【特集】キオクシアの成り立ちから今までの流れ・現状について詳しく解説

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みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、日本で唯一NANDフラッシュメモリを作っているキオクシアについて、成り立ちから今までの流れ、そして現状置かれている状況について解説していきます。

このブログでは、個別の決算・IPO目論見書・ウエスタンデジタルとの統合について解説していますが、成り立ちから現状に至るまでの全体の流れがわかりにくいと思ったので、全体の流れを通して解説していきます。

個別の出来事については、それぞれ解説記事を書いているので興味がある方は読んでいただけると嬉しいです。

目次

大まかな時系列

キオクシアは、もともと東芝の半導体メモリ部門でした。半導体メモリ部門を売却するために、2017/4にメモリ部門を分社化し東芝メモリ株式会社が作られました。

そこから、ファンドへの売却を経て、社名変更してキオクシアという会社名になっています。ざっくりした時系列はこのようになっています。

キオクシアの始まりは、東芝から分社化されて東芝メモリが誕生したところです。

東芝メモリが東芝から売却され、キオクシアに社名変更したのが2019/10の話です。ちょうど4年前(執筆日2023/10/1)話です。キオクシアは、ファンドに売却されたので、出口戦略としてIPOを目論んでいました。(IPOはInitial Public Offerの略で新規上場のことです。)

2020年にキオクシアは東京証券取引所への上場を計画していて、上場承認も下りていましたが、直前になって上場を中止しています。

IPOを中止したあとは特に動きはありませんでしたが、2021/4にMicronがキオクシアの買収を検討しているとの報道が、WSJ(ウォールストリートジャーナル)からありました。結局Micronがキオクシアを買収することは無く、買収の検討は立ち消えになったようです。

2022年は特段買収がらみの報道はありませんでした。

2023年に入り、2023/1にキオクシアと協業しているウエスタンデジタルがキオクシアとの経営統合に向けての交渉を行っているとの報道がありました。この報道は、なぜか必ずBloomberg発の情報なんですよね。立ち消えになったのかな?と思っていると、再度報道されることを繰り返して現在に至っています。

ここまでが、キオクシアが東芝から売却されてから今までの大まかな流れです。

キオクシアが独立した経緯

次に、キオクシアが東芝から売却されて独立した経緯について簡単に解説します。東芝から売却されるときの流れが、非常に複雑なので、詳しく知りたい方はこちらの2本の記事を読んでください。

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東芝の債務超過

キオクシアが東芝から売却されることになった直接的なきっかけは、東芝が不正会計事件と原発部門の巨額損失の影響で債務超過に陥ったことです。

債務超過=倒産ではないですが、新たに借金をすることは困難になります。手元現金をたくさん持っている会社は、債務超過になるわけがないので、持っている事業を売却することで現金を手に入れる必要があったわけです。

しかし、債務超過に陥る前の段階で、家電部門やライフサイエンス部門などの売ればまとまったお金になる部門は売却されていました。

債務超過に陥る前の段階では、半導体メモリ部門は東芝の成長の柱として位置づけられていた部門です。債務超過に陥ってしまったため、ある意味で虎の子の半導体メモリ部門を売却せざるを得ない状況に追い込まれていたわけです。

半導体メモリ事業を売却

虎の子であった半導体メモリ部門を売却することになったわけですが、この時の売却価格は2兆円と言われています。半導体メモリ部門を売却した東芝は、約2兆円の現金を手に入れることができました。結果的に債務超過を解消して上場を維持しました。(2023年にファンドによるTOBによって、結果的に東芝は上場廃止になる予定ですが。)

当時、東芝が半導体メモリ部門を売却した価格が2兆円と報道されていましたが、実際にほぼ2兆円で売却できたようです。ベインキャピタルを中心としたファンドが、東芝メモリ(現キオクシア)の株式100%と引き換えに現金2兆50億円を東芝に支払っています。(このことはキオクシアのIPO目論見書にはっきりと書いています。)

資本関係

東芝から売却されたキオクシアですが、資本関係が売却前後で大きく変わっています。

独立前は東芝の事業部

東芝から売却される前は、半導体事業部の一部としてNANDフラッシュメモリを製造していました。当時は、システムLSI・NANDフラッシュメモリ・パワー半導体などを扱っているデバイス&ストレージ部門の一部だったはずです。

売却される前から、NANDフラッシュメモリはウエスタンデジタルと協業していましたが、東芝の持っている資産に関しては東芝100%の持分でした。

独立後はファンド・東芝・HOYAの持ち物

一方、東芝から売却後は買収したファンド(ベインキャピタル)・東芝・HOYAが株式を持っています。ファンドの買収直後は、東芝+HOYAで50.1%の議決権を持っていました。

しかし、IPO直前には東芝+HOYAが43.7%を持ち、残りのほとんどをファンドが持っています。(この辺のからくりは、ちゃんと理由があるんですが、複雑なのでここでは解説しません。)

株式の保有比率はさておき、キオクシアはベインキャピタル・東芝・HOYAがほとんどすべての株式を持っているわけです。

IPOを直前で取り下げ

出口戦略は当初IPOだった

2020年にキオクシアは一度IPOをしようとしました。東証からの上場承認が出ていたにもかかわらず、IPOを取り下げました。結構珍しいパターンです。

背景としては、キオクシアがIPOを行う直前に、アメリカがファーウェイへの半導体輸出規制を決めたことが挙げられます。ファーウェイへの半導体メモリの輸出はそれなりの量があったんでしょうから、業績が下がると市場から判断されて株価が下がるのを嫌ったんだと考えられます。

IPOを中止したあとも、タイミングを見計らって上場を目指すとされていますが、3年経ってもまだ上場は行われていません。かつ、上場を行うアナウンスも行われていないので、現段階では上場の可能性は低くなっているのではないかと考えられます。

IPO取り下げ後の出口戦略が不透明

IPOを取り下げたあと、上場を目指すとされていましたが、3年経っても上場できていないことを鑑みると、キオクシアの出口戦略が不透明になっている可能性があります。

というのは、キオクシアの株式の6割近くを持っているのはベインキャピタルです。ファンドの究極的な目的は、株を安く買って高く売り、買値と売値の差分を儲けることです。そうすると、キオクシアの株式を他の会社に売るか、上場させて市場で売るかはわかりませんが、出口戦略が必要になります。

報道されているウエスタンデジタルとキオクシアの経営統合が行われれば、株式の売却は可能かもしれませんが、経営統合が行われない場合、株式が塩漬けになってしまいます。

キオクシアの立場から見ても、ファンドが株式を売ってくれないと自社の自律的な経営は困難です。どちらにしても、出口戦略がはっきりしていない状況は事実ではないでしょうか。

メモリ不況が直撃

NANDフラッシュ一本足打法

2020年にIPOを中止したキオクシアですが、2022年後半から異次元のメモリ不況の波が直撃しています。

キオクシアは、NANDフラッシュメモリ専業メーカーなので、フラッシュメモリの市況が悪化すると影響をダイレクトに受けます。半導体メモリメーカーは、専業メーカーが多いので市況の悪化の影響を受けやすいです。

ただ、キオクシアとウエスタンデジタル以外は、NANDフラッシュとDRAMを作っています。今回は、DRAMとNANDフラッシュメモリの両方の市況が悪化しているので、各社とも厳しい状況になっています。

半導体メモリ専業メーカーは、市況が良いときにめちゃくちゃ稼いで、市況が悪くなった時には稼いだ時のお金で持ちこたえるような業界です。つまり、自己資本比率が高くないと、市況が悪くなった時に持ちこたえられなくなってしまいます。

現状のキオクシアを取り巻く環境

最後に、現状のキオクシアを取り巻く環境について簡単に解説します。

メモリ市場の回復に期待

現状、半導体メモリメーカーはメモリの市況悪化で全社赤字になっている異常な状態です。他の業界だとあまりないかもしれませんが、こういうことが起こるのが半導体業界です。

全社赤字になるほど市況が悪化しているので、キオクシアの経営判断がどうこうという次元ではなく、業界全体としてどうしようもないというのが正直なところです。

資金力を比較すると、キオクシアは競合メーカーと比べた時に一番自己資本比率が低いので、メモリの市況が早く回復してくれることを祈るしかない状況だ

資金力を比較すると、キオクシアは競合メーカーと比べた時に一番自己資本比率が低いので、メモリの市況が早く回復してくれることを祈るしかない状況だといえます。

ファンドの出口戦略はどこなのか

次に、ファンドの出口戦略が不明確なのが少し気になります。IPOでの上場を目指すのは、3年経って実現していないので、少し可能性は低くなっているように思います。

メモリ市況が回復したら上場を目指す可能性もありますが、上場してファンドが利益を出せるレベルの株価になるかどうかは、市場がキオクシアをどう判断するか次第です。正直、2020年に上場を目指した時と、現在を比べてキオクシアという会社が劇的に良くなっている要素は無いように感じます。

そうすると、新規上場をやろうとしても市場からの評価が上がる要素が無いので、あまり株価は上がらないのではないかと感じてしまいます。こればっかりは、やってみないとわからないことではありますが、あまり期待は持てないのではないかと思っています。

とはいえ、買収してから5年近く経過しているので、何かしらの出口戦略を描いているんでしょうが、外から見ている分には見えてきませんね。

ウエスタンデジタルとの経営統合の実現性

2023年に入ってから、たびたび報道されているウエスタンデジタルとキオクシアの経営統合について少し考えてみます。この経営統合は、ウエスタンデジタルとキオクシアの交渉で合意することよりも、中国の独禁法の許可が下りるかどうかの方が難しい問題です。

中国は半導体に関してアメリカから規制を受けているわけで、合併によりNANDフラッシュメモリの世界シェアが30%近くになる2社の合併を、そのまま認めるとは到底思えません。

ただ、キオクシアはウエスタンデジタルと経営統合を行うことくらいしか、経営改善に対する現実的な解が無いのも事実ではあります。経営統合が認められるのかは置いておいて、経営統合を進めるしか選択肢が無いと私は考えています。(私がこう考える理由に関しては、長くなるのでここでは書きません。詳しく知りたい方は、こちらの記事を読んでください。)

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キオクシアが描くビジョンは何なのか

一番最後に、キオクシアの置かれている現状を踏まえたうえで、キオクシアが目指すべきビジョンはどこなのかについて私の考えを書きます。

キオクシアが現状置かれている環境は、異次元のメモリ不況が続き、かなり厳しいことは間違いありません。かつ、実質的な経営の決定権をファンドが握っていることも、経営判断が難しくなる理由の一つです。

今後、ただただNANDフラッシュメモリをロードマップに合わせて技術開発し続けるだけでは、他社と比べて資金力に差があるので、競争に勝つことは難しいです。(現在はNANDフラッシュメモリのシェア2位ですが、シェアが下がるともっと厳しくなります。)

キオクシアが選べる道は2つあり、1つ目はウエスタンデジタルとの協業する現状の枠組みを続けていくこと、2つ目は他社との経営統合や技術連携を含めた成長戦略を打ち出していくことです。

現状の枠組みを維持していても、ジリ貧なのはわかりきっています。キオクシアは、最近NANDフラッシュメモリの技術開発競争で、他社と比べて遅れ始めています。(他社と比較したNANDフラッシュメモリの技術開発に関しては、こちらの記事を読んでください。)

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2つ目の他社との経営統合や技術連携を含めた成長戦略を打ち出せるかどうかは経営陣次第です。ただ、現状維持を続けて今後競争に勝ち残れる確率が低いのであれば、積極的に成長戦略を打ち出せないと、エルピーダの二の舞になってしまうことを危惧しています。

キオクシアは単独で経営を続けかにこだわっている状況ではないと思います。競合相手は、Samsungであり、SK Hynixであり、Micronであることをはっきりと認識したうえで、今後の半導体メモリ業界でどう生き残っていくかを真剣に考えて、成長戦略を打ち出していくべきだと私は考えています。

最終的に経営が立ち行かなくなり、エルピーダのように外資に安く買われることだけは避けてほしいと思っています。

まとめ

この記事では、日本で唯一NANDフラッシュメモリを作っているキオクシアについて、成り立ちから今までの流れ、そして現状置かれている状況について解説しました。

全体の流れを解説することを重視したので、個別の内容についてはざっくりした解説にとどめています。大きな流れについて理解していただけたら嬉しいです。

記事の中でわからない部分や間違い・ご意見等がありましたら、お気軽にコメントしてください。

このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。

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この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

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