みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、半導体でシリコン(Si)が一番よく使われる理由について解説していきます。
半導体は、半導体基板の上に電子回路を作ります。この時、「基板」として使われているのは一部の例外を除いてほとんどSiです。半導体業界にいる人からすれば、基板にSiを使うのは当たり前だと感じるかもしれません。
しかし、Si以外にも半導体基板はあります。例えば、こんなものがあります。
・Ge(ゲルマニウム)
・SiC
・GaN
・Ga2O3
Si以外にも半導体基板を作れる材料はあるんですが、それでもSiが圧倒的なシェアを誇っています。
その理由を、半導体を知らない方でも理解できるように解説していきます。
最初からSiが強かったわけではない
半導体という言葉が指すものは、文脈によって変わるんですが、この記事では半導体を使って作られる電子デバイスという意味を取ります。
半導体を使った電子回路としては、何を最初というのかは諸説ありますが、1947年にベル研究所で点接触トランジスタが発見されたことだと言われることが多いです。
点接触トランジスタなんて、現代では使われることはありませんが、この時に使われていたのはGeでした。
Geは、Siと同じような性質を持つ半導体です。
現代では、基板として使われることは少ないですが、基板を作ることはできます。
Siが無ければ、Geが半導体基板に使われていたかもしれませんが、SiがあったのでGeが使われることは、ほとんど無くなっています。(最先端のロジック半導体の研究開発では、Geを使った研究が行われています。)
原料が安い
Siの大きなメリットとしては、原料が安いことです。
地球上には、SiはSi単体としてはほとんど存在しません。酸素(O)と結合したSiO2として存在します。
SiO2は、SiとOが結合してできた物質で、その辺の石に含まれています。ガラスの主成分でもあります。
つまり、Siの原料であるSiO2は、非常に大量に存在しているわけです。
(もちろん、SiO2からOを取り除いてSiを取りだすには、いくつかの工程が必要ですが原料自体が大量に存在していて、かつ安いというのはそれだけで大きなメリットです。)
SiO2から、Oを取り除くのは少し大変なんですが、Oを取り除いてやると単体のSiを作ることができます。
半導体基板用のSiは、Siの純度を99.99999999%にしてやる必要があるので、単体Siからさらに工程を進めていきます。
Siは溶かして固めることができる
Siの2つ目の強みは、溶かして固めることができることです。
「溶かして固めることができるのは当たり前なんじゃないのか?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。通常の物質(例えば水)であれば、固体を加熱すれば液体になるのは当たり前の話です。
しかし、半導体で使う材料の場合は、天然で存在しない物質もあります。(例えば、SiCやGaNなんかがそうです。)
天然で存在しない物質は、加熱しても溶けないんです。(正確に言うと、SiCを空気中で加熱するとSiは酸化してSiO2になり、CはCO2として飛んでしまうので、SiCは溶けずに分解してしまいます。)
一方、Siは空気中で加熱すると表面はSiO2になってしまいますが、溶かすことができます。(と言っても、溶ける温度である融点は1414℃なので、そうそう一般家庭で溶かすことができる温度ではありません。)
基板をちゃんと作る時には、Oを遮断して加熱しています。Siを溶かしてから固めることで、Si基板を作っています。
酸化してSiO2を作ることができる
ここまでは、Si基板を作るにあたってのメリットを考えてきました。
実は、基板を作るときのメリットだけではなく、半導体基板上に電子デバイスを作る時にも、Siを使うとメリットがあります。
Si基板を使って半導体デバイスを作るときのメリットは、酸化するとSiO2を作ることができることです。
多分、トランジスタを作ったことが無い方は、「SiO2を作れるのが何なんだ?」という感覚でしょう。
半導体デバイスを作るときに、よく使われるのがトランジスタです。トランジスタを作る時には、基本的にSi基板の上に絶縁膜をつける必要があります。(厳密に言うと、「MOSトランジスタを作る時は」絶縁膜を付ける必要がありますと書かなければいけないんですが、MOS以外の構造はあまり使われないので、今回は「トランジスタを作る時」という書き方をしています。)
で、トランジスタを作る時に絶縁膜を付けるんですが、絶縁膜を付けられれば何でもいいというわけでもないんです。
細かいことを言いだすと大変なので、ここではSiとSiO2は非常に相性が良かったと考えてください。
(ちゃんと書くと、FGAとかHigh-k絶縁膜導入の時に、なぜ大変だったのかを考えないといけないので、細かい議論は端折っています。おいおい、その辺も書いて行く予定です。)
Si基板を酸化するだけで、Siと非常に相性の良いSiO2絶縁膜を付けることができるというのが、半導体デバイスを作るうえでも大きなメリットです。
量産されて価格が安くなった
最後に、なぜSiが一番使われているのか?という問いに歴史的な経緯は置いておいて、一番端的に答えを考えるなら、「安くて性能が安定しているから」という答えになります。
というのは、Si基板は大量生産されていて、単価が他の材料と比べて非常に安いです。
個人でも、monotaroで買おうとすれば買えるくらいの値段です。(さすがに、研究用のシリコンウエハは個人宅には配送できないようになっているようですが、値段的には買おうとすれば買えるくらいですよ。)
Si以外の材料だと、個人で買えるくらいのお値段にはならないでしょうし、もともと数が出ていないので、個人ではなかなか手に入らないです。
Si基板を作っている会社
Siの強さを紹介してきました。半導体デバイス向けのSiの基板を作っている会社を紹介します。シェアが大きい順に3つ並べています。
・信越化学工業(日本)
・SUMCO(日本)
・Global Wafers(台湾)
信越化学工業は、日本の会社で半導体デバイス向けのSi基板では世界シェア1位です。株式投資をされている方であれば、聞いたことがある社名ではないでしょうか。信越化学工業自体は、非常に大きな会社で様々な分野を扱っていますが、その1部門として半導体Siの基板の部門があります。
SUMCOは、横文字ですが日本の会社です。半導体デバイス向けSi基板では、世界シェア2位です。
信越化学工業と違って、SUMCOはほとんど半導体Si基板の製造に特化しています。(専業メーカーという位置づけです。)
Global Wafersは台湾の会社で、半導体デバイス向けSi基板の世界シェア3位です。
どうも、半導体デバイス向けSi基板専業メーカーのようです。
シェア順に3社取り上げましたが、日本の会社が2社含まれていることからわかるとおり、日本が非常に強い分野です。
Si以外の基板が使われる場合
半導体デバイスの基板としては、基本的にSiが使われます。
一方、用途によってはSi以外の基板が使われることもあります。Si以外の基板が使われる用途としては、主にパワー半導体があります。
パワー半導体も、従来は基板にSiが使われていました。しかし、Siを使って性能向上をずっと続けてきて、Siの材料としての性能の限界が見えてくるようになりました。
Siを使う以上、Siの持っている物理的な性質(絶縁破壊電界、熱伝導率、バンドギャップ等)を超えることはできないわけです。
そこで、Siよりも物理的性質が良い材料を使うことで、さらなる性能向上を図るために研究が進められているのがSiC・GaN・Ga2O3などです。
こういう背景があって、パワー半導体ではSi以外の材料を使うことも増えています。とはいえ、基板の価格としてはSiの方が安いのは変わりないようです。
まとめ
この記事では、半導体でシリコン(Si)が一番よく使われる理由について解説しました。
細かいところを書くと長くなるので、端折った部分もありましたが、なんとなくでもSiが基板として使われる理由を理解していただたらうれしいです。
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。



この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
コメント