半導体のプロセスノードでよく使われる○○nm世代の数字は何を意味しているのか

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この記事では、ロジック半導体のプロセスでよく言われる○○nm世代の意味について解説していきます。最近で言うと、2nmプロセスが最先端だと言われていますが、この2nmの”2″は何を意味しているのかということです。

結論としては、昔はトランジスタのゲートの長さを○○nmで示していましたが、当時とトランジスタの構造が変わってしまったので、あまり○○の数字には意味が無く、数字が小さくなれば先端のプロセスというくらいの意味になっています。

ラピダスがやろうとしている、2nmプロセスについてはこちらの記事で解説しています。

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目次

トランジスタの構造

半導体と一口にいっても、色々な半導体があります。その中で、パソコンやスマホのCPUに使われる計算用の半導体をロジック半導体と言います。半導体ざっくり分けると、ロジック半導体を含めて4種類あります。

  • ロジック半導体
  • メモリ半導体
  • パワー半導体
  • アナログ半導体

ロジック半導体の中には、簡単に言うとトランジスタがたくさん積まれています。

トランジスタは、簡単に言うと電気的なスイッチです。ONしたい時にONできて、OFFしたい時にOFFできるのが理想です。

トランジスタはこんな構造をしています。

トランジスタは、ドレインに常に電圧がかかっている状態でゲートに電圧を掛ければソースからドレインに電流が流れて、ゲートに電圧がかかっていないときには電流が流れないような使い方をします。

灰色になっているのは、基板でロジック半導体の場合はシリコンが使われることが多いです。ゲートとシリコンの基板の間は、二酸化ケイ素(SiO2)の絶縁膜が挟まれています。

ゲートに電圧をかけることで、ソースやドレインからゲートに電流は流れていないのに、ソースからドレインに電流を流すことができます。

ゲートに電圧をかけて、ソースからドレインに電流が流れたときを図にするとこんな形になります。

一方、ゲートに電圧をかけていないときは、ソースからドレインに電流は流れないので、こんな形になります。

ざっくりまとめると、ゲートに電圧をかけた時には電流が流れて、電圧を掛けないときには電流が流れないようなスイッチの役割をトランジスタはしています。

歴史的な流れ

トランジスタの簡単な構造について説明したので、半導体プロセスの○○nmの○○の意味について見ていきます。半導体屋さんは、○○nmのプロセスのことをプロセスノードと言い、○○nmプロセスという言い方をします。

もともとは、○○はトランジスタのゲートの長さのことを言っていました。しかし、今はトランジスタの構造が変わってしまったので、○○の部分はゲートの長さを意味していません。

昔はトランジスタのゲートの長さを示していてわかりやすかったので、20年くらい前の世代から見ていきます。

20年くらい前の2003年は、最先端のプロセスノードは90nmでした。この辺までは、日本のメーカーも最先端のロジック半導体を作っていました。

その次の世代が、65nmプロセスです。このプロセスを使っている製品で、世界的に普及したのがSonyが発売したPlaystation 3です。

65nmプロセスの次にくるのが、45nmプロセスです。65nmプロセスくらいまでは、普通のトランジスタの構造をしていました。45nmプロセスあたりから、絶縁膜やゲートの電極の材料が変わってきます。

45nmプロセスあたりから、絶縁膜がSiO2からHigh-k絶縁膜へ、ゲート電極が多結晶シリコン(Poly-Si)から金属へそれぞれ変わっていくようになりました。(詳しくはHigh-k Metal Gateのところで解説します。)

そして、High-k絶縁膜と金属のゲート電極が導入されたあとに、トランジスタの構造がガラッと変わりました。今までのトランジスタの形をプレーナー型と言いますが、14nm世代あたりからは、FinFETという構造に変わっています。(Fin FETのところで解説します。)

トランジスタの構造がFinFETに変わってしまったので、プロセスノードの数字が、ゲートの長さと対応しなくなり、今となってはあまり意味のない数字になってしまったんです。

そして、2023年現在で量産されている最先端のプロセスは3nmです。今後、2nmプロセスの製品が量産開始されるとアナウンスされています。

昔のトランジスタ

FinFETが導入される前は、プロセスノードの数字はトランジスタのゲートの長さを示していました。

トランジスタのゲートの長さを図に示すとこのようになります。

ゲートの長さがプロセスノードの数字なので、わかりやすいです。トランジスタは、ゲートの長さを短くして、ゲート直下の絶縁膜の厚さを薄くすると性能が上がります。(理由を説明すると非常に長くなるので、ここではそういうものだと思ってください。) 歴史的な流れを見ても、FinFETが導入されるまではゲートの長さを短くすることが続いていました。

ゲートの長さを短くするのは、言うのは簡単ですが、単純にゲートの長さを短くするだけではトランジスタとしての機能を果たさなくなってしまう問題があります。

簡単に言うと、ゲートの長さを短くするとソースとドレインの距離が近づくので、ゲートをオンしていなくてもソースとドレインの間に電流が流れてしまうようになってしまうんです。

それでもソースとドレインの間を近づけようとすると、ゲートの支配力を強くする必要があります。ゲートの支配力を上げるには、ゲート直下の絶縁膜の厚さを薄くする必要が出てきます。

昔のトランジスタでは、ゲート直下の絶縁膜にはSiO2(二酸化ケイ素)が使われていました。SiO2は、ガラスに使われている材料で、かなり安定しています。実は、シリコンを高い温度で酸化することで作ることができます。

そういうわけで、ゲートの長さを短くして、ゲート直下の絶縁膜を薄くすることを極限まで行っていくと、1つ問題が出てきました。

物理の量子力学の内容になってしまうんですが、トンネル効果というものがあります。(詳しく知りたい方は、wikipediaのトンネル効果のページを読んでみてください。数式は、大学で量子力学をやった方しか読めないと思います。)

トンネル効果は、簡単に言うと絶縁膜の厚さを極限まで薄くすると、絶縁膜があるにもかかわらず電流が絶縁膜を通り抜けて流れてしまう現象です。

トンネル効果が生じるくらい絶縁膜を薄くすると(1~2nmくらいの薄さです)、トランジスタがどうなってしまうのかを図にしました。

ゲート直下の絶縁膜を薄くすると、ドレインからゲートに電流が流れてしまいます。本来は、ドレインからゲートには電流が流れないはずなので、トランジスタの機能を果たさなくなってしまいます。

ゲート直下の絶縁膜を薄くしないとゲートの支配力を強くできないけれど、絶縁膜の厚さを薄くするには限界がある八方ふさがりの状態に置かれてしまったわけです。

ここで、先人たちは考えます。今までゲート直下の絶縁膜にはSiO2を使っていたけれども、別の材料を使えばこの問題を解決できるのではないかと。

High-k Metal Gate

従来の構造では、ゲート直下の絶縁膜にSiO2を使っていたのを、別の材料を使えば解決できるのではないかということで導入されたのが、High-k絶縁膜です。絶縁膜に使われる材料には、誘電率という指標があります。

誘電率は、簡単に言うと電圧がかかった時にどのくらい応答するかという指標で、物質によって値が決まっています。今まで使っていたSiO2よりも誘電率の高い材料を使えば、同じ膜厚でもゲートの支配力を強くすることができます。

つまり、誘電率が高い材料を使えば、トンネル効果が起きないくらいの膜厚を維持したまま、ゲートの支配力を強くすることができるんです。高い誘電率の絶縁膜ということで、High-k絶縁膜と言われます。

また、誘電率が高い材料を絶縁膜に使った関係で、それまでゲート電極に使っていた多結晶シリコン(Poly-Si)との相性が悪くなったので、電極の材料を金属に変えています。

この、高い誘電率を持つ絶縁膜の導入と、ゲート電極に金属を導入したことをまとめて、High-k Metal Gate構造と言います。

High-k Metal Gate構造と従来の構造と比較してみます。

従来構造
High-k Metal Gate構造

High-k Metal Gate構造は、従来の構造と比較してゲート周りの構造が大きく変わっていることがわかります。

実は、High-k Metal Gate構造が導入されたのが45nm世代付近なんですが、この世代付近で日本のメーカーは先端ロジック半導体開発からほとんど離脱しています。

現在、日本でHigh-k Metal Gate構造のトランジスタが作られているとすると、ルネサスエレクトロニクスの那珂工場ではないかと思われます。(Wikipediaに書かれていましたが、今でも作られているかはわかりません。)

High-k Metal Gate構造でも限界に達したので、14nmプロセス付近からトランジスタの構造をガラッと変わるFinFETが導入され始めます。

FinFETを製造している日本のメーカーは無いはずで、ルネサスエレクトロニクスも40nm前後のプロセスより先端の製品はTSMCに製造委託する方針で新規開発は行っていません。

Fin FET

High-k Metal Gate構造でも、ゲートの長さを短くするのが限界に近づいてきたので導入されたのがFinFETです。

Fin FETは、電流が通る部分の形が魚のヒレ(Fin)に似ているので、「Fin FET」という名前が付いたと言われています。

Fin FETは今までのトランジスタと全然構造が違います。図にするとこんな形です。

電流が通る断面を書いています。この図には、ソースとドレインが書いてありません。

実は、FinFETの場合は電流が通る方向が、図の手前から奥の方向になっています。

電流が流れる時には、図の赤い部分を電流が通ります。

細いFinを作ることで、ゲートの支配領域を広げることで性能をあげています。

わかりにくいですが、ソースとドレインを無理やり書くとこんな形になります。

紫色の部分は、ゲート電極で、ゲート絶縁膜越しにあるシリコンの部分を電流が流れます。

もちろん、Fin FETにもHigh-k Metal Gate技術は使われています。この構造からわかるとおり、もともとのトランジスタとは形が全然違うものになっているので、○○nmを示す長さがうまく定義できなくなっています。

10nmプロセス以降は、各社Fin FETを適用していますが、プロセスノードの数字自体はトランジスタのゲートの長さではなくなっています。しかし、今までの歴史の流れからして、先端品になるにつれてプロセスノードの数字が小さくなる文化があるので、先端品になればなるほど○○nmの部分の数字が小さくなっています。

2023年現在で、量産されている最先端のプロセスが3nmプロセスで、今後は2nmプロセスの競争に移っていくと考えられます。

3nmプロセスから会社によっては、Fin FETからさらに構造を変えたトランジスタを適用することも視野に入っているようです。

Fin FETを作るだけでも非常に大変ですが、その先の技術開発を行っているということなのでしょう。

おそらく、日本の会社でFinFETを作っている会社は無いでしょう。むしろ、最先端の3nmプロセスを作ろうとしているのは世界で3社です。

その3社とは、台湾のTSMC・韓国のSamsung・アメリカのIntelです。

TSMC・Samsung・Intelの競争

先端ロジック半導体は、構造が複雑になっており、開発して量産するまでの費用が莫大なので、開発できる会社が世界の中でも絞られています。15~20年前くらいまでは、日本メーカーも先端ロジック半導体の研究開発を行ってしましたが、今では全て撤退しています。

世界で、先端半導体の開発のトップを走っているのが、台湾のTSMCです。TSMCは、SamsungやIntelと違って、半導体の製造に特化した会社です。(TSMCのような、半導体を作ることに特化した会社のことをファウンドリーと言います。) 自社でスマホやPCのような最終製品を作るのではなく、半導体のチップのみを作るんです。

Samsungは、半導体メモリではトップシェアを持っている会社で、先端半導体にも進出しています。Samsungは、自社向けの製品も作っていますし、外部から製造委託を受けるファウンドリ事業も行っています。先端開発では、TSMCが1歩リードしている状況です。

Intelは、「インテル入ってる」のCMで有名なアメリカの会社です。パソコンのCPUを選ぶとすると、IntelとAMDの2択になりますが、CPUを作っているわけです。かつては、先端半導体の研究開発ではIntelが最先端を走っていました。しかし、近年先端プロセスの立ち上げに失敗し続けており、TSMCに開発競争で追い越されてしまっていると言われています。

TSMCに追い抜かれたと言っても、先端ロジック半導体の開発・製造をやっているのは、3社しかないので寡占市場であることは間違いありません。

先端半導体の研究開発には莫大な投資が必要なので、3社くらいしか残らなかったというのが正しい言い方かもしれません。

まとめ

今回の記事では、先端半導体のプロセスで使われる○○nm世代の意味について解説しました。

トランジスタの構造を無視して考えれば、数字が小さくなればそれだけ先端のプロセスであることを意味しています。ロジック半導体は、最先端の研究開発ができるのは世界で3社になっており、TSMC・Samsung・Intelの3社に絞られています。細かいことは置いておいて、これだけ覚えてもらえれば大丈夫です。

おわりに

長くなりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。記事の中でよくわからない点がありましたら、コメント欄かお問いあわせフォームからご連絡いただければお返事できるようにいたします。。Twitterもやっているので、面白かったらフォローお願いします。

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