キオクシアに銀行が巨額融資を検討している理由を解説~借り換えが出来なければ終わりの始まり~

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みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、キオクシアとWestern Digitalの合併報道に書かれてるようで書かれていない、銀行が巨額融資をする理由に絞って解説します。

日経新聞の2つの記事をもとに、内容を紐解いていくので、是非元の記事を読んでみてください。(有料会員限定になっています。)

2023/10/13 21:15「キオクシア、WD半導体部門と統合で最終調整 日米再編

2023/10/14 19:00「キオクシア・WD追い込まれ再編 技術劣勢・財務悪化・メモリー不況で苦境

目次

銀行団がキオクシアに巨額の融資を検討している理由

前提として、Bloombergから2023/9/20時点で、「キオクシアとWD経営統合、3メガなど2兆円の融資で支援-関係者」という記事が出ています。内訳は、融資1.6兆円とコミットメントライン4000億円の計2兆円です。

融資の1.6兆円は、日本政策投資銀行が3000億円を、3メガバンクが残りの1.3兆円を担うようです。

これだけ見ると、キオクシアの巨額の融資が行われるように見えますが、融資された金額をキオクシアが設備投資に使えるようになるわけではありません。

その理由は、キオクシアは2019/5/31にメガバンク3行から9000億円近い借り入れをしているからです。細かい内訳は載せませんが、返済期日は2024/6/17となっています。

また、日本政策投資銀行からは2019/6/17に優先株という形でトータル3000億円の出資を受けています。そして、この優先株は色々な付帯事項がありますが、2024/12/17を経過すると現金での償還を求めることができる条項になっています。2024/12/17に償還を求められなかったとしても、2025/6/17に強制的に償還を行う条項となっています。

素直に借金の返済期限を読むと、キオクシアは1年以内に9000億円近く、2年以内に3000億円を返さないといけないことになります。トータル1.2兆円程度の借金返済が必要なわけですが、果たしてこれは可能なのでしょうか?

借り換えられなければ経営統合以前の問題

ここで、2023/3/31現在のキオクシアの貸借対照表を見てみましょう。

流動負債と固定負債を合わせると、1.4兆円程度あります。

一方、流動資産は7000億円程度しかありません。2023/3/31現在の貸借対照表なので、2023年4-6月期に1000億円近い赤字を出していたことを考えると、会社の手元現金は流出していてもおかしくありません。

半導体メモリメーカーなので、固定資産の大半は土地・工場・製造設備でしょうから、固定資産を売って現金化することも難しいと考えられます。(詳しい内訳は中の人しかわからないでしょうが、現金化できる資産があるのであれば、早期に現金化しているはずです。)

つまり、3メガバンクからの借り入れと日本政策投資銀行からの優先株の償還を行うのは、かなり厳しい状況(というか、耳をそろえて期限内に払うのは事実上不可能?)です。

ここから、メモリ市況が回復して1四半期で2000~3000億円の純利益が出せれば可能かもしれませんが、年換算すると8000億円~1.2兆円レベルの利益に相当するのでほぼ不可能でしょう。(キオクシアの例年の年間売上に相当する額です。)

借金が返せなくなると会社はどうなるのか

ここからは、一般論です。一般的に、借金が返せなくなったら会社はどうなるのかを考えてみましょう。

法的には色々方法がありますが、会社の資産を現金化して株主に株式保有比率に基づいて分配する清算型のやり方と、事業を継続する前提で負債の整理を行う「民事再生」や「会社更生」のパターンがあります。

細かい内容は、私が法律の専門家ではないので書きませんが、株主や債権者(銀行から借金した場合は銀行)が割を食う状態になります。

大企業が倒産しにくいのは事実ですが、JALが2.3兆円の負債を抱えて会社更生法を申請(事実上の倒産)したことも歴史的にはあります。大企業の場合、行っている事業が無くなると困る人がたくさん出てくるので、事業を継続する前提で債務の整理を行う形になる場合が多いでしょう。

巨額の融資は時間稼ぎのための借り換え

ここで、キオクシアの話に戻ります。

1兆円近い融資を既に行っている3メガバンクは、キオクシアの財務状況は把握しているはずなので、返済期限に元本の返済を求めても、現金での支払いがほぼ不可能なことはわかっているはずです。

そうすると、仮に元本の返済を求めたとしても返済ができず、倒産でもされようもんなら融資している元本が戻ってこないことになりかねません。

ではどうするのかいうと、借り換えを行うことが考えられます。借り換えは、簡単に言うと今まで融資していた分の額かそれ以上の額を新しく融資して、もともとあった借金を返済してもらって、返済期限を実質上先延ばしすることです。

融資を借り換えた場合の条件や、返済期限は都度設定されるので、詳しいことは中の人しかわかりませんが、1~2年で返済できる額ではないので数年(5~6年くらいでしょうかね?)の期限が設定されるはずです。

3メガバンクと日本政策投資銀行が借り換えに応じてくれれば、元本の返済期限が先延ばしにできるので、時間の猶予はできます。Western Digitalとの経営統合も、この借り換えが実現しなければ、経営統合以前の問題なので、「経営統合を支援するために融資を検討」という書き方になるのでしょう。

借り換えても元本の返済は利益からしか行えない

借り換えは、元本の返済期限の先延ばしであると書きましたが、結果的に時間稼ぎに過ぎません。

というのは、借金の元本は会社が稼いだ利益からしか返済することができないからです。(厳密にいうと、他人から借入を繰り返して別の借金を返し続けていくことも短期間であればできますが、自転車操業になるので金を貸してくれる人がいなくなった瞬間、借金が返せなくなって終わりです。粉飾決算でもしない限り、赤字の状態で自転車操業を続けるのは無理でしょう。)

重要なのは、返済の期限を先延ばしにした時に、本当に返済できるのか?ということです。

仮にメモリ市況が回復したとしても、5年で1兆円を返済すると仮定すると平均化して年間2000億円を作り出さないといけません。そして、それだけ稼げるくらい半導体メモリ市況が好況だったとしても、借金返済のために年間2000億円を割かないといけないわけです。

もし、借金が少ない他社であれば、年間2000億円の利益を設備投資や研究開発費に回すことができます。

正直、年間2000億円を借金返済に回さないといけないのは、NANDフラッシュメモリ専業メーカーであるキオクシアや、経営統合後の会社にとって、重すぎる負担だと私は考えています。

借り換えが行えなければその時点で厳しい状況に追い込まれますし、借り換えができたとしても、競合する半導体メモリメーカーとはハンデを負った競争をしなければいけない状況になるのは間違いないでしょう。

ちなみに、キオクシアの競合となる半導体メモリメーカーの財務状況に興味がある方はこちらの記事を読んでみてください。会社によって、財務状況は違いますし、Samsungの借金の少なさは圧巻です。

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まとめ

この記事では、キオクシアとWestern Digitalの合併報道に書かれてるようで書かれていない、銀行が巨額融資をする理由に絞って解説しました。

字面を読むだけでは、キオクシアに巨額の融資が行われるように見えますが、「実態は過去の借金の借り換えである」というのがこの記事のポイントです。

このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。

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この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

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