東芝の2023年7-9月期の決算を解説~上場廃止が決まっているので最初で最後の決算解説~

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みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、東芝の2023年7-9月期の決算を解説します。

このブログは、半導体関連の記事が多いので、「なぜ東芝?」と思われる方が多いかもしれません。一応東芝も、パワー半導体を扱っているので、半導体メーカーではあります。しかし、今回着目したのは東芝の半導体事業ではありません。

半導体メモリメーカーのキオクシアについて見ていくと、キオクシアを売却した東芝が必ず出てきます。2023年12月で東芝は上場廃止になることが決まっています。上場廃止になると、投資家に向けた詳細な決算発表は行う必要が無くなります。そうすると、一般投資家は東芝の詳細な財務データを見ることができなくなります。

そこで、上場廃止される前の東芝について、財務状況と事業内容をちゃんと確認しておこうと思って、今回の記事で東芝を取り上げることにしたわけです。キオクシアの記事の中で、東芝について触れることは多々ありましたが、初めて東芝本体の事業を取り上げていきます。

目次

東芝の事業内容

このブログでは、東芝の決算について初めて解説するので、簡単の東芝の事業内容を見ていきます。

事業セグメント

東芝は、かつてより規模は小さくなったといえども大企業です。事業は7つのセグメントに分かれています。

【東芝の事業セグメント】
・エネルギーシステムソリューション
・インフラシステムソリューション
・ビルソリューション
・リテール&プリンティングソリューション
・デバイス&ストレージソリューション
・デジタルソリューション
・その他

それぞれのセグメントを簡単に紹介します。

エネルギーシステムソリューションは、原発などの発電所や発送電分野を手掛けています。

インフラシステムソリューションは、鉄道・上下水道などのインフラ産業のシステムを手掛けています。

ビルソリューションは、エレベータなどの昇降機がメインです。

リテール&プリンティングソリューションは、POSシステムや印刷機などを手掛けています。

デバイス&ストレージソリューションは、半導体周り(ディスクリート)やHDDを扱っています。

デジタルソリューションは、IoTやAI分野を手掛けています。

その他としては、電池事業を手掛けています。

各セグメントを簡単に紹介しましたが、やはり会社としての規模が大きいことがわかると思います。とはいえ、かつて扱っていた、白物家電・パソコン・ライフサイエンス分野は既に無く、インフラ寄りの会社になっています。

東芝とキオクシアの関係性

本論の前に、簡単に東芝とキオクシアの関係性について解説します。

キオクシアは、元々は東芝の半導体事業部の中の半導体メモリ事業でした。NANDフラッシュメモリを作っていた半導体メモリ事業を、分社化したうえで売却されてできたのが現在のキオクシアです。

東芝はキオクシアを売却しましたが、売却後に再度出資して現在ではキオクシアの40.64%の株式を保有しています。40.64%の株式を保有しているが故に、キオクシアの決算が悪いと、東芝の連結決算にも悪影響が出ます。(詳しくはのちほど解説します。)

決算概要

2023年4-9月期の決算概要は、このようになっていました。

四半期で売り上げが1.4兆円なので、非常に規模が大きい会社であることがわかります。一方、営業利益は222億円なので営業利益率は1.5%程度です。規模が大きいとはいえ、利益率に関してはかなり低いといえます。製造業といえども、売上高が大きいので、感覚としてはギリギリ黒字という感じでしょうか。(赤字よりはましですが。)

そして、営業外損益が616億円の赤字となっています。ここに、キオクシアの赤字が影響しています。

当期純利益は、営業利益と営業外損益を足したものなので、494億円の赤字です。本業の利益である営業利益が、売上高の割に小さいことと、営業外損失が600億円近くあったので、純利益としては赤字となってしまいました。

売上高

東芝の売上高を、セグメント別に見てみます。

先ほど紹介した7つのセグメント別に売上高を示しています。正式名称は長いので、略称にしています。

売上高比率を円グラフで見るとわかりやすいです。エネルギー・インフラ・リテール・デバイスがメインであることがわかります。突出して売上が大きい分野があるわけではなく、各セグメントにそれなりに分散していることがわかります。(あとから見ますが、利益になると一変します。)

営業利益

売上高の次は、セグメント別の営業利益を見ていきます。

セグメント別の利益に関しては、ビルとその他は赤字だったので除外しています。売上高比率を見ると、セグメントごとにある程度分散していましたが、利益はインフラが半分近くを稼いでいます。というか、インフラ以外のセグメントがほとんど稼げていないと言った方が正しいかもしれません。

デバイスセグメントは特にそうで、2000億円近く売上がありながら34億円の黒字なので、2%以下の利益率です。ギリギリ赤字になっていないのが救いなのかもしれませんが、為替が少し変動しただけでも赤字になっておかしくないくらいの利益に見えます。

持分法の扱い

売上高と営業利益について見てきましたが、東芝の決算には営業外損失が600億円近くありました。簡単に言うと、営業利益は自社の事業(つまり本業)の利益を示していて、営業外利益は本業以外の利益(損失)を表しています。

営業外利益のよくある例としては、上場会社の株式を多量に保有していて、株式の配当収入を得ている場合などがあります。(興味がある方は、京セラの決算を見てみてください。歴史的な経緯から、京セラはKDDIの株式を大量に保有しており、KDDIの株式の配当収入がかなり入っています。)

東芝は大企業で子会社や関連会社もたくさん持っています。企業の連結決算は、子会社や関連会社も含めた形で、全体の決算がどうなっているのかを表しています。そうすると、子会社が多額の損失を出している場合、連結決算に反映されるようになっています。

東芝の関連会社の1つが、キオクシアです。関連会社の線引きは細かいところもありますが、大きな線引きラインは親会社が20%以上の株式を持っているかどうかです。東芝はキオクシアの40%近い株式を保有していますが、キオクシアの経営に関与していないので、関連会社という扱いになっています。

企業の連結決算では、関連会社の損益は株式の持ち分に応じて親会社の損益に反映されます。つまり、キオクシアの損益の40%程度が、東芝の損益にも加わるということです。

つまり、簡単に言うとキオクシアが1000億円の赤字を出した場合、東芝は営業外損失で400億円を計上しなければいけないわけです。(ある意味とばっちりと言えばとばっちりですが、黒字の場合は営業外利益として計上できるので、調子がいい時にはプラスの効果になります。)

やはり、経営に関与できない状態で、キオクシアの赤字の影響をモロに受けるのは東芝の株主としては、避けたい状況なはずです。そうすると、キオクシアを再度買収するつもりがない東芝の立場に立つと、キオクシアの株式を早く手放して現金化したい状況にあるのは間違いないでしょう。

のちほど少し解説しますが、東芝は投資ファンドがTOBしており、ファンドに投資した投資家から見れば、キオクシアの株式を持っていても経営に関与できず、赤字の場合は連結決算で損失を食らうことを考えれば、現金化して株主への配当へ充てろという要求があるはずです。

財務状況

次に、非上場化前最後の財務状況について見ていきます。

貸借対照表

2023/9/30現在の東芝の貸借対照表は、このようになっていました。

東芝の貸借対照表は初めて図にしましたが、率直な感想は「キオクシアより全然良いじゃないか」というものでした。自己資本比率は38.8%でした。

純資産額も1.3兆円程度あるので、巨額の減損などがなければ、すぐに経営が傾くわけではないのではないかと感じています。(東芝は、国際会計基準で財務諸表を作っています。)

キオクシアの株式は貸借対照表のどこにあるのか?

ここからキオクシア周りで、少しマニアックな話になります。

東芝は、キオクシアの約40%の株式を保有しています。会社の株式を保有しているということは、貸借対照表の資産のどこかにキオクシアの株式が入っているわけです。貸借対照表を探してみると、固定資産の中に「その他の資産」という項目があります。この中に、関連会社の株式などが込々で書かれています。

色々な関連会社の株式が込々で書かれているので、キオクシアの株式がいくらで計上されているのかは、はっきりはわかりません。ただ、東芝がキオクシアに出資した時には約3500億円の出資を行っています。最新の貸借対照表の、その他資産の額は3978億円なので、ある程度の割合がキオクシアの株式になるはずです。

キオクシアの業績が悪化して、東芝の保有株式が減損されている可能性が高いので、正確なところはわかりませんが、その他資産の部分のある程度が、キオクシアの株式であるのは間違いないようです。

東芝がキオクシアを売却した流れについては、こちらの本で解説しているので興味がある方は読んでみてください。

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東芝をTOBしたJIP

さて、2023年に東芝はTOBされて、非上場化されることが決まっています。東芝を買収したのは、日本産業パートナーズ(JIP)が中心となって組成したファンドです。TOB総額は約2兆円です。

かつて、半導体メモリ部門を2兆円で売った東芝が、今となっては東芝全体が2兆円で買えてしまうわけですから、不思議なものですね。

東芝を買収したファンドは、さまざまな会社が出資しているので、どの会社がどの程度出資して議決権比率がどの程度になっているのかは、明らかになっていません。とはいえ、1社で2兆円出すような会社は無いでしょうから、ある程度の数の会社が出資していると考えられます。

キオクシアでもそうですが、株主がたくさんいて、それぞれの株主によって思惑が違うと、会社の経営判断が困難になります。東芝は買収後、事業セグメントごとに分社化するのか、全体で再上場を目指すのかはわかりませんが、ファンドが株式を持っているということは、必ず出口戦略が必要になります。

もともと、東芝が非上場化を目指したのは、モノ言う株主の要求で、経営が困難になったからであるはずです。しかし、ファンドがTOBして非上場化したとしても、株主が増え、それぞれの株主の思惑が違う場合、出口戦略を描くのが困難になるのは、想像に難くありません。

余程の経営者が経営を立て直すのであれば話は別かも知れませんが、現状のまま進んで行っても、東芝として主体的な意思決定を行えるとは到底思えないというのが、東芝の非上場化に対する私の見方です。(キオクシアがよく似た例だと思っています。)

非上場化して東芝はどこを目指すのか

東芝は非上場化されることになりましたが、非上場化はゴールではなくスタートラインであるような気がします。

ここから、出口戦略を描くことができなければ、非上場会社になって、あまり儲からない状況が続くことになります。非上場会社になると資金調達の選択肢が狭まるので、今後どんなかじ取りが行われるのかを注視していきたいと思います。

まとめ

この記事では、東芝の2023年7-9月期の決算を解説しました。

一言でまとめると、売上高は大きくて規模は大きいけれど、ほとんど稼げていない会社というのが結論です。

東芝は非上場化されるので、おそらく最初で最後の決算解説になると思います。あとから振り返って、東芝が非上場化する直前の経営状況を振り返りたくなる時のことを考えて、この記事を書いたところもあります。

キオクシアと東芝の関係性や、東芝がキオクシアを売却した時の経緯については、こちらの本で時系列に沿って解説していますので、興味がある方は読んでみてください。

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この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

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