みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、キオクシアとWetsern Digitalの経営統合に対して競合の半導体メモリメーカーであるSK Hynixが反対の意思を示している件について解説します。
流れとしては、SK Hynixがキオクシアの株式を持っている理由、SK Hynixが経営統合に反対する理由、今後キオクシアが取れる道の順に解説していきます。
SK Hynixがキオクシアの株式を間接的に持っている理由
SK Hynixが、キオクシアとWestern Digitalの経営統合に反対している話の発端は、なぜSK Hynixがキオクシアの株式を持っているのかということです。
一般的に、同業他社の株式を多量に保有することはあまりありません。買い増しされると、買収されるリスクが高まるからです。逆に言うと、多量に同業他社の株式を保有しているということは、長期的には買収や子会社化を狙っていると考えられます。
SK Hynixが同業他社であるキオクシアの株式を多量に(約15%)持っている理由は、東芝が半導体メモリ部門を売却した時に出資しているからです。とはいえ、キオクシアの株式を直接SK Hynixが持っているわけではありません。一応間接所有という形になっています。
どういうことかというと、2020年8月27日現在のキオクシアの株主構成(議決権あり)を図にするとこうなります。

こう見ると、東芝が40%近くを持っていることがよくわかります。BCPE○○は、キオクシアが売却された時に関わったファンド(ベインキャピタル)が作った投資用の会社の名前です。この投資用の会社の中で、BCPE Pangea Cayman 2の株式保有割合が15%となっています。(15%になっているので、小数点以下の四捨五入の関係で、正確には14.96%です。)
このBCPE Pange Cayman 2の持ち分に対して、SK Hynixがほぼ100%出資しています。つまり、BCPE Pangea Cayman 2の議決権は、実質的にSK Hynixが持っているわけです。こういう形を取っているので、「間接保有」していると言われています。
ちなみに、BCPE Pangea Cayman 2が出資時に支払った金額は、1290億円となっています。同業他社から見れば、約1300億円払ってキオクシアの株式の約15%を手に入れられるというのは、安い買い物に感じたのではないでしょうか。
とはいえ、SK Hynixはキオクシアの同業他社になるので、他の株主との利害が相反する可能性は大いにあります。(今回の、経営統合に反対というのが顕著な例かもしれません。)このことを考慮して、2028年までSK Hynixはキオクシアの株式の15%超を保有できない取り決めになっています。(だから、ギリギリの14.96%になっているわけです。)
東芝から売却されるときにSK Hynixの出資を受けない選択肢はあったのか
ちょっと寄り道になりますが、SK Hynixの出資を受けない選択肢はあったのかを考えてみます。X(旧Twitter)のpostを眺めていた時に、「SK Hynixの出資を受けるべきではなかった」という趣旨のpostを見つけたのが理由です。
結論から言うと、SK Hynixの出資を受けない選択肢はあったかもしれないが、その分キオクシア本体の借金が増えているので、どちらが良かったのかはよくわからないです。
キオクシアが東芝から売却されたときの経緯は、別の記事で解説しているので、詳しい内容は別の記事を読んでいただきたいんですが、概略だけ説明します。


東芝からキオクシアが売られた時に、東芝に支払われた現金は約2兆円です。一方、出資で集められたお金はトータル1.5兆円です。差分の約5000億円(実際に借金したのは約6000億円です)はキオクシア(当時の東芝メモリ)が借金しています。
つまり、SK Hynixから約1300億円の出資を受けなければ、キオクシアの借金があと1300億円増えていたであろうことは想像に難くありません。実際、当時の東芝メモリが借金するときの融資枠は8250億円あって、融資されたのは6361億円でした。
6300億円に1300億円足すと7600億円ですから、SK Hynixの出資を受けずに融資で乗り切る選択も無いわけではなかったのかもしれません。ただ、出資は基本的に返さなくていいお金ですが、借金は必ずどこかで返さないといけないので、基本的には出資してもらえるのであれば、出資してもらったほうが経営はやりやすくなります。
東芝から売却される時には、早期にIPOなどの方法で上場することをゴールにしていたでしょうから、出資を受ける方が素直な考え方です。1300億円借金すると、年利2%でも年間で利子分だけで26億円発生しますから、積極的に借金の額を増やすのは得策ではないでしょう。
実際問題、ここまでIPOが遅れることは売却当時は想定していなかったでしょうし、メモリ市況の悪化で多額の赤字を出し続けることになるとも想定していなかったでしょうから、こうなる事態は当時の関係者からすれば、想定外が重なっているといえるのではないでしょうか。
結局のところ、SK Hynixからの出資を受けない選択肢は、売却当時の状況を考えると、無かったのではないかと私は考えています。
キオクシアとWestern Digitalの経営統合に反対しないわけがない
さて、SK HynixがキオクシアとWestern Digitalの経営統合に反対している話に戻ります。
NANDフラッシュメモリのシェアを見れば、SK Hynixが経営統合に反対している理由は、はっきりとわかります。
ちょっと古くて申し訳ないですが、2022年10-12月期のNANDフラッシュメモリのシェアを図にしています。(最新のデータだと、SK Hynixがシェア2位になっています。最新のデータは日経新聞のこちらの記事をご覧ください。)

この図はよく見る図ですが、SK HynixはキオクシアやWestern DIgitalと2位のシェア争いをしている状況です。
キオクシアとWestern Digitalが経営統合すると、このシェアがどうなるか見てみましょう。

2社のシェアを単純に足すと、このようになります。グラフを見たらわかるとおり、キオクシア+Western DigitalとSamsungが2強となり、SK HynixとMicronが3番手・4番手争いをすることになります。
SK Hynixは、2社に経営統合されてしまうと、2強2弱になるのが目に見えているので、経営統合に反対しているわけです。当然と言えば当然の判断です。私がSK Hynixの立場であれば、絶対に経営統合には反対します。
筆者の大きい読み違い
ここで、1つ読者の皆様に謝らなければいけないことがあります。というのは、色々な記事で私はキオクシアとWestern Digitalは経営統合を進めていくしかないと、書いていました。
経営統合に向けての課題は、中国の独禁法審査だと書いていたんですが、SK Hynixの話はあまり触れてきませんでした。実際、新聞記事だと、中国の独禁法審査とSK Hynixの判断が課題だと書いてあります。
なぜ、SK Hynixの判断を課題にあげてこなかったのかというと理由があります。
SK Hynixが保有しているのは、BCPE Pangea Cayman 2の株式なので、キオクシアの経営にファンドが絡んでいる以上、Western Digitalとの経営統合をまじめに進めるのであれば、SK Hynixへ何かしらの交渉を進めているはずだと思っていたからです。
何かしらの交渉というのは、例えば出資額の倍くらいの値段でSK Hynix保有分の株式をキオクシアが買い取るとか、優先株に転換するから配当の利率を上げるとか、色々な手段はあると思うんです。SK Hynixへの根回しなしに、経営統合の方向性を発表すれば、SK Hynixが反対するのは目に見えていますし、下手すると3メガバンクの借り換えに影響が出る可能性すらあります。(借り換えの件に関しては、こちらの記事で解説しています。)

つまり、Western Digitalとの経営統合を目指すのであればそれなりの準備をして、中国の独禁法審査で出される要求の呑む覚悟で進めているのではないかとキオクシア期待していたわけです。
しかし、そうではなかったことが今回の報道ではっきりわかりました。SK Hynixの保有株式について課題として明確に指摘してこなかったのは、読者の方に申し訳ないと思っています。
ファンドは何をやっているんだろうか?
そして、SK Hynixの反対報道を読んだ時に感じたのが、ファンドは一体何をやっているんだろうか?ということです。
SK Hynixは、水面下の交渉を行わなければ確実に反対するのはわかっているのに、ファンドが手を打っていないのであれば、キオクシアにとっても、ファンド(ベインキャピタル)にとっても、選べる選択肢がほとんど残っていないのではないかと感じます。
ファンドがキオクシアを買収した目的は、買値より高く売って差分を儲けることです。
現状、IPOが見込めない以上、IPO以外の出口戦略を描かないといけないわけです。出口戦略が描けていないのであれば、結果論ですがキオクシアを買ったのは失敗だったのではないかと思えてきます。
ファンド保有の株式は、ペーパーカンパニーが持っているので具体的に誰が出資しているのかは見えませんが、出資者がいる以上「損しました」で終わるわけにはいかないのではないかと思うんですけどね。
ファンドにも策が無いのであれば、キオクシアは相当追い込まれているといえるでしょう。
キオクシアの利害関係者の利害は一致しない
ここで、この問題は何が難しいのかを考えてみます。
中国の独禁法審査を除いて考えると、利害関係者として登場するのは4者です。
【キオクシアの利害関係者】
1.東芝(株主)
2.ベインキャピタル(株主)
3.SK Hynix(株主)
4.Western Digital(協業先)
これらの4者が現状目指しているゴールを推測するとこのようになります。
1.東芝
できるだけ早くキオクシア株式を現金化して、関係性を解消したい。
2.ベインキャピタル
自分たちの買値よりキオクシア株を高く売りたい
3.SK Hynix
NANDのシェアで自社より大幅に大きい経営統合は絶対に容認できない
4.Western Digital
キオクシアと経営統合してNANDのシェアを増やして、最終的には自分たちが主導権を握りたい。
つまり、この4者の利害が一致する場所を探すこと自体が不可能な状況です。
1と2は経営統合後の上場等で実現可能かもしれません。しかし、経営統合自体が3と4の利害関係の対立で実現不可能であれば、絵に描いた餅です。
かといって、SK Hynixとの連携に舵を切ろうとしても、今度はWestern Digitalが容認しないでしょうから(今のSK Hynixと逆の立場になります)かなり苦しいです。
逆に言うと、だからこそキオクシアに選択肢が無くなっているとも言えます。
時間の浪費は命取り
利害関係者の利害が一致しないことから、キオクシアの選択肢は無くなってきていますが、もう一つ問題があります。
それは、キオクシア自体が抱える借金です。詳しいことは、借り換えの件を解説した記事で書いていますが、あまり時間的猶予はありません。

もし仮に、SK Hynixの経営統合反対が借り換えの審査に影響して、借り換えが認められなかったり、一部しか借り換えられなかったりすると、手元資金の枯渇が現実味を帯びてきます。
実は、先ほど表した利害関係者の1~4のうち、1,2,4はキオクシアの経営が立ち行かなくなると損が出ます。ただ、3(SK Hynix)だけは、キオクシアの経営が立ち行かなくなってもあまり困らない立場にいます。
というのは、SK Hynixがキオクシアに出資しているのは1290億円だけです。仮にキオクシアの経営が立ち行かなくなると、1290億円は返ってきません。(厳密に言うと、どのくらい減資されるかによると思います。)
しかし、キオクシアの経営が立ち行かなくなるということは、NANDフラッシュメモリのシェアの草刈り場になります。キオクシアと協業しているWestern Digitalも大きな影響を受けるでしょう。つまり、キオクシアの生産しているNANDフラッシュメモリのシェアをどの会社が取るのか?という話になってくるわけです。
過去を振り返ると、日本にあったDRAMメーカーであるエルピーダメモリが倒産後、MicronがスポンサーとなりMicronのDRAMのシェアは増えました。エルピーダの倒産で、DRAM市場の寡占化が完成したといっても過言ではありません。
つまり、SK Hynixとすれば出資した1290億円が返ってこなかったとしても、キオクシアの持っているNANDフラッシュメモリのシェアが取れれば万々歳なわけです。こういう見方をすると、SK Hynixの立場からすれば2社の経営統合に反対して時間稼ぎをしていれば、キオクシアの資金力を見るに経営が苦しくなっていくだけだろうと考えているでしょう。
仮に、キオクシアが倒産したとしても、隙をついてシェアを取れればSK Hynixとすれば、それでいいわけです。
策が無いなら経営陣は交代すべき
ここまで、キオクシアがいかに追い込まれていて、SK Hynixが経営統合に反対する理由を解説してきました。
最後に、SK Hynixが経営統合に反対した記事を読んだ瞬間に感じたことを書きます。正直なことを言うと、キオクシアの経営はファンドによってかなり制限されているのは事実だと思います。IPOも上場申請までしておいて、取り下げになっているのは上場しても株価が上がらないことをファンドが嫌ったためだと考えられます。
しかし、現状キオクシアとして取れる選択肢が非常に限られている中、存続のギリギリのラインにいるのではないかと考えています。(国が税金を投入するのであれば、話は別ですが。)
キオクシアとして、どんなビジョンがあって、経営状況は厳しくても未来を描けるのであれば話は別ですが、現状の動きを見ていると、追い込まれて仕方なく経営統合を目指しているようにしか見えません。
経営陣が会社のビジョンを描けないのであれば、早急に現経営陣は交代した方がいいのではないかと、私は感じています。極論、ファンドの人が経営すれば、身売り含めて何かしらの解は見えてくるはずです。
会社の経営が危機的な時に、経営陣が判断を下せないのであれば、交代した方がいいのではないかと思います。(解任は難しいですが、自分から辞任するのはいつでもできるはずです。)
ずるずる時間だけが経って経営が立ち行かなくなるくらいであれば、外部から経営者を招いて何かしらの解を導いた方が最終的に良い結果をもたらすと私は考えています。
まとめ
この記事では、キオクシアとWetsern Digitalの経営統合に対して競合の半導体メモリメーカーであるSK Hynixが反対の意思を示している件について解説しました。
SK Hynixの立場を考えると、経営統合にずっと反対し続けてもそれほど損は無いことが見えてきます。
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。



この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
コメント
コメント一覧 (3件)
下記URLにあるように、SKは3950億円出資してます。
うち1290億円が将来的に議決権にできる転換型社債(議決権15%)
残り2660億円は議決権なしの単純な出資です。
出資総額(URLのもあるように1兆円くらい)の中でSKの3950億円はかなりの金額を占めるので、SK無しでは厳しかったかもしれません
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/00587/
もう国からの補助金や、日本政策投資銀行からの融資増額がないとどうにもならない状況かもしれません…
とはいえ後者は金利高くされがちだし…(現状の日本政策投資銀行からの融資(優先株)は金利4.2%)※IPO時の目論見書より
海外メーカーのマイクロンや、成功の見込みの薄いラピダスに巨額の支援をするくらいならキオクシアに支援したほうがマシな気がする
コメントありがとうございます。
前のコメントで指摘いただいているように、SK Hynixが4000億円くらい出資してるという報道が当時あったんですね。
そこまで見れませんでした。議決権無しの出資というのが不思議な感覚はありますが、ベインキャピタルの保有分の株式で、出資はHynixがしたけれども議決権はファンドが持っているようなものがあるんでしょうね。
細かい持ち分は見えないですが、修正しておきます。
マイクロンやラピダスに対して支援をすること自体は、そんなに悪くないと個人的には思っています。
キオクシアに対して国が支援をしたとして、どうできるかを考えてみると、借金を税金でちゃらにするくらいしか策が無いように個人的には思っています。