みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
今回は、Samsung Electronics(サムスン電子)の2022年4Qの決算について書いていきます。サムスン電子は1月始まり12月終わりの決算を採用しているため、2022年10月から12月の四半期の決算になります。
サムスン電子についてはご存知の方も多いと思います。韓国最大の財閥のサムスングループの中核企業で、半導体をはじめとした電子機器を作っているメーカーです。
半導体メモリを作っている会社の中では一番規模が大きく、巨人のような存在です。半導体メモリとしては、DRAMとNANDフラッシュメモリがあります。DRAMとNANDフラッシュメモリの違いについては、こちらの記事で解説しています。

サムスン電子はDRAMとフラッシュメモリ以外にも半導体を作っていますが、今回は半導体メモリに絞って解説していきます。半導体メモリを作っている会社は、DRAMとフラッシュメモリ含めて5社あります。
- サムスン電子(韓国)
- SK Hynix(韓国)
- Micron(アメリカ)
- ウエスタンデジタル(アメリカ)
- キオクシア(日本)
サムスン電子以外の会社の業績についてはこちらで解説しています。




半導体業界に興味がある方や、転職してみたい方はこちらの記事もぜひ読んでみてください。

サムスン電子の事業内容
さて、2022年4Qのサムスン電子の決算を見ていく前に、サムスン電子の事業内容について紹介します。というのは、これまでの半導体メモリメーカーは半導体メモリ専業or半導体メモリ+ハードディスクの会社でした。つまり、会社の業績に対して半導体メモリが及ぼす影響がわかりやすかったんですね。
しかし、サムスン電子は半導体として半導体メモリ以外にも、ロジック半導体やファウンドリーの事業も行っています。また、会社全体で見ると冷蔵庫・テレビのような家電製品から、スマートフォンのような通信機器、ディスプレイまで作っています。他の半導体メモリメーカーと比べて、会社が何の事業をしているのかを理解できないと決算書類が読めないです。
というわけで、サムスン電子の事業部を紹介します。事業部はこちらの4つです。
- DX(Device eXperience):デジタルテレビ・冷蔵庫・携帯電話・通信システム
- DS(Device Solutions):メモリ・ファウンドリ・システムLSI
- SDC:ディスプレイパネル製品
- Harman:オーディオ製品等
どの事業も大きいんですが、半導体メモリとして着目するのはDS事業です。DS事業の中には、半導体メモリ以外にも、ファウンドリとシステムLSIも込々で入っています。ファウンドリというのは外部の会社から受託して半導体のチップを生産する事業です。例えば、台湾のTSMCがファウンドリで一番大きな会社です。システムLSIは、スマートフォンやパソコンのCPUに使われている先端のチップを作る事業です。
ファウンドリとシステムLSIについては、さらっと説明するのが難しいので別記事で詳しく解説しようと思います。
2022年4Q決算
サムスン電子が大きいことや、事業部について紹介してきましたが、2022年4Qの決算を見てみましょう。
サムスン電子の決算はこちらのページから見ることができます。サムスン電子は韓国の会社ですが、決算書類はちゃんと英語で書いてあります。
https://www.samsung.com/global/ir/financial-information/earnings-release/
サムスン電子は他の会社と違って、半導体事業全体(DSという名前になっています)の売上高と営業利益は出していますが、メモリ単体での営業利益は公表していません。メモリ単体での売上高は出しているんですが、DRAMとフラッシュメモリの売上高比率は公表されていないので、細かいところはよくわからないのが実情です。
DS全体の売上高・メモリ事業の売上高・DS事業全体の営業利益はこちらになります。

単位が兆ウォンなので、感覚がつかみにくいかもしれませんが為替レートからざっくり1ウォン=0.1円くらいだと見積もって考えてみます。DS全体の売上高は、4Qで2兆円クラスで、メモリの売上高が1.2兆円クラスです。圧倒的に規模が大きいです。キオクシアの年間の売上が1~1.5兆円くらいなので、サムスン電子は3か月でキオクシアの1年の売上を出していることになります。
DS全体の営業利益を見ると、0.27兆ウォンなので日本円換算すると270億円くらいです。この決算だけを見ると、四半期で2兆円クラスの売上高を出しながら270億円クラスの営業利益なので1~2%の営業利益率に見えるので、サムスン電子のDS部門の利益率が非常に低く見えてしまうかもしれません。
しかし、他の半導体メモリ業界の会社の業績の記事を読まれた方であれば、見え方が変わると思います。サムスン電子は、ギリギリですが半導体部門で赤字になっていないんです。もちろん、DS部門の営業利益にはファウンドリとシステムLSIの利益も合算されているので、フラットな比較になっていないことは明らかです。それでも、半導体部門がギリギリ黒字になっているんです。これが、半導体メモリ業界でトップシェアを持っていて、ファウンドリやシステムLSI作れるサムスン電子の強さなんだと思います。
財務状況
次に、サムスン電子の財務諸表について見ていきます。貸借対照表と損益計算書は、会社全体(4つの事業部の合算です)で出されているので、DS部門だけの数字は見えてきません。ただ、会社の規模感を見ることはできるので参考として見てみます。貸借対照表と損益計算書を読んだことが無い方向けに、こちらの記事でざっくり読み方を解説しているので、興味があれば読んでみてください。

損益計算書を見ると、売上が70.46兆ウォン、粗利が21.84兆ウォン、営業利益が4.31兆ウォンとなっています。日本円換算して考えても、四半期で7兆円くらいの売上があって、営業利益が4000億円近く出せる会社です。DS部門の売上が急減していても、会社として4000億円クラスの利益が出せる仕組みになっているのは、驚きです。
これだけ見ても、半導体メモリ業界の会社の中では圧倒的に規模が大きい会社です。
次に、貸借対照表を見てみます。
流動資産の中で、会社の持っている現金を示す「現金及び現金同等物」は49兆ウォンです。規模が大きいとはいえ、5兆円近い現金を持っているわけです。流動資産は218兆ウォン、非流動資産が229兆ウォンで、資産合計が448兆ウォンとなっています。会社の総資産が日本円換算だと45兆円近いわけです。
負債は93兆ウォン(約9兆円)で、資本が354兆ウォン(約35兆円)となっています。やはり、驚愕の大きさの会社の規模です。
ちなみに、トヨタ自動車の2023年3月期の3Q決算短信の中の貸借対照表を見てみると、総資産71兆円、負債43兆円、資本28兆円となっていました。サムスン電子はトヨタ自動車より総資産は少ないですが、負債が圧倒的に少ないので、非常に企業規模も大きいですし、借金が少ない会社だと言えます。
直近の業績トレンド
サムスン電子の直近4四半期分の業績トレンドを見てみます。
まずは、DS部門全体の売上高・メモリだけの売上高・DSの売上高-メモリの売上高をグラフにしたのがこちらです。DSの売上高-メモリの売上高は、決算資料のデータから計算して私が作りました。

グラフを見るとわかるように、DS全体の売上高はメモリの売上高に連動しています。やはり、DS部門の売上の大部分をメモリの売上が占めていることがわかります。一方、DS全体からメモリの売上を引いたものは、2022年1Qから大きな変動が無く、むしろ売上高は増えています。
DS全体の売上高からメモリの売上高を引いたものは、ファウンドリとシステムLSIの売上を示していると考えられ、利益率はわかりませんが売上は堅調に推移していることがわかります。
次に、DS全体の営業利益の推移を見てみます。グラフにするとこのようになります。

DS部門の売上高は2022年2Qを頂点に、直線的に落ちています。きれいに直線が書けそうなくらい急激な落ち方をしています。2022年4Qはギリギリ赤字になっていませんが、2022年2Qと比べると2022年4Qを比較すると10兆ウォン営業利益が減少しています。10兆ウォンはおよそ1兆円に相当するので、半年で営業利益が1兆円蒸発したことになります。
この2022年2Qから4Qにかけての営業利益の落ち方は、MicronとSK Hynixの決算でも見られた落ち方です。
DRAMを作っている3社の営業利益の落ち方が直線的なのが印象的です。業界最大手であるサムスン電子ですら、売上高の減少の影響をダイレクトに受けていることがわかります。もう少し分析してみる必要がありますが、DRAMの売上高が急減していることが原因なのかもしれません。
他社の場合は、DRAMとフラッシュメモリの売上高の推移を見ていますが、サムスン電子ではメモリの売上の内訳が公表されていないので、見ることができないのが残念です。
サムスン電子の強み
ここまで、サムスン電子の直近4四半期の業績トレンドを見てきました。サムスン電子も半導体メモリ業界の市況の低迷の影響を大きく受けていることがわかります。
しかし、半導体メモリで最大手であるサムスンはファウンドリとシステムLSIと合算していますが、DS事業で黒字になっているのが強みです。他社が直近の四半期で赤字を出しているのを考えると驚異的です。
まとめ
今回の記事では、サムスン電子の2022年4Qの決算についてについて書きました。2022年4Qでは半導体メモリの売上が急激に減少していて、半導体メモリは市場全体として急激に売上高が落ちていることがはっきりわかるというのが結論です。サムスン電子でも売上の急減には抗えず、大幅に利益を落としているのを目の当たりにして、半導体メモリ業界の厳しさを感じさせられます。
おわりに
長くなりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。記事の中でよくわからない点がありましたら、コメント欄かお問いあわせフォームからご連絡いただければお返事できるようにいたします。。Twitterもやっているので、面白かったらフォローお願いします。
半導体業界に興味がある方や、転職してみたい方は是非こちらの記事も読んでみてください。

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