みなさんこんにちは。この記事を書いている東急三崎口です。
今回は、2nmプロセスを実現しようとして作られたRapidus(ラピダス)が作ったチップの買い手について考えていきます。
Rapidusについては、過去に2nmプロセスを立ち上げるのは不可能に近いという立場でこんな記事を書きました。

技術的な観点からすると、2nmプロセスを立ち上げるのは非常に困難だという考えは変わっていません。
しかし、ラピダスが工場を建設して2nmプロセスを目指すことは変わりありません。
そこで、今回は2nmプロセスを作る技術を獲得できたと仮定したうえで、ラピダスが作った製品をどこに売るのか?という視点で考えます。
2nmプロセスに挑む会社
ラピダスが目指す2nmプロセスを実現しようとしている会社は、ラピダスを含めて4社あります。
(Intelがやるかどうかはわかりませんが。)
・TSMC
・Samsung
・Intel
・Rapidus
Rapidusはこれから立ち上げていく会社なので、TSMC・Samsung・Intelについて簡単に見ていきます。
TSMC
TSMCは、言わずと知れた世界No1のファウンドリです。
ファウンドリということは、ファブレス企業から受注を受けて半導体を生産します。
つまり、TSMCが売れない製品を作ることはありえないわけです。
これは、後ほど触れますが、Rapidusとの大きな違いになります。
Samsung
Samsungは、2nmプロセスを実現しようとしている半導体メーカーです。
Samsungの会社全体を見ると非常に規模が大きく、スマートフォン・ディスプレイ・家電・半導体など幅広い分野に展開しています。
その中でも、半導体部門は半導体メモリ(DRAMとNANDフラッシュ)・ファウンドリ(TSMCより規模はかなり小さいですが)・ロジック半導体をやっています。
ファウンドリ事業もやっていますが、Samsungの半導体事業は基本的にはIDM(垂直統合)です。
Intel
Intelは、半導体専業メーカーで現在では、ロジック半導体に特化しています。
10年くらい前までは、ロジック半導体の開発で先端を走っていましたが、開発の遅延が続き、今では最先端の座をTSMCに明け渡しています。
Intelもファウンドリ事業をやってはいますが、基本的にIDMの会社です。
2nmプロセスの用途
Rapidusが実現を目指している2nmプロセスは、ロジック半導体の最先端品に使われます。
ロジック半導体の最先端品って、実はそれほど多くの用途には使われません。
2nmプロセスが使われると考えられる製品は、大きく3つです。
・スマートフォン
・ハイエンドPC
・サーバー
スマートフォン
スマートフォンは、2nmプロセスのチップが使われる可能性が非常に高いです。
そもそも、TSMCが2nmプロセスを開発しているのは、Apple社のiPhone向けなので、新型iPhoneに2nmプロセスのチップが載る可能性は非常に高いです。
ハイエンドPC
ハイエンドPCのCPUにも2nmプロセスのチップが使われる可能性が高いです。
正直、現代のPCはそれなりに性能が高くなっているので、最先端のCPUを必要とする人は限られています。
家にPCが無い人もいるかもしれませんし、安いPCよりスマホの方がCPUの性能が高いことだってありえます。
実際、ネットとメール程度しか使わないのであれば、高性能なPCをわざわざ買う必要はありません。
動画編集をする方などであれば、ハイエンドのPCが必要になるでしょう。
何が言いたいのかというと、スマートフォンよりもハイエンドPCの需要は少ないということです。
サーバー
2nmプロセスがほぼ確実に使われるのは、サーバー向けの高性能CPUです。
サーバーは、個人が使うPCと違って、非常に高い性能が求められます。
先端のCPUを使うことが求められるでしょうし、それだけお金をかける価値があると判断されます。
使われる量としては、それなりの数があると思いますが、個人でサーバー用にCPUを買う人はまずいないでしょう。
Rapidus以外は用途がある
ここまで、2nmプロセスで作ったチップの用途について見てきました。
実は、悲しいことにRapidus以外の3社は、自社で2nmプロセスで作ったチップの売り先がはっきりしています。
TSMC
TSMCが2nmプロセスのチップを作った時に、まず一番の買い手はApple社でしょう。
何より、新型iPhone向けに2nmプロセスのチップを載せるでしょうし、そのために2nmプロセスを開発しているわけです。
また、TSMCはIDMではなくファウンドリのため、ファブレス企業からの受注が無い製品は作りません。
つまり、TSMCが作ったチップには必ず買い手がいるわけです。
Samsung
Samsungは、IDMの形を取っていますが、自社でスマートフォンを作っています。
2nmプロセスで作ったチップは、少なくともSamsung製のスマートフォンには必ず使われるでしょう。
つまり、自社で2nmプロセスを立ち上げて、自社の製品に載せることができるわけです。
Intel
Intelは、2nmプロセスを自社で生産するかどうかはわかりませんが、仮に生産したとしたら、Intel製のCPUに使われます。
パソコンのCPUは、IntelとAMDが2大メーカーです。
つまり、ハイエンドPC向けであれ、サーバー向けであれ、IntelかAMDのどちらかのCPUが載っていることになります。
AMDはファブレス企業で、TSMCに生産を委託しているといわれています。
Rapidusの2nmプロセスの買い手はどこに?
さて、Rapidus以外の3社を見たところで、Rapidusの話に戻ります。
技術的な困難さを克服して、仮にRapidusが2nmプロセスの技術を獲得できたと仮定します。
2nmプロセスが使われるロジック半導体は、基本的にチップごとに専用設計が行われます。
汎用品である半導体メモリのように、少品種を大量に作る方法では作れません。
ということは、顧客ごとにそれぞれカスタマイズしていく必要があります。
Rapidusが自社でCPUやスマートフォンを作る可能性は低いので、必然的に作ったチップは外部のファブレス企業に売る必要があります。
自社で2nmプロセスを使った製品を作れないのは、他の3社と比較して非常に痛手です。(TSMCはファウンドリなので、自社で最終製品は作っていませんが、ファブレスからの受注が無ければチップを作らないので、実質的に作ったチップは全て売れることになります。)
仮に、Rapidusの2nmプロセスのチップを使うか検討するファブレスの企業があったとします。
この時に、2nmプロセスのチップが載ったスマートフォンを自分が買うことを考えてみてください。
実績があって安いTSMCのチップと、実績が無くて高いRapidusのチップを比べた時に、自分が使うスマートフォンのチップはどちらの会社が作ったものがいいですか。
(Rapidusは、2nmプロセスで初めてチップを作るので、どう考えてもTSMCより安く作るのは不可能だと考えられます。補助金が投入されることを考えても、TSMCと同じ値段で作るのは難しいでしょう。)
99%の人は、実績があって安いTSMCのチップの載ったスマートフォンを選ぶはずです。
つまり、自分が製品を使う立場だと考えると、Rapidusのチップを使いたいと思うわけがないということです。
顧客抜きで技術を持っても意味が無い
Rapidusは、ファウンドリに専念する形の会社にはならないようなので、おそらく2nmプロセスの技術獲得を最優先にしていくはずです。
ファウンドリに専念するのであれば、工場が経って製品を作るまでの段階で、必死に顧客を探す必要が出てきます。
しかし、このまま補助金頼みで2nmプロセスの技術を獲得したとしても、製品が売れる可能性は非常に低いでしょう。
では、なぜこんなスキームなのか?と考えてみます。
結論を言うと、Rapidusは、2nmプロセスの技術獲得を目的にして作られた会社であり、作ったチップをどう売るかは、チップができてから考えようというコンセプトだからです。
半導体は、技術開発にお金がかかるのでどうしても、技術開発に目が向きがちですが、作った製品が売れなければ、どれだけコストを掛けて製品を作ったとしても会社として続けていくことは不可能です。
つまり、技術開発(正確に言うと技術獲得?)が目的になっているので、どう売るか?という点が置き去りにされているわけです。
もはや、工場建設用地も決まり後戻りできる段階ではないですが、「技術はあるのに売れない」会社になりゆく道を既に歩んでいると、私は考えています。
まとめ
この記事では、2nmプロセスを実現しようとして作られたRapidus(ラピダス)が作ったチップの買い手について考えました。
結論としては、Rapidusの作ったチップの買い手はおらず、技術獲得が仮にできたとしても、作ったチップが売れない道をたどると予測されます。
実際に製品を製造できる段階になって、どのような状況になるのはかわかりませんが、少なくとも多額の補助金を出したのに成功しないプロジェクトに限りなく近づいているであろうと考えています。
Rapidusについて、2nmプロセスを獲得できたうえで、明るい未来が描けるという読者の方がいらしたら、その未来を是非コメントで教えてください。
この記事はここまでです。このブログでは、半導体について他にも記事を書いているので興味がある方は読んでみてください。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
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