みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、キオクシアがJIC(産業革新投資機構)への出資を求めたとの報道から、キオクシアの置かれている状況を整理して今後の見通しを考えていきます。
ソースのニュースはこちらです。(Yahooニュースになっているので、誰でも読めます。)
https://news.yahoo.co.jp/articles/1740229ec7e70987b23bdb4fc150172d333c6504
報道内容を解説
最初に、報道の内容で気になったところを簡単に解説します。
JICは何者なのか
まずは、JICとは何者なのかということです。ご存じの方はご存知だと思います。
日本語だと、産業革新投資機構という名前で経産省所管の法人です。財務大臣が96.19%の株式を保有しており、実質的には国の持つ投資ファンドです。
一応、投資対象となるのは「大学や研究機関に分散する特許や先端技術による新事業、ベンチャー企業の有望な技術、国際競争力の強化につながる大企業の事業再編など」とwikipediaには書いてあります。
半導体関連の企業でJICの出資を受けた会社は、例を挙げると「ジャパンディスプレイ」「ルネサスエレクトロニクス」「JOLED」などがあります。
このうち、JOLEDは2023年3月に民事再生法を申請しています。ジャパンディスプレイも出資を受けて何とか続いていますが、営業利益は赤字が続いていて厳しい状況です。
つまり、大企業への出資という意味では、日本として保有しておくべき技術を持っているけれども、経営が苦しい会社に対して行われることが多いといえます。(そもそも、会社自体が健全に利益を出せていれば、JICが出資することにはならないわけです。)
資本が毀損とはどういう意味か
次に、記事中で出てくる「資本が毀損する状況」とはどういうことなのかを簡単に書きます。
資本が毀損しているということは、簡単に言うと会社のお金が減っていることを意味しています。会計的には、会社には他人から借りたお金(負債)と返さなくていいお金(資本)があります。
会社は借金があってもいいんですが(というか、ほとんどの会社は借金しています)、自社の持っている資産に対してどのくらいの割合借金しているのか?ということが問題になります。
例えば、会社の持っている資産(土地・建物・機械装置・株式等々)が10億円あったと仮定しましょう。会社の資産が同じ10億円だったとしても、どのくらい借金があるかによって経営のしやすさは変わってきます。
A社は9億円の借金があり、B社は1億円の借金だったとしたら、どちらの方が経営しやすいかを考えるとB社の方が経営しやすいです。理由は簡単で、A社は将来的に9億円の借金を返さないといけないのに対して、B社は1億円でいいからです。
もともとの、資本が毀損している状況というのは、会社の持っている資産に対して、借金の割合が高く返さなくていいお金(資本)が減っていることを意味しています。
資本を増やすには、2つしか方法がありません。2つの方法とは、「会社の利益を積み上げていくこと」と「投資家から出資してもらうこと」です。
投資家から出資してもらうことを、一般的に増資と言います。(資本を増やすから増資です。)
キオクシアの置かれている状況から考えると、会社の利益が出せていない(むしろ赤字)の状況なので、会社の利益を積み上げて資本を増やすことは困難です。会社の利益を積み上げて資本を増やすことができないので、増資に頼ろうとしているわけです。
コミットメントレターが出るかどうかの重要性
コミットメントレターが出るかどうかの重要性については、別の記事で詳しく解説しています。

簡単に言うと、メガバンクを含めた銀行団からコミットメントレターが出ないと、過去の借金の元本を返さないといけません。しかし、キオクシアの手元現金は、過去の借金の元本を返すだけの額が無いので、借金が返せなくなってしまうということです。
ちなみに、銀行団のコミットメントレターは出たようです。(以下の日経新聞の報道がソースです。)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC19B260Z11C23A0000000/?type=my#AAAUAgAAMA
SK Hynixの反対が懸念材料になる理由
最後に、SK Hynixの反対が懸念材料になる理由は単純明快で、SK Hynixはキオクシアの株式の約15%を持っているからです。
SK HynixがキオクシアとWestern Digitalの経営統合に反対する理由は、こちらの記事で詳しく解説しています。

キオクシアとWestern Digitalの経営統合のための融資なのに、経営統合自体を株主が反対していたら、頓挫する可能性が高いのは、融資する側から見ると単純にリスクです。(SK Hynixの反対以外にも、経営統合が頓挫するリスクはありますが。)
JICが出資した場合の利害関係者一覧
ここまで、キオクシアがJICの出資を求めた報道について、簡単に解説しました。
ここからは、JICが出資した場合キオクシアの利害関係者がどうなるのかを考えてみます。キオクシアの利害関係者は、株主と協業先だけでもかなりたくさんいます。そこにJICが加わるとこのようになります。
【キオクシアの利害関係者】
■株主
・東芝
・HOYA
・ベインキャピタル
・SK Hynix
・JIC(New)
■協業先
・Western Digital
■銀行
・三井住友銀行
・みずほ銀行
・三菱UFJ銀行
・日本政策投資銀行
これだけたくさんの利害関係者の中で、キオクシアは経営を迫られています。
客観的に見ると、これだけの利害関係者の利害が一致する可能性はほとんど無いでしょう。JIC以外の利害関係者の関係性は、こちらの記事で解説しています。

SK HynixとWestern Digitalだけを見ても、利害が相反しています。
JICの出資が行われるとすると、1000億円規模かそれ以上になるのではないかと考えています。10億や100億の出資では、焼け石に水ですし、1兆円の出資は厳しいと考えると1000億円程度が軸になるのではないかと思っています。(いっても、3000億円~5000億円が上限ではないかと思います。)
実質的に国が支援しないと立ちゆかない状況
冒頭で、JICは経産省所管のファンドだということを説明しました。
結果的に、キオクシアがJICの出資を求めているということは、国の支援が無いとにっちもさっちもいかない状況にあるということを示しています。
キオクシアの資産の状況については、こちらの記事で詳しく解説しています。

支援を受けたうえでどうしていくのか
私の見解としては、キオクシアは半導体メモリ市況の悪化に伴って、多額の赤字を計上しています。
実際問題、キオクシアとWestern Digitalの経営統合は、キオクシアの経営が追い込まれたが故に出ていることだと考えられます。
現状、キオクシアの経営が厳しいことと、ほとんど選択肢が残されていないことは事実です。現状、手元で選べる選択肢が残っていない事実を認めたうえで、ここからどうしていくのかを考えていくのが重要だと思っています。
キオクシアとWestern Digitalの経営統合には、超えるべき壁がたくさんありますが、キオクシア単体でNANDフラッシュメモリ業界の競争に勝ち残っていくのは難しいので、規模を大きくすることは前提にしたうえで競争に勝てる方向性を模索してほしいと思っています。
まとめ
この記事では、キオクシアがJIC(産業革新投資機構)への出資を求めたとの報道から、キオクシアの置かれている状況を整理して今後の見通しを考えてきました。
キオクシアの置かれている状況が厳しいことは事実ですが、現状を嘆いても何も変わらないので今後どうしていくのかが重要でしょう。
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。



この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
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