キオクシアを巡る問題の根幹は巨額の負債~壮大なババ抜きゲームに勝者はいない~

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みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、キオクシアを巡る問題の根幹は巨額の負債で、本質的な解決方法は2つしかないことを解説していきます。

Western Digitalとの経営統合は破談になりました。SK Hynixの保有する株式の問題や、中国の独占禁止法審査などキオクシアを取り巻く環境には大きな課題があります。しかし、本質的な問題はそこではありません。

キオクシアの利害関係者については、過去の記事で解説しているので興味がある方は読んでみてください。

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目次

キオクシアの抱える一番の問題

キオクシアが抱える一番の問題は、東芝からの売却時に発生した巨額の負債です。このブログでは何度も出していますが、2023/3/31現在のキオクシアの貸借対照表を示します。

この貸借対照表では、固定負債が約8000億円あることがわかります。これだけでも巨額の負債ですが、隠れているものが1つあります。それは、日本政策投資銀行から出資を受けている優先株3000億円分です。

日本の会計基準では優先株は純資産として扱われますが、日本政策投資銀行の優先株は償還日が到来したら償還する取り決めになっています。つまり、実質的な負債です。このため、国際会計基準では負債として扱われますが、この貸借対照表は日本の決算公告のデータのため、日本の会計基準で書かれており、優先株は純資産の中に含まれています。

優先株と固定負債を合わせると、1.1兆円近い負債があることになります。つまり、キオクシアは1兆円近い負債を抱えながら、メモリ市況の悪化に突入しているわけです。(貸借対照表は2023/3/31現在のデータですが、2023年4-6月期は1000億円近い赤字を出しているので、状況が改善している可能性はほぼありません。)

どの会社と経営統合しようと、どの会社がキオクシアを吸収しようと、キオクシアの根本的な問題は市況の変動が激しい半導体メモリメーカーの会社にもかかわらず、1.1兆円近い負債(流動負債も含めると1.8兆円レベル)を抱えていることです。

しかも、この巨額の負債の大部分は自社の設備投資を過大に行ったことではなく、東芝からメモリ部門が売却されたときのスキームによるものです。(詳細は長くなるので、興味がある方はこちらのリンク先の記事をご覧ください。)

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結局のところ、自力で経営再建しようが、経営統合や吸収合併があろうが、巨額の借金を返していかなければならないことは変わりません。

巨額の負債を誰が負担するのか

先ほど解説したように、キオクシアは巨額の負債を抱えています。巨額の負債をどうするかを考えた時に、方向性は2つしかありません。

【巨額の負債に対処する方向性】
・時間を掛けても元本を返済する
・負債の返済を放棄する

時間を掛けても元本を返済する(PlanA)

第一の選択肢としては、時間を掛けても元本を返済することが挙げられます。借金を返済する原資は、会社の売上から原価を引いた粗利しか基本的にありません。時間を掛けても会社が生み出した粗利から借金を返していくことができれば、負債は減っていきます。また、IPOする場合でも会社が市場の投資家から資金調達して資金を集められるので、借金返済に充てることができます。

自社の粗利から返済する場合でも、IPOして資金調達して返済する場合でも、(おそらく自力+IPOのミックスになるでしょうが)資金が調達できれば元本を返していくことができます。

他社と経営統合したり、他社に吸収合併されたりした場合でも、借金が無くなるわけでは無いので、経営統合した会社か吸収合併した会社が借金を返していくことになります。

負債の返済を放棄する(PlanB)

第二の選択肢は、負債の返済を放棄することです。つまり、経営破綻を選択することです。

経営破綻を選択する場合、株主の出資したお金は返ってきませんし、債権者(銀行)にも借金の減額を申し出ることになります。(どのくらい認められるのかはケースバイケースでしょうが、借金で首が回らなくなった会社は、借金を減額しないと経営を続けていくことができないです。)

実質的には、会社の手元資金が底をついた時に、経営破綻になる場合がほとんどです。キオクシアの現状を考えると、フラッシュメモリの市況回復と、手元資金が尽きるのとどちらが早いかというラインに立たされている状況でしょう。

つまり、現状はPlanAですが、資金が尽きると同時にPlanBに移行するような状況にあるわけです。

壮大なババ抜きゲーム

ここまで解説してきたように、キオクシアは手元資金が尽きるのが早いか、メモリの市況回復が早いかというラインにいます。キオクシアの株主や債権者から見ると、ババ抜きをしているような状況です。

PlanBに移行されると、株主や債権者は自分たちが投資したり融資したりした資金が返ってこなくなる可能性が高いので、本当は早く手を引きたいはずです。

しかし、巨額の負債を抱えていたり、キオクシアを取り巻く利害関係者が多いことが災いして、株主は株式を保有したままです。また、債権者も融資額が巨額なので、手を引くに引けない状況にあります。

少し言い方は悪いですが、Western Digitalとキオクシアの経営統合が実現していれば、キオクシアの既存株主はWestern Digitalとキオクシアの持ち株会社にババ(巨額の負債)を押し付けられたわけです。(債権者の持つ債権は変わらないでしょうが。)

これは、協業のメモリメーカーが仮にキオクシアを買収した場合でも同じです。株式を取得して会社を買収したとしても、買収した会社の借金が無くなるわけではありません。キオクシアを買った会社が、間接的に借金を持つような形になります。

今後、どういう方向に進むかわかりませんが、キオクシアを買収した会社は必然的にババを引くことになります。つまり、どの会社と経営統合しようが、どの会社が買収しようが、本質的な問題は何も解決しません。(買収した会社が相当な資金を持っていて、負債を代わりに返済してくれるのであれば話は別ですが。)

そして、PlanBに移行してしまうと、その時点でキオクシアの株式を持っている株主は大損(出資した資金が取り戻せない状況)になります。この枠組みを、ババ抜きに例えているわけです。

解決策はどこにあるのか

キオクシアの抱える本質的な問題を解決するには、キオクシア自体が巨額の負債を自力で返済していく計画を明示して、経営が継続できるように資金調達を募るか、経営破綻を選択して借金を棒引きしてもらうしかないと私は考えています。

現状の手元資金が少ない以上、自力で負債を返していくのであれば、経営が継続できるように資金繰りを支援してもらうしかないでしょう。

一方で、巨額の設備投資と研究開発費を負担しなければならない半導体メモリ事業において、巨額の負債を抱えながら経営を続けていくことは、他社との競争の観点から考えると圧倒的に不利です。(具体的に言うと、借金が少なくてシェアも大きく、DRAMも作っているSamsungにどうやって太刀打ちしていくのかということです。)

借金を借金で返しても(借り換えのことを意味しています)、利子負担が発生するので本業で利益を出せていなければ、借金の総額は増えていきます。結果的に、巨額の負債を抱えて経営が立ち行かなくなるくらいであれば、早期に借金の減額を考えるべきではないかと、個人的には考えています。(もちろん、債権者に合意が必要なのでそう簡単にはいかないでしょうが。)

もともと、キオクシアが東芝から売られた経緯を思い出すと、東芝が債務超過に陥って上場廃止になるのを回避するために売却されたわけです。売れる事業があれば売るのは会社としては当然の選択ですが、結果的に東芝本体の負債をメモリ部門に付け替えたような形になっています。

負債の出どころがどこであれ、借りた金は返さないといけないので、東芝本体の負債ではなくなっていますが、不正会計と原発事業の損失から生まれた東芝の債務超過の問題は、形を変えてキオクシアの巨額負債の問題という形で顕在化しているように私は感じてしまいます。

まとめ

この記事では、キオクシアを巡る問題の根幹は巨額の負債で、本質的な解決方法は2つしかないことを解説しました。

株主構成の複雑さや、中国の独占禁止法審査の問題もありますが、キオクシアが抱える一番根本的な課題は巨額の負債です。

記事に関して、誤記などがあればコメントいただけると嬉しいです。

このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。

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この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

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