のロジック半導体の研究開発をしているエンジニアが国内からいなくなってしまったということです。
先ほど国内の大手半導体デバイスメーカーとして、ソニー・キオクシア・ルネサスエレクトロニクスの3社を挙げました。ルネサスエレクトロニクスに関しては、28nm世代(○○nm世代に関しては、この記事では詳しく説明しませんが、○○の数字が小さくなればなるほど、先端の開発だと思っていただければOKです。)以降の先端開発を外部委託することを2018年に明言しているので、それ以降の先端開発は自社で行っていないことがわかります。
ソニーとキオクシアに関しては、社内にどこまで先端半導体の製造プロセスを持っているのかわかりませんが、CMOSイメージセンサやNANDフラッシュメモリが主力製品なので、主力製品を作るために必要な回路を作る技術は持っている可能性は高いです。もしかすると、先端ロジック半導体の部分は外注(外注といっても、作れるメーカーが国内に無いのでTSMCに委託という形になるでしょう)しているかもしれません。
ソニーに関しては、TSMCに委託している可能性が高いと考えられます。(これは、TSMCの28nm向けの新工場が日本の熊本に作られることが示唆しています。おそらく、CMOSイメージセンサ向けのロジック回路はソニーはTSMCに委託していることから、TSMCの日本の工場を熊本に誘致したのでしょう。TSMCの新工場は、ソニーの半導体部門の工場の隣に建つようです。)
最後に残るキオクシアは、もともと東芝の半導体メモリ部門だったので、もしかしたら先端ロジック半導体の技術を持っているかもしれませんが、それでも世界の最先端ロジック半導体を作る技術は持っていないのではないかと考えられます。もし最先端ロジック半導体を製造する技術を持っているのであれば、ロジック半導体を製品化しているはずです。ラピダスという形で、国産の最先端半導体を作るための会社を作ろうとしているくらいなので、キオクシア自体も先端ロジック半導体を製造する技術は持っていない可能性が高いと考えられます。(あとで詳しく書きますが、ソニーもキオクシアもラピダスに出資しているくらいです。)
このように考えると、ソニー・キオクシア・ルネサスエレクトロニクスのどの会社にも、世界の最先端ロジック半導体の研究開発をしているエンジニアはおそらくいないといえます。この3社が日本の大手半導体デバイスメーカーなので、これら3社を除いた会社で最先端ロジック半導体の研究開発をしているエンジニアがいる可能性は限りなく低いです。
つまり、IBMから技術を提供してもらったとしても、その技術をもとにロジック半導体の開発を進める「人」が国内にはいないわけです。これは、ラピダスの主な事業内容にもにじみ出ています。主な事業内容が3つあり、その3つ目に「半導体産業を担う人材の育成・開発」とあります。普通、人材の育成・開発を事業内容に入れる会社って無いですよね。人材の育成・開発を主な事業内容に含めないといけないということは、国産の先端半導体を製造する会社を作るという高尚な理念とは裏腹に、日本国内に先端半導体の研究開発ができる人材がいないことをはっきりと示しています。
まとめると、先端半導体の研究開発をするエンジニアがいないというのがラピダスの直面する2つ目の課題です。
最終的な決定を誰がするのかわからない
ラピダスが直面するであろう課題の3つ目としては、最終的な決定を誰がするのかわからないということがあります。というのは、ラピダスはどこかの会社の子会社ではなく、複数の会社が出資して作られる新しい会社です。
ラピダスを設立するに当たって出資したと言われているのが、この8社です。
- トヨタ自動車
- デンソー
- ソニーグループ
- NEC
- NTT
- ソフトバンク
- 三菱UFJ銀行
- キオクシア
そして、ラピダスの会長と社長には、この8社の出身ではない方が就任されます。これは何を意味するのかというと、株主(出資者)と経営者が分離しているので、経営者の決定権が強くないことを意味しています。
出資した8社をよく見ると、4つのグループに分けることができます。
自動車関連産業の「トヨタ自動車・デンソー」、通信関連会社の「NEC・NTT・ソフトバンク」、銀行の「三菱UFJ銀行」、半導体デバイスメーカーの「ソニーグループ・キオクシア」です。それぞれ、会社がラピダスに出資した目的について考えていきます。
1つ目の、自動車関連産業のトヨタ自動車とデンソーです。この2社は、自動車産業の超大手メーカーです。ラピダスに出資する目的があるとすれば、「自動車産業への半導体の優先および安定供給」です。半導体デバイスメーカーと自動車メーカーで半導体に対する考え方は全く違います。
半導体デバイスメーカーは、半導体デバイス自体が製品で高い値段で買ってくれる顧客に売ることが、一番利益が高くなります。一方、自動車メーカーからすると、半導体は自動車のための一部品にすぎません。ですから、できるだけ安価で自動車メーカーが必要な時に必要な数量が供給されることが、理想的な姿です。
半導体デバイスが受注を受けてから製品として出てくるまでの期間は、数か月かかるのが普通です。そうすると、自動車メーカーからの要求にこたえるためには半導体デバイスメーカーとしては在庫をある程度持つしかありません。だから、本当は自動車メーカーのジャストインタイムと、半導体デバイスメーカーの考え方は相いれないはずなんです。しかし、半導体不足の影響で完成車の納期が延びる経験をしたことから、トヨタ自動車やデンソーは先端半導体の安定供給が必要だと考えてラピダスに出資することになったのでしょう。
2つ目は、通信関連会社の「NEC・NTT・ソフトバンク」について考えていきます。
これらの通信関連会社が、ラピダスに出資した理由は、先端半導体の優先供給を受けたいからだと考えられます。通信関連産業では、通信環境を整備するときに必ず半導体が必要となります。かなり、処理速度の速い半導体が必要とされるのが常です。
みんながスマホとして、iPhoneを持っているのに、iPhoneがアクセスするときに使う通信事業者の回線や、アクセス先のサーバーの処理速度がiPhoneより遅いなんてことになったら困りますよね。というわけで、通信関連会社が先端半導体の会社に出資すること自体は理解します。出資した以上、自社が必要な時に優先的に先端半導体を確保したいという狙いが見え見えですが、出資することで将来的に先端半導体が確保することができる可能性があるとすれば(ラピダスが先端半導体を作れるようになればの話ですが)合理的な判断です。
3つ目、銀行の「三菱UFJ銀行」です。銀行が入っている理由ははっきりわかっていて、半導体デバイスの開発と工場建設には、莫大な投資が必要となるので、そのお金を借りるための銀行という意味です。
とはいえ、半導体産業はシリコンサイクルに代表されるような浮き沈みの波が激しい業界なので、銀行側に出資するメリットがあるのかどうかよくわかりません。
4つ目は、半導体デバイスメーカーの「ソニーグループ・キオクシア」です。ソニーは大きい会社なので、半導体部門以外にもたくさんの事業部を持っていて、統括してるのがソニーグループなのでソニーグループ名義での出資になっていると考えられます。
ソニーとキオクシアに関しては、日本国内で先端半導体の供給を受けられると考えればメリットはあるのかもしれませんが、どちらかと言うと「自社の中で先端半導体の開発を行う選択肢は無かったのか?」と感じてしまいます。
2社とも、工場も持っていて半導体デバイスの研究開発を行っているメーカーですから、本来は自社の中で先端半導体の開発を行う部署を作って、そこから製品化につなげていくべき立場なはずです。
ラピダスに出資して、「国内で先端半導体の供給ができるようになったら、優先的に供給してね」という立場ではなく、「先端半導体を自社で開発して製品化までもっていく」という考え方であるべきだと個人的には感じます。工場も建っていないラピダスですら、IBMと提携して技術的な協力ができることを考えると、ソニーとキオクシアは、自社向けに本気で先端半導体を確保したいと思っていないのではないかと感じてしまうくらいです。
ここまで、ラピダスに出資した8社について4つのグループに分けて、それぞれの立場を見てきました。銀行以外は、自社向けの先端半導体を確保したいという大きな目的は一緒ですが、それぞれの会社の立場が大きく違います。これだけ目的が違うと、経営が苦しくなったときに、意思決定をするのが困難になることが予想できます。
トヨタとソフトバンクでは立場や目的が違うでしょうし、それぞれの企業文化も違います。これだけ、文化や立場が違う会社が集まって出資していて、意見をまとめるだけでも困難でしょうし、創業者がいるような会社ではないので、強烈なリーダーシップを取ることも期待できません。
そうすると、会社間の立場の違いから意思決定が困難になって、結局は先端半導体の製造を行うところまでいきつく前に、巨額赤字を出して実質的に国有化されてしまう可能性だって考えられます。このように考えると、技術的な困難さ以外にもラピダスが上手くいかない可能性は高いと言わざるをえません。というか、どうやったらうまくやることができるのか、方法が思いつかないくらいです。
ではどうしたらいいのか
さて、ここまではラピダスが直面する3つの課題について解説してきました。今のままの枠組みでは、私は先端半導体の製造まで行きつくことは困難だと考えています。それでは、国内で先端半導体を本気で作ろうとしたら、どんな方法があるのか考えました。できないと言っていても仕方がないので、3つの方法を提案します。
半導体デバイスメーカーが自社の事業として先端半導体を作る
まず、1つ目の方法としては、現在日本で大手の半導体メーカーが自社の事業として先端ロジック半導体の開発を始めることです。具体的には、ソニーかキオクシアが自社の事業として、先端ロジック半導体の開発をすることになります。(ルネサスエレクトロニクスは、2018年に先端開発から撤退しているのでここでは除外します。)
私が、この2社が先端ロジック半導体の開発を行うべきだと考える理由は、2社とも主力製品はCMOSイメージセンサやNANDフラッシュメモリで、先端半導体を直接使っているわけではありませんが、高速なデバイス動作のためには必ず先端半導体が必要になるからです。
現時点では、TSMCなどに外注して製造していて問題ないのかもしれませんが、TSMCから先端半導体が調達できなくなった場合、自社製品の高速デバイスを調達できなくなるリスクが出てきます。
もし仮に、台湾にあるTSMCの工場が何らかの有事(戦争に限らず、地震等の天災のリスクもあります)で製造が止まり先端半導体が調達できなくなった場合、最悪の場合自社製品が作れなくなります。
有事が無かったとしても、他に調達先が無い場合価格が下がることは無いでしょう。先端半導体を製造できるメーカーは、現時点ではTSMC・Samsung・Intelくらいしかありません。運が悪いことに、ソニーのCMOSイメージセンサはSamsungがライバルですし、キオクシアのNANDフラッシュメモリもSamsungがライバルです。
とすると、TSMCから先端半導体が調達できなくなった場合、2社ともライバルメーカーから先端半導体を調達せざるを得なくなります。Samsungの立場からすれば、自社のライバルメーカーに供給しないことは無いでしょうが、自社を脅かすような勢いを持っている会社を利することはしないでしょう。とすると、ソニーもキオクシアも自社で先端半導体を製造できる方向性で開発を進めるべきであることがわかると思います。
ソニー・キオクシアが先端半導体の開発を自社で行うのが理想的ですが、ラピダスに出資はするものの、自社で先端半導体の開発に乗り出すというニュースが流れてこないことから、現実的ではないのかもしれません。
国営企業を立ち上げる
ソニー・キオクシアが自社で先端半導体の開発を目指さないのであれば、次に成功する可能性があるのは、先端半導体開発のための国営企業を立ち上げることです。現代に、わざわざ国営企業を立ち上げるのは時代に逆行しているように見えるかもしれませんが、本気で先端半導体の開発を進めるようとするのであれば、資金には糸目をつけないくらいの気合の入れようでなければ困難です。
なぜ、資金に糸目をつけないくらいの勢いが必要なのかと言うと、先端半導体の開発にかかる費用が莫大だからです。例えば、先端半導体に使われると言われる装置で、EUV露光機というものがあります。(この記事では、細かく書きませんがものすい波長の短い光を使って、非常に細い線幅で線を描くための装置です。)EUV露光機は、1台100億円すると言われています。
本格的に量産をするのであれば、1台100億円するような装置を工場に何台も並べないといけません。それだけで、気が遠くなるような金額になります。半導体製造に必要な装置は、1台数億円するようなものがたくさん必要なわけで、資金力が無いと莫大な設備投資を利益で回収するまでキャッシュフローが持ちません。
つまり、設備投資や研究開発にかかる資金は国としてバックアップしたうえで、国産の先端半導体を製造できるところまでもっていかないと、途中で計画が頓挫してしまう可能性がかなり高いです。
とはいえ、ラピダスを作るときに国営企業にならなかった以上、先端半導体を製造する会社が国営企業となるのは一度資金ショートして倒産してからになってしまうかもしれません。そうなってからでは、時すでに遅しなんですが。
TSMCから人を引き抜く
最後の手段として考えられるのが、TSMCの技術者を高給で引き抜くことです。
高給と言っても、日本のエンジニアの感覚ではどうしようもないでしょう。年俸1億円程度を払う覚悟でTSMCのエンジニアをラピダスに招いて、キーとなっている製造プロセスや回路設計について教えを乞うくらいしか方法がありません。10人引き抜けたとして年間10億円ですからかなりの額になりますから、経営者のトップダウンで決めないと実現しないでしょうが、先端半導体を製造できるようにするにはこれしか方法がないです。
そもそも、手元に技術と人がいない状態からスタートするわけですから、なりふり構わずお金を突っ込んで何とか技術を手に入れないと、先端半導体を製造できるようにはならないでしょう。
現状の最先端からスタートすべき
ここまで、国内で先端半導体を製造できるようにするにはどうしたらいいのかについて、3つの方法を提案してきました。本気でやろうとするのであれば、3つの提案のうちのどれかを採用しないと厳しいと私は考えています。しかし、3つの提案とも現実性は低いとも感じます。そこで、ロングスパンで日本が国内で先端半導体を製造できるようになるためにどうしたらいいかについて考えていきます。
まず最初にするべきことは、日本国内にある半導体工場の中で最も先端のプロセスを作れる工場と、そこで作っている製品を明らかにすることです。
かつて、日本の電機メーカーが先端半導体の研究開発および製品化をしていた時代には、各社がそれぞれのプロセスで先端半導体を製造する工場を作っていました。現在、日本国内で作れるロジック半導体の最先端品がどの程度なのか、もはやわかりません。
ただ、歴史的な経緯を見て、ソニーが東芝と共同でPS2のCPUを作っていたのが65nm世代で、ルネサスエレクトロニクスが那珂工場で作っているのが40nm前後の世代だと考えると、感覚的には国内で作れる先端半導体は40-65nmプロセスくらいが限界なのではないかと思います。(正確なところは、本当に国内の半導体工場でどんな製品が今でも作られているかを確認しないとわかりませんが、そんなことは各社が自社の技術を公開するようなものなので、国が強制的に調査でもしない限り事実上不可能でしょう。)
国内で、FinFET(FinFETというのは三次元的にシリコン基板を加工した部分を作って、そこにトランジスタを作ることのことを言います。別記事で解説予定ですが、興味がある方はwikipediaのリンクを貼っているので読んでみてください。)を作って製品化していた会社は無かったはずなので、そのことを考えてもせいぜい40nm程度がいいところでしょう。
もし本当に国内で先端ロジック半導体製造を目指すのであれば、まずは現在製造できる一番進んだプロセスを共有して、その製造技術からスタートするのが一番現実的なのではないかと私は考えています。その理由は、ラピダスが作ろうとしているのは世界の中でも最先端のロジック半導体で、技術的な困難さが段違いです。(というか、国内の半導体のエンジニアですら、開発するにあたって何から着手すればいいのかわからないレベルだと思います。)
なので、国内に40nm以降のプロセスを作っている会社が無いことから、40nmプロセス付近からスタートして、先端開発に急激に追いついていくような道筋を描かないと、「結局作れませんでした」ということになりかねないと感じています。逆に言うと、2023年ですら世界の最先端ロジック半導体を製造できる企業は、TSMC・Samsung・Intelの3社程度なので、まずは日本国内で作れる最先端から足元を固めて技術開発を行って、10年後に追いつくようにするしか、正直なところ日本国内で先端半導体を製造できるようになる方法は無いのではないかと考えています。
まとめ
今回の記事では、日本で最先端半導体の製造を目指す会社として作られたラピダスが、国産最先端半導体を作ることができるのかついて解説しました。結論を言うと、ラピダスが国産最先端半導体を作ることはほぼ不可能です。理由としては、「技術が無い」「人がいない」「出資社の利害関係がバラバラ」の3つです。
ラピダスが、国内で最先端半導体を作ることはかなり難しいと思いますが、方法が無いわけではないと思い、3つの提案をしました。とはいえ、かなり苦しいです。あと10~15年早ければ、少し違ったかもしれませんが、国内で最先端の半導体開発が行われなくなってから時間が経ちすぎてしまったように思います。
おわりに
長くなりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。記事の中でよくわからない点がありましたら、コメント欄かお問いあわせフォームからご連絡いただければお返事できるようにいたします。半導体関連の記事を関連記事で紹介しています。興味があれば読んでいただけると嬉しいです。Twitterもやっているので、面白かったらフォローお願いします。
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