みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、SMICが7nmプロセスのチップを作れたことに関して書いていきます。
結論から言うと、SMICが7nmプロセスのチップを作れること自体に驚きはありません。ただ、「作れること」と「利益が出ること」は別問題だと考えています。
7nmプロセスはどんなものなのか
SMICが7nmプロセスのチップを作ることに成功したことについて考える前に、7nmプロセスがどんなものがおさらいしておきます。
7nmプロセスは、FinFETを用いたロジック半導体のプロセスで、10nmプロセスの次に開発されたものだとされています。
量産に成功したのは、TSMC・Samsung・Intelだとされています。
Apple社がTSMCに委託して作ったチップは、7nmプロセスのものだとA12チップで、iPhone XRの世代に載っていたものになります。
FinFETが使われていますが、メーカーによってEUVを使っているところと、ダブルパターニングを使っているところがあるんだと思います。
7nmプロセスで一番難しいと思われるのは、Finの加工と基板へのコンタクトを形成する工程でしょう。
この2つの工程は、特に要求される寸法が小さくズレが許されないので、露光および加工が難しくなります。
EUVを使わなくても7nmプロセスを作ることはできる
今回SMICが、7nmプロセスのチップを作れたことで話題になっているのが、EUV露光機です。
露光機に関して、この記事では詳しく書きませんが、EUVは従来の露光機よりも非常に小さいスケールまで一発で露光することができます。EUVの波長は13.5nmだったはずなので、10nmオーダー近くまでは露光できると言われています。
(露光に関しては、位置合わせやフォーカス合わせ含めてかなりシビアなので、EUVを使ったからと言って全てがうまくいくとは思いませんが。)
EUV露光機を作っている会社が世界に複数あれば、話は違ったのかもしれませんが、2023年現在でオランダのASMLという会社しか作ることができません。
そうすると、アメリカの半導体装置の輸出規制がASMLのEUV露光機にも適用されて、中国にはEUV露光機が輸出できない状態なので、SMICはEUV露光機無しで7nmプロセスのチップを作ったことになります。
(密輸されていたら話は別ですが、そもそもEUV露光機は1台100億円くらいして、半導体デバイスメーカーしか買わないので、密輸されることはほぼ無いでしょう。)
一応、日本が立ち上げようとしているラピダスもEUV露光機を導入する予定です。
EUV無しで7nmプロセスを作ったこと自体は、私は驚きはありません。なぜなら、ダブルパターニングを使えばEUVを使わなくても細いパターンを作ることは技術的に可能だからです。(工程が増えますし、歩留まりも下がりますが。)
ダブルパターニングに関しては、湯之上さんが2018年に書かれたわかりやすい記事があったので、興味がある方は読んでみてください。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/1811/06/news029.html
「作れること」と「利益が出る」ことは違う
SMICが、EUV無しで7nmプロセスのチップを作ったこと自体に驚きは無いのは、文字通りです。
ただ、作れることと利益が出ることは違うだろうなと感じました。
理由としては、「作れる」だけであれば、7nmプロセスのチップを作るためのプロセスを立ち上げて、ウエハを流せるようにすれば、1個だけ良品を取ることは可能だからです。(もちろん、プロセスを立ち上げるためにはお金もかかりますし、製品を作るためのノウハウを蓄積しないといけないので、難しいのは事実です。)
ただ、ウエハを流すプロセスが立ち上がったとしても、量産して利益を出せるレベルかどうかは別の問題です。
シリコンウエハを使って製品を量産する時には、歩留まり100%はあり得ないので、不良品がある程度出ることを見込んで製品を作ります。この時の歩留まりが、10%だとすると必要なチップ数の10倍のチップを作らないと、予定通りの良品数が取れません。
10倍チップを作るということは、歩留まり100%だった時に比べて10倍のコスト(単純化して考えています。)がかかるわけですから、なかなか製品を売って利益を出すことは厳しいでしょう。
ただ、SMICの場合はアメリカから規制を掛けられている中で、中国が「自国で7nmプロセスを作れること」に価値があるわけなので、利益が出るかどうかは度外視して作っているんでしょう。
中国の立場からすれば、「EUVの輸入を規制しても自国で7nmプロセスのチップを作ることができますよ」というのは、アメリカに対して、「規制を掛けても、そのうち追いつきまっせ」というメッセージを送っていることになります。
つまり、アメリカの輸入規制へ対抗していることを、技術的に示しているわけです。そう考えれば、7nmプロセスで歩留まりがどうであれ、「作れる」こと自体に意味があり、利益が出るかどうかはあまり関係ないのかもしれません。
SMICが5nmプロセスを作れるようになるのも時間の問題だろう
SMICが、7nmプロセスを作ることができるようになったことを考えると、次の世代である5nmプロセスも作ろうとしていることは想像に難くありません。
EUV露光機はアメリカが輸出規制をかけ続けるでしょうから、中国が手に入れることは難しい状況は続くでしょう。
しかし、SMICが5nmプロセスのチップを作れるようになるのは、時間の問題だと私は考えています。
というのは、アメリカが半導体関連装置の輸出規制をすればするほど、中国が自国でロジック半導体のチップを作れることに対する需要度が上がります。
そうすると、中国から見ればどれだけお金をつぎ込んでもいいから、チップを作ろうという発想になるわけです。
こうなると、技術的な問題はあったとしても、お金と時間と技術者を総動員して国家のバックアップを受けて企業がロジック半導体を開発するわけですから、ある意味最強の開発環境と言っても過言ではないかもしれません。
一般的には、ロジック半導体であれ企業が利益を生み出すために技術開発を行うのが通例なので、国家が全面的に支援して技術開発を進めれば、ある程度時間がかかったとしても、5nmプロセスのチップを作ることは可能なのではないかと考えています。
日本は諸外国に置いていかれた
SMICが7nmプロセスのチップを作れるようになったことについて考えてきました。
記事を書きながら感じたことは、ロジック半導体の分野では日本は完全に諸外国に置き去りにされたということです。
中国・台湾・アメリカ・韓国が、自国の企業で量産しているロジック半導体の先端プロセスを一覧にしました。
・中国:7nmプロセス(SMIC)
・台湾:3nmプロセス(TSMC)
・アメリカ:5nmプロセス(Intel)
・韓国:3nmプロセス(Samsung)
・日本:40nmプロセス(ルネサスエレクトロニクス)
こう並べてみると悲しいもので、中国はEUV露光機の輸出を止められていても7nmプロセスを作ることができたのに対して、日本国内の最先端プロセスは40nmプロセスです。
2nmプロセスの量産を目指してラピダスが作られましたが、このように比べてみると諸外国(特にアジアが強いですね)と比べると日本のロジック半導体のプロセスは2周~3周遅れの状況にあることは間違いないです。
まとめ
この記事では、SMICが7nmプロセスのチップを作れたことに関して書いてきました。
それほど驚きはありませんが、一周回って日本がいかに先端プロセスを作れないのかが、はっきりとわかる形になりました。
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。



この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
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