週刊東洋経済の半導体特集号を読み解く~日本の立場から見た半導体業界の概観~

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みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、2023/10/2発売の週刊東洋経済が半導体特集号だったので、内容を元半導体エンジニアの観点から読み解いていきます。

内容を一言で表すと、日本の立場から見て半導体業界の置かれている立場のレビュー記事という印象です。
半導体業界と言っても、非常に範囲が広いので専門外の内容もあり、私個人として勉強になったところも多くありました。

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私の守備範囲としては、ロジック・メモリがメインで、パワーをちょっとだけかじっているくらいなので、この3つの分野ががメインになります。

目次

全体概観

週刊東洋経済の半導体特集号は、全体としては良く書かれていて非常に勉強になると思います。半導体業界の方でも、半導体を知らない方でも、ある程度読めるように専門用語については解説がなされていました。

日本の立場から、半導体業界を見たときの課題とこれからの展望が描かれていたように思います。分野としては、ロジック・パワー・イメージセンサ・材料・露光装置については書いてありました。メモリがすこーんと抜けている気はしましたが。

ロジック半導体はラピダスが話題になっていますし、パワー半導体は日本企業がまだ残っているので紙面を割きやすいのかもしれません。一方、メモリは日本メーカーはキオクシアだけと言っても過言ではないので、あまり取り上げられていないのかもしれません。もしくは、メモリ不況が厳しくあまり明るい話題が書けなかったのかもしれません。

全体としては、現在の半導体業界の立ち位置から、今後どうやっていくべきかという方向性を明るく書いているという感覚がしました。(つまり、これは絶対にうまくいかないという立ち位置では記事は書かれていないということです。)

日本の半導体シェアのグラフには気を付けたい

ここからは、個別に気になった部分をいくつかピックアップして書いていきます。

まずは、半導体特集の最初のページにある、日本の半導体売上高のシェアのグラフについてです。よく見るグラフだなと思っていましたが、経産省の資料が出所なんですね。(ちゃんと調べて今回出典がどこなのか、初めて知りました。)

経済産業省(2021.3.24)「第1回半導体・デジタル産業戦略検討会議」資料から引用

このグラフで、2019年の売上ランキングが2021年の売上ランキングに差し替えられたものが、グラフとして出ていました。
この図を見て、1988年と比べて、2019年のシェアは激減していることはわかるんですが、いくつか注意しないといけないことがあります。(日本のシェアが激減しているということは変わりませんが。)

1つ目は、この売上高ランキングは最終製品の売上高を集計しているということです。つまり、TSMCはファウンドリなので必ずどこかのファブレス企業にチップを供給しています。そうすると、TSMCは「最終製品」を作っているわけではないので、このグラフには入ってきません。(TSMCの売上をカウントしてしまうと、二重にカウントしてしまうことになるので、集計の仕方としては正しいです。)

2つ目は、1988年と比べて日本の半導体売上高の「シェア」が落ちていることは事実なんですが、日本の半導体デバイスメーカーの売上が下がったわけではないということです。図の中の青い棒グラフが世界の売上高で、赤い棒グラフが日本の売上高です。青い棒はマクロに見ると伸び続けていますが、赤い棒は1990年代後半から2019年までほとんど変わっていない(むしろちょっと下がっている)ことがわかります。

つまり、日本の半導体のシェアが下がったのは、日本の売上高が激減したのではなく、世界のマーケットが成長しているにもかかわらず、日本の半導体デバイスの売上が成長していないのが原因です。

日本の半導体デバイスメーカーの売上が増えていないので、全体のパイが増えている分シェアが下がっているということです。世界の半導体売上高は今後も増えていくでしょうから、日本メーカーが成長できないとシェアは下がり続けるのは自明です。(0%台になることはさすがに無いと思いますが。)

第一印象として感じる、日本メーカーのシェアが下がっていることは事実なのでいいんですが、世界シェアの増加率に対して日本が成長していないことを強調しておくべきなのではないかと思います。将来的に世界シェア0%になる可能性があると書くのは、ちょっとミスリードのように感じます。

ファブレス企業が売るチップはだいたいTSMC製

次に気になったのは、GPU関連の特集です。GPUはあんまり詳しくないんですが、NVIDIAが取り上げられていました。

GPUメーカーはNVIDIAだけではないですが、強いのは間違いありません。半導体関連企業の時価総額でも、NVIDIAがトップ(2023年時点)なことを見ても、市場からの期待も高いのがうかがえます。

NVIDIAはファブレスメーカーで、実際にチップを製造しているのはTSMCでしょうから、よほどNVIDIAへの期待が高いんでしょうね。たしかに、CPUメーカーのAMDもファブレスで、実際の製造はTSMCに委託しているでしょうから、ファブレスメーカーでもユーザーのソリューションに対応できれば、市場の評価は高くなるんでしょうかね。

個人的には、ファブレスメーカからの委託を受けて世界中の半導体チップを作っているTSMCの方が技術力の面で強いのではないかと思ってしまいますが、市場での評価はファブレスのNVIDIAの方が高いとは、不思議なものです。

NVIDIAであれAMDであれ、ファブレスメーカーはファウンドリが受託してくれないとチップが作れないので、世界の半導体を支えているのはTSMCと言っても過言ではないことが、ファブレスメーカーへの評価の高さからもよくわかります。

ラピダスには期待しすぎではなかろうか

3つ目に気になったのは、ラピダスに期待しすぎではなかろうか?ということです。

ラピダスについては、「無理だろ」という意見から「日本のためにはやらないといけない」という意見まで様々なことが言われています。半導体業界に携わっている方の感覚としては、1つ1つ世代を進めていかずに一気に2nmプロセスを作るのは、難しいのではないか?というのが正直なところではないでしょうか。

私自身、途中のプロセスをスキップしていきなり2nmプロセスを立ち上げるのは困難だと考えています。IBMから試作品のプロセスを供与してもらったとしても、試作品を作るのと量産プロセスを立ち上げるのは大きな違いがあります。

ラピダスが目指しているのは超短TATラインで、競合となるTSMCより納期が短いプロセスを実現することで差別化を目指すということです。もう一つは、結局顧客がどこなのかがはっきりしていないのが不安要素です。

TSMCはファウンドリなので、ファブレスメーカーからの受注を受けて製品を作るので、必ず顧客がいる製品を作っています。その点、ラピダスは2nmプロセスの量産ラインを立ち上げながら、お客さんを探す形になります。

量産ラインを立ち上げるためには、莫大な先行投資が必要ですから、立ち上げてからお客さんがいない状況になるのが、一番苦しいのではないかと個人的には感じています。

東洋経済の紙面では、ラピダスに関して悲観的な見方はしていないようですが、ポジティブに考えても難しいのではないかと感じているところです。

デンソーがJASMに出資した理由に納得

次に面白かったのは、デンソーがJASMに出資した理由についての記事です。

JASMは、TSMCが合弁会社として日本に建てるロジック半導体製造の子会社です。ソニーの熊本工場に隣接して建つので、ソニーのイメージセンサ向けのロジック回路を作るのはほぼ自明だと思っていました。

JASMにデンソーが出資している理由が、今までよくわからなかったんですが、記事を読んで合点がいきました。デンソーなどの自動車部品メーカーが使っているロジック半導体の世代は現段階では40nmレベルだそうです。実は、デンソーなどは車載向けのマイコンをルネサスに委託しています。

ルネサスは、40nm以降の世代の先端開発は自社で行っていないんですよね。それ以降の世代に関しては、TSMCなどのファウンドリに委託しているのは有名な話です。そうすると、デンソーなどが車載向けマイコンをルネサスに委託しても、結局ルネサスがTSMCに再委託するような形になります。

ルネサスが自社の工場で40nm以降のプロセスを作る能力がないのであれば、最初からTSMCとの合弁会社を作ってしまった方がいいとデンソーは判断したんでしょう。非常に賢い判断だなぁと思って、感心してしまいました。

パワー半導体の投資競争に勝てる会社は日本にあるのか

パワー半導体の記事についても、非常に勉強になりました。

先端ロジック半導体の研究開発は日本では絶滅しかかっていますし、半導体メモリに関してもNANDフラッシュメモリを製造するキオクシアが残っているだけです。一方、パワー半導体は日本メーカーがまだ残っている分野です。

パワー半導体は、従来はSiが使われていましたが、SiCを使う方向に技術開発が進んでいます。SiCはSiに比べてコストが高いので、Siを置き換えるまでには至っていませんが、性能が求められて価格がある程度高くてもいい用途には使われています。(例えば、新幹線のパワー半導体にはSiCが使われてたりします。)

SiCパワー半導体は、いかに投資して数を増やしてコストを下げていくのがが普及の鍵になってきます。海外メーカーだと、STマイクロやインフィニオンが強いですから、日本メーカーは投資に対して消極的だとシェア競争に負けかねない状況であると思います。

そんな中で、積極的な投資をしているとして紙面で取り上げられていたのがロームです。半導体業界以外の方は、ロームはあまりご存じないかもしれませんが、京都にある会社です。

パワー半導体を強化する方針を打ち出して、1000億円レベルの投資を行うことを発表しています。これだけ積極的に投資を行っている会社は、日本ではローム以外にないですから、本気でSiCパワー半導体で戦っていくつもりなんでしょう。

Nikon・Canonも露光装置業界で戦えるのか?

最後に、半導体製造装置の中でもとりわけ重要な露光機に関して取り上げられていました。

大昔は、半導体の露光装置はNikonとCanonが強かった時代もありました。今では、EUV露光装置を作っているASMLが大半のシェアを持っています。

ただ、過去に強かった名残で、NikonやCanonも、それなりの線幅までは装置を作ることができます。EUV露光装置は、単価は高いですが、半導体プロセスの中で使われるプロセスはそれほど多くありません。

一番微細な加工が必要なところでは、EUV露光装置が使われますが、それ以外の部分の寸法はEUVを使う工程よりも緩いので、広い線幅でいいレイヤには広い線幅用の露光機が使われます。

パワー半導体の後工程などでは、EUVほど微細な線幅は使われないので、広い寸法の露光機の需要もあるようです。ただ、EUV露光機を作れるのは今のところASMLだけなので、今後Nikon・Canonがシェアを増やしていくのは難しような気がします。

まとめ

この記事では、2023/10/2発売の週刊東洋経済が半導体特集号だったので、内容を元半導体エンジニアの観点から読み解きました。気になる部分をピックアップしましたが、全体としては半導体業界に携わっているのであれば、読んでおくべきだと思います。

個人的には税込み850円で読めると考えると、割安だと感じました。半導体業界と言っても、デバイスだけでもロジック・メモリ・パワー・アナログ・イメージセンサがありますし、半導体デバイス・半導体製造装置・半導体材料の全てを知っている人はなかなかいないんじゃないかと思います。

現在の日本の半導体産業が置かれている状態についてわかりやすく書かれているのでおすすめです。まだ、買われていない方はこちらのリンク先から買っていただけると嬉しいです。

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この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

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