みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、日本のフラッシュメモリメーカーであるキオクシアの今後について3つのパターンに分けて今後を予測していきます。
結論から言うと、キオクシアはWestern Digitalと合併を目指す以外に、今後半導体メモリ業界で競争力を維持する方法は無いと考えています。
キオクシアに関してはこちらの記事で解説しているので、興味がある方はこちらの記事も読んでいただけると嬉しいです。


キオクシアの現状
キオクシアの今後を考えるために、現状を整理しておきます。
現状の整理としては、この3つを見ていきます。
・直近の売上
・財務状況
・半導体メモリ業界の構造
直近の売上
キオクシアの直近の売上を見ていきます。
キオクシアの決算については、こちらの記事で詳しく解説しています。

執筆日(2023/9/14)時点で発表されている最新の決算である、2023年3-6月期の決算はこのようになっています。

四半期で売上高が2500億円あるにもかかわらず、当期純利益は1000億円の赤字となっています。
半導体メモリ業界は2022年後半から非常に市況が厳しく、キオクシア以外の競合他社も赤字を出しています。
過去1年の利益を見ると、このようになっています。

好調な時には、当期純利益は黒字となっていますが、直近の3四半期は1000億円レベルの赤字に沈んでいます。
なかなか厳しい状況にあることは、おわかりいただけると思います。
財務状況
次に財務状況を見ていきます。
2023/3/31現在の貸借対照表はこのようになっています。

自己資本比率が34.9%程度になっています。
一般的な会社だとそんなもんかと思われるかもしれませんが、半導体メモリ業界の中ではキオクシアが一番自己資本比率が低いです。
半導体メモリ業界の構造
続いて、キオクシアが置かれている、半導体メモリ業界の構造を見ていきます。
半導体メモリ業界で主要な5社があります。5社はこのとおりです。
【半導体メモリ業界の主要5社】
・Samsung(韓国):半導体メモリ業界トップ DRAMとNANDフラッシュを製造
・SK Hynix(韓国):Samsungに次ぐ立ち位置 DRAMとNANDフラッシュを製造
・Micron(アメリカ):3番手の立ち位置 DRAMとNANDフラッシュを製造
・Western Digital(アメリカ):キオクシアと協業している NANDフラッシュのみを製造
・キオクシア(日本):Western Digitalと協業している NANDフラッシュのみを製造
半導体メモリ業界の会社は、基本的に日・米・韓の会社です。TSMCは半導体メモリは作っていないので、この中に入ってきません。
5社を2つのグループに分けると、DRAMとNANDフラッシュメモリの両方を作っている3社と、NANDフラッシュメモリしか作っていない2社に分かれます。
半導体メモリにもDRAMとNANDフラッシュメモリの2種類に分かれます。DRAMとNANDフラッシュメモリについて、よくわからない方はこちらの記事で解説しているので、興味がある方は読んでみてください。

DRAM市場
DRAM市場は、先ほど紹介したSamsung・SK Hynix・Micronの3社の寡占市場となっています。
2022年7-9月期のデータで少し古いですが、シェアはこのようになっています。

上位3社で9割以上のシェアを占めている、典型的な寡占市場です。(日本のビールメーカーのシェアに似ているような。。。)
Samsungが1社で40%のシェアを持っていて、1強といった形です。残りのシェアをSK HynixとMicronで分け合っているような市場となっています。
DRAMの市場は、1強+2という形がしばらく続いています。また、主要メーカーが3社に集約されてしまったので、今後の再編は起こりにくいところまで寡占化が進んでしまっています。
主要なDRAMメーカーは3社ですが、過去には日本だけで4社あった時期もありました。興味がある方は、こちらの記事も読んでみてください。

NANDフラッシュメモリ市場
NANDフラッシュメモリ市場は、DRAMと違って主要メーカーが5社あります。
2022年10-12月期のデータですが、シェアはこのようになっています。

DRAMの時と比較すると、会社が5社あるのでシェアが分散しています。
NANDフラッシュメモリでも、1位はSamsungで1社で30%近くのシェアを持っています。残りのシェアを4社で分け合っているような形ですが、他の3社と比べてMicronのシェアが少し低いくらいです。
ただ、NANDフラッシュメモリは少し特殊で、2位のキオクシアと4位のWestern DigitalはNANDフラッシュメモリの製造を共同で行っています。メモリチップは共同で作って、最終的に売るのは別会社として販売する不思議な関係性です。
共同で製造していることを考えると、キオクシアとWestern Digitalが作っているチップの量だけ見ると、Samsungに匹敵する量を作っていることになります。
半導体メモリ業界の5社の財務状況に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。

株主の状況
前置きが長いですが、キオクシアの株主の状況も見ていきます。
執筆日(2023/9/14)時点では、キオクシアは上場していません。キオクシアとして独立することになったきっかけが、東芝の不正会計および原発での巨額損失の発生でした。
東芝が債務超過を回避しようとして、キャッシュを作るために売却したのがキオクシアです。なので、もともと東芝の半導体メモリ部門だったわけです。
キオクシアは、2020年に一度IPO(新規上場)しようとしたことがありました。結果的にIPOは中止になりましたが、その時に出されたIPO目論見書が公開されています。IPOすると、上場会社になるのでIPO目論見書は非常に細かい部分まで書かれています。(細かい部分まで書かれている分、全部読む人いるのか?というくらい長いですが。)
IPO目論見書については別記事で解説しているので、興味がある方はこちらの記事を読んでみてください。

IPO目論見書の中に、2022年現在の株主構成が載っています。(非上場の会社は、誰が株主なのか公開されないのが普通です。)
書いてある株主の議決権比率をそのまま書くとこのようになっています。(このほかに、優先株を日本政策投資銀行が保有していると書いてありましたが、議決権が無い優先株なので議決権比率の計算からは除外しています。)

キオクシアは東芝の半導体メモリ部門が前身なので、東芝がある程度の株式を持っています。一方、BCPE Pangea Cayman○○と書かれた会社がたくさんあります。これは、東芝がキオクシアを売る時に、買った側のファンドがいくつかの会社にばらして株式を保有していることを表しています。
ばらけていて全体像が見にくいので、BCPE Pangea Cayman○○をBCとまとめて表記するとこのようになります。

議決権比率を見ていただければわかるとおり、キオクシアを買ったファンド(ベインキャピタルです)の議決権が50%超えてるんですよね。残りの株をだいたい東芝が持っているような構造です。
このように、キオクシアの株式の議決権はファンドがかなりの部分を持っているので、必然的にファンドの意向が強く反映されることになります。実際問題、ファンドの人間は経営陣に入っていますが、東芝本体の関係者は役員にすら入っていません。
ファンドの目的としては、キオクシアを買った値段より高く売って利益を出すことなので、出口戦略がどうなっているのかわかりませんが、株式を「高く売る」ことがゴールになります。
つまり、キオクシアは経営が立ち行かなくなった場合を除いて、他社と合併するにしても、IPOするにしても、ファンドが利益を出せることが前提条件になってきます。
キオクシアが取れる3つのパターン
前置きが長くなりましたが、キオクシアが今後取れるパターンは3つに限られてきます。
【今後キオクシアが取れるパターン】
・現状通り独立経営を貫く
・Western Digitalと合併する
・Western Digital以外の会社と合併する
それぞれのパターンについて、1つずつ解説していきます。
独立経営を貫く場合
従来通り独立経営を貫く場合ですが、今後の競争力という意味では非常に厳しいです。
シェアはNANDフラッシュメモリの中でも2番手の位置ですし、NANDフラッシュメモリ専業メーカーなので、他に収益を得られる事業がありません。
協業しているWestern Digitalは半導体メモリはNANDフラッシュメモリしか作っていませんが、HDD事業を持っているので専業メーカーではありません。
キオクシアとWestern Digitalを以外の3社は、DRAMも作っています。
Samsungに至っては、半導体メモリ事業以外にもさまざまな事業を展開しているので、資金的にキオクシアに負けることはまずありません。
外部環境を考えても、キオクシアが独立経営を貫く場合一番厳しいのは資金力でしょう。
半導体メモリ業界は、巨額の設備投資と研究開発費が必要なので、シェアが小さければ競争で不利になります。シェアが小さい状況で競争を続けていくと、資金力の差が勝負を分けます。資金力的にキオクシアが競合他社と勝負するのは、現状無理なのでロングスパンで見ると、資金力の差で業界から淘汰される可能性が非常に高くなります。
このような理由で、キオクシアが独立経営を続けていくのは困難だと私は考えています。
Western Digitalと合併する場合
2つ目のパターンは、Western Digitalと合併するパターンです。
実際に、キオクシアがWestern Digiatlと水面下で合併交渉を進めているという報道が出ています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-07-14/RXSRWOT1UM0W01
Western Digitalは、NANDフラッシュメモリ部門とHDD部門がありますが、NANDフラッシュメモリ部門をキオクシアと統合して新会社を作るようなスキームのようです。
Western Digiatalと合併すると、シェアのうえで非常にメリットがあります。先ほど示したNANDフラッシュメモリのシェアで、キオクシアとWestern Digitalのシェアを単純に足すとこのようになります。

単純計算ですが、NANDフラッシュメモリのシェアでSamsungを上回る規模になります。
それだけではなく、NANDフラッシュメモリのシェアが「1強+4」から「2強+2」の形に変わります。これは、何を意味するのかというと、NANDフラッシュメモリの市場でMicronとSK Hynixの相対的なシェアを落とすことになります。
DRAM市場に進出できていないキオクシアとWestern Digitalが、NAND市場で30%以上のシェアを獲得することで、SK HynixとMicronの競争力を削ぐことができるわけです。
NANDフラッシュメモリ市場で、SK HynixとMicronがSamsungやWestern Digital+キオクシアのシェアを得るためには、2社合併することしかできません。しかし、MicronとSK Hynixが合併することは考えにくいので、ほとんど可能性は無いでしょう。
また、仮にMicronとSK Hynixが合併した場合、DRAM市場でのシェアが50%を超えるので、現実問題合併は認可されない可能性が高いです。
というわけで、Western Digitalとキオクシアが合併すると、NANDフラッシュメモリのシェアを増やすことができて、今後の競争力という意味では非常に強くなります。
ただ、Western Digitalと合併してもDRAMの技術を獲得できるわけではないので、DRAMのシェアや技術を持っていない部分は弱点として残ります。
Western Digital以外と合併する場合
3つ目のパターンとして、Western Digital以外の会社とキオクシアが合併する場合を考えてみます。
これは、2つの理由で難しいと考えています。
1つ目の理由は、キオクシアが現在Western Digitalと協業していることです。キオクシアとWestern Digitalは現在、チップを協業して作っています。設備投資なども、2社が資金を出し合って行っています。
Western Digital以外の会社がキオクシアと合併or買収する場合、Western Digitalが拠出した設備投資の部分をどうするのかという問題が出てきます。この問題を解決できないと、実際のところWestern Digital以外の会社がキオクシアと合併or買収を行うのは難しいと考えられます。
2つ目の理由は、金額的な問題です。東芝からキオクシアが売却された時、売却価格は約2兆円と言われています。
議決権ベースの株主構成から見ても、キオクシアを買収しようとする会社が現れた時に、総額2兆円を超えないとファンドとしては利益が出ないわけです。
買収しようとしても、2兆円を超える額を出すことができる会社はなかなかありません。株式の半分を買ったとしても、1兆円以上になるわけで、資金的な問題から買収はかなり難しいと思われます。
キオクシアと合併or買収を考えるのは、半導体メモリメーカーに限られるでしょうから、SK HynixやMicronが手を出す可能性も無くは無いですが、Western Digitalの立場からすると、同業他社にわざわざNANDフラッシュメモリの製造能力を渡すことになるので、実現性は非常に低いでしょう。
キオクシアが取るべき道
キオクシアが取れる3つのパターンについて、それぞれ解説しました。
私が最善の方法だと考えているのは、Western Digitalと合併することです。この合併は、NANDフラッシュメモリのシェアを増やすことができて、同時に競合他社の競争力を相対的に削ぐことができるので、現実的な話をベースにすると、最善策だと思います。
ただ、Western Digitalとキオクシアが合併しても、DRAMの技術やシェアを取ることはできません。合併後に考えられる戦略は、DRAMを作っていてNANDフラッシュメモリのシェアが小さいMicronと提携することです。
Western Digitalとキオクシアが合併した時の、単純計算したNANDフラッシュメモリのシェアを再度示します。

このグラフから明らかなように、MicronはNANDフラッシュメモリで最下位になり、競争のうえでは不利な状況に追い込まれます。
この状況になると、MicronとしてはNANDフラッシュメモリ事業を続けるかどうかを考える必要が出てきます。
半導体メモリ事業は、先行投資として巨額の設備投資と研究開発費を投じる必要があり、製品を売ることで先行投資を回収できないと事業として成り立たないわけです。
巨額の設備投資と研究開発費を投じたとしても、シェアが小さければ回収できる金額が小さくなります。トータルで利益が出せなければ、その事業を続けていくことができないという判断もありえます。
Micronは、寡占市場のDRAMで25%程度のシェアを持っているので、DRAMに注力することも可能ではあります。
ただ、私が考えているのは、NANDフラッシュに強い合併後の会社と、Micronが提携することで、両社が利益を得られる関係性が作れるのではないかということです。
キオクシアとWestern Digitalが合併しても、DRAMの技術とシェアは得られないので、合併後の会社としてはDRAMの技術とシェアは獲得したいはずです。
一方、MicronとしてはDRAMの技術とシェアは持っているけれども、NANDフラッシュの競争では不利な状況に追い込まれるので、NANDフラッシュで協業する相手を求めるはずです。
そうすると、DRAM技術を求める合併後の会社と、NANDフラッシュの協業相手を求めているMicronの思惑が一致して、提携することが可能なのではないかと考えています。
Western Digitalとキオクシアが合併すると、Micronと似たような立場に置かれるのがSK Hynixです。
SK Hynixの立場からすると、DRAM市場のシェアを持っていますが、NAND市場では2社の合併はリスクになると考えているはずです。SK Hynixと提携できる可能性も0ではありませんが、アメリカは半導体メモリを自給できることの重要性を理解しているはずですから、おいそれとSK Hynixとの提携が許可されるかは疑問です。
最終的に、私はWestern Digitalとキオクシアが合併して、合併後の新会社がMicronと提携することで、半導体メモリ業界での競争を生き残っていくのがベストだと考えています。
資金が尽きて吸収合併されるのが最悪のケース
ここまで、キオクシアがずっと継続していくことを前提に記事を書いていました。ただ、半導体メモリ業界は競争が激しく、過去には競争から脱落したメーカーが、同業他社に吸収されたり、事業から撤退したり、倒産したりすることが繰り返されてきました。
日本でもDRAMを作っていたメーカーが2000年には4社ありましたが、最終的に残ったエルピーダメモリは2012年に倒産してMicronに吸収されました。
過去を見ると、エルピーダメモリの倒産も現実として起こったわけで、キオクシアが資金繰りに行き詰まると、倒産する可能性も無くはありません。
仮に倒産してしまった場合、キオクシアが持っているNANDフラッシュメモリの製造能力は非常に大きい部分があるので、同業他社に吸収合併されるでしょう。
半導体メモリ業界の同業他社でキオクシアを吸収するとすると、Samsung・SK Hynix・Micronのどこかでしょう。
こう考えると、キオクシアが資金繰りに行き詰まることがあれば、最終的に韓国かアメリカの会社に吸収されることになります。
最悪のケースを考えれば、現実的な線で考えてキオクシアはWestern Digitalと合併するのが最善なのではないかと思うわけです。
エルピーダの二の舞は絶対に起こしてはいけない
エルピーダが2012年に倒産したことは先ほど紹介しましたが、倒産後はMIcronに吸収されてMicronはDRAMのシェアを大きく伸ばすことになりました。
エルピーダは日本の東広島に工場を持っていましたが、現在ではMicronの広島工場となっています。
そして、エルピーダメモリが倒産したことで、日本のDRAMメーカーは絶滅しました。つまり、エルピーダがMicronに吸収されたことで、先端のDRAMを作れる日本の会社は無くなってしまったわけです。(1980年代には世界のDRAMのシェアの7割以上を日本が作っていたのに。。。)
先端ロジック半導体は、日本メーカーで量産している会社は既に無く(ラピダスが2nmプロセスの量産を目指していますが、量産実績はありません。)DRAMメーカーも無くなってしまった今、NANDフラッシュメモリを作るキオクシアは、日本の半導体産業の中でも重要な会社なのではないかと思います。
CMOSイメージセンサのソニー、車載向けマイコンのルネサスエレクトロニクス、NANDフラッシュメモリのキオクシアの3社が、日本の半導体産業の最後の生き残りなのではないかと思います。(パワー半導体はまだたくさん会社がありますが。)
多額の設備投資が必要で、巨額の赤字を出すこともある半導体産業ですが、このままでは日本の会社で半導体を作るのが難しくなってしまう時代が来てしまうのかもしれません。
まとめ
この記事では、日本のフラッシュメモリメーカーであるキオクシアの今後について3つのパターンに分けて今後を解説しました。
日本の会社といえるかどうかは置いておいて、キオクシアはWestern Digitalと合併するのが、現実的な線で最善策だと私は考えています。
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。



この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
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