みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
今回は、ウエスタンデジタルの2023年度第二四半期の決算から見た半導体メモリ業界の調子について書いていきます。
ウエスタンデジタル(長いので以後は省略してWDと書きます)という会社名を聞いたことが無い方もいらっしゃるかもしれませんが、フラッシュメモリ業界では有名で日本のキオクシアと協業している会社です。キオクシアと協業しているWDの決算内容を一通り見たあと、キオクシアとWDを比較していきます。
キオクシアの2023年度3Qの決算については、こちらの記事で詳しく紹介しています。興味があれば読んでみてください。

半導体業界に興味がある方や転職してみたい方は、こちらの記事も読んでみてください。

2023年度2Q決算
WDの2023年度2Q決算の内容を見ていきます。WDは決算期が7月始まりの6月終わりなので、今回紹介するのは2022年の10月から12月の3か月間の決算で、2023年度6月期の第二四半期となります。
WDの決算は、こちらのサイトで見ることができます。アメリカの会社なので全て英語で書かれています。
https://investor.wdc.com/financial-information/earnings-documents
WDはアメリカの会社なので、米ドル単位での決算です。当たり前といえば当たり前なんですが、円換算すると使う為替レートで見かけが変わってくるので、米ドル単位で表記します。売上高・営業利益・当期純利益はこのとおりです。

2023年10~12月のドル円レートをざっくり140円だと考えると、売上高は4349億円(円換算)くらいになります。また、営業利益は449億円(円換算)の赤字、当期純利益は624億円(円換算)の赤字となります。
WDの詳しい事業内容についてはこのあと詳しく解説しますが、基本的にはフラッシュメモリとハードディスクを作っている会社です。フラッシュメモリの需要の減少が業績にダイレクトに効いてきて、営業利益が赤字になっていると考えられます。とりあえず、2023年度2Qの決算としては、大幅な赤字決算になっていることがわかりました。
WDの事業内容
次に紹介するのが、WDの事業内容です。WDは、もともとハードディスクを作っている会社でした。その後、フラッシュメモリのメーカーだったSanDiskという会社を買収して、ハードディスクとフラッシュメモリを作る会社になりました。ハードディスクとフラッシュメモリを作っているところを見ると、何かを記憶する媒体であるストレージを作ることをメインにしている会社であることがわかります。
つまり、WDのメインの事業としてはハードディスク事業とフラッシュメモリ事業があります。これらの合算として、WD全体の決算が決まります。キオクシアの決算の記事で少し触れましたが、キオクシアはフラッシュメモリ製造しかしていないのに対して、WDはフラッシュメモリとハードディスクの両方を作っているので、どちらかの事業の採算が悪化しても、もう片方の事業が好調であれば赤字を補填することができます。
財務状況
さて、キオクシアは上場していない会社だったので、財務関係の書類を公開する義務はないので最低限の情報開示にとどまっていました。(最低限と言っても、売上高・営業利益・当期純利益は出しています。) しかし、WDはアメリカで上場している会社なので、財務関係の書類を公開する必要があります。
財務関係の書類として代表的な、貸借対照表と損益計算書が公開されていたのでこの2つを読んでWDの財務状況を見ていきます。
貸借対照表と損益計算書のおおまかな読み方については、こちらの記事で解説しています。貸借対照表や損益計算書を全く読んだことが無い方は参考に読んでみてください。

まずは、2023年度2Qの貸借対照表から見ていきましょう。
細かく見ていくと大変ですが、ざっくり見ていきます。会社が持っている手元の現金を表す、「現金および現金同等物」は18億ドルくらいです。日本円換算(1ドル140円として)すると、2520億円くらいです。
流動資産が83.81億ドル、非流動資産が166.66億ドルで、総資産が250億ドルとなっています。1ドル140円だとすると、総資産3.5兆円クラスの会社だと考えるとかなり大きいことがわかります。製造業であることから、非流動資産が大きくなっているのはそれほど驚くことはありません。
負債の側を見てみると、流動負債は43.82億ドル、固定負債は85.50億ドルとなっていて、株主資本121.15億ドルとなっています。少なくとも借金が返せずに下手すると債務超過になるような状況ではないことがわかります。
次に、損益計算書を見ていきます。
売上高が31.07億ドルで売上原価が25.79億ドルとなっていて、粗利益が5.28億ドルです。
ここから、営業にかかった経費として研究開発費・販管費・その他費用がトータル8.49億ドル差し引かれて、営業利益としては3.21億ドルの赤字となっています。研究開発費として5.23億ドル掛かっているので、販管費とその他費用の分がそのまま赤字になっているようです。
営業利益から、その他の費用を差し引いて最終的な純利益は4.46億ドルの赤字となっています。1ドル140円で計算すると624億円の赤字ということになります。
直近の業績トレンド
WDは、ハードディスクとフラッシュメモリのそれぞれについて、売上と粗利を公表しています。直近4四半期のトレンドをハードディスクとフラッシュメモリ別に見ていきます。
2022年度2Qから2023年度2Qまでの売上高はこのようになっています。

グラフの中で、フラッシュメモリとハードディスクの売上をそれぞれ青色とオレンジ色で示しています。ここ1年の売上を見ると、フラッシュメモリとハードディスクのどちらも下がっているように見えます。2つを比較すると、ハードディスクの売り上げの減少が顕著に見えます。
次に、粗利益について見ていきます。

粗利益は、売上高と比較すると落ち方が急激に見えます。特にフラッシュメモリの粗利益の落ち方が急激です。2022年度4Qから2023年度1Qの落ち方も激しいですが、そこから粗利益が下げ止まらずに2023年度2Qでさらに落ち込んでいます。
ハードディスク部門は、2023年度1Qまでは安定して6億ドル程度の粗利が出ていましたが、2023年度2Qでガクッと粗利が減っています。おそらくですが、ハードディスク部門の粗利益の減少が大きかったため、フラッシュメモリ部門の粗利益の落ち込みをリカバーできず、2023年度2Qは全体として赤字になってしまったんだと考えられます。
最後に、売上高に対する粗利益の比率(粗利益率)を出しました。

粗利益率を見ると、2022年度4Qまではフラッシュメモリの方が高く30%台後半となっています。うまくいっているときは、フラッシュメモリの方が稼げることがわかります。一方、ハードディスクは30%前後の粗利益率をコンスタントに出しています。どちらも、2023年2Qに粗利益率自体が急減しています。フラッシュメモリとハードディスクの粗利益率の落ち方を比べると、フラッシュメモリの方が急激であることがわかります。
正直、フラッシュメモリの利益率の落ち方は2023年度3Qで0%になるんじゃないかと思うくらいの落ち方をしているので、売っても利益が出ないくらいのレベルに近づいているのではないかと考えられます。2023年度3Qで粗利益率が回復すればいいですが、次の四半期も2023年度2Qレベルの粗利益率が続くとなかなか厳しい状況が続くと考えられます。
キオクシアの業績との比較
ここまで、WDの直近の業績について見てきました。WDと協業しているキオクシアの決算と比較してみます。
WDは、ハードディスク部門とフラッシュメモリ部門の合算で決算を出しているので、WDについてはフラッシュメモリ部門だけでの数字を比較します。といっても、キオクシアが出している決算情報が少なすぎるので、売上高だけの比較となります。
1ドル140円換算で考えると、WDのフラッシュメモリ部門の売上高は16.57億ドル、キオクシアの売上高は19.87億ドルです。キオクシアの方が売上自体は高いことがわかります。
WD全体とキオクシアの当期純利益は、WDがハードディスク部門を持っているので単純比較はできません。とはいえ、単純比較はできないことを念頭に置いたうえで当期純利益を比較すると、WDは4.46億ドルの赤字で、キオクシアは6.04億ドルの赤字です。
WDがハードディスク部門が少しリカバーしているとはいえ、キオクシアの方が売上高が高いのに赤字額が多いという少し不思議な現象が見えてきました。
WDはキオクシアから供給されたウエハを買っているはずなので(WDの決算資料に書いてありました。説明すると長くなるので、別記事で書きます。)、キオクシアもWDもフラッシュメモリの原価としてはそれほど変わらないはずです。それなのに、WDよりキオクシアの方が赤字額が大きいということは、販路が違うせいなのか、販管費が違うのか、経営の仕方が効いているのかわかりませんが、WDの方がうまく経営しているように見えます。
キオクシアとWDの違いがどこにあるのかは判然としませんが、少なくとも2社ともフラッシュメモリの売上高が減少し赤字を計上していることから、半導体メモリ業界の売上減少はかなり急激だったことがわかります。
次の決算発表は2023年4~5月頃に行われるはずですが、次の決算でも半導体メモリの売上が回復しないと、半導体メモリ業界のメーカー間のチキンレースが始まることになるかもしれません。四半期で数百億円赤字が出る事業を続けるのは、資金が続くかが一番の鍵になるでしょうから、メーカー間の資金力勝負といったところになるでしょう。
まとめ
今回の記事では、ウエスタンデジタルの2023年度第二四半期の決算から見た半導体メモリ業界の調子について書きました。2023年度1Qからフラッシュメモリ部門の売上高が減少していて、2023年度2Qはかなり厳しい決算で赤字になっていました。フラッシュメモリの売上の減少はキオクシアだけではなく、競合他社でも影響がかなり強いというのが結論です。
おわりに
長くなりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。記事の中でよくわからない点がありましたら、コメント欄かお問いあわせフォームからご連絡いただければお返事できるようにいたします。。Twitterもやっているので、面白かったらフォローお願いします。
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