ラピダスが打ち出す「短TATライン」のコンセプトを20年越しに考える~20年経てば環境は大きく変わっている~

本ページは広告・プロモーションを含みます

みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、ラピダスが打ち出す「短TATライン」のコンセプトが、もともとどういうものだったかを考えていきます。

前提として、私は日本で2nmプロセスの実現を目指すラピダスは、技術的な困難は待ち受けていると思いますが、成功してほしいと考えています。しかし、短TATラインのコンセプトだけは、理解できずにいました。

「TSMCが既に存在しているのに、なぜラピダスは短TATラインを目指すのだろうか?」という問いの答えを探していたら、たまたま見つけたのがラピダスのの社長をされている小池さんが日立時代に書かれた日立評論です。(ネットに落ちていました。なんでだろう???)

ラピダスの短TATラインのコンセプトが、過去のトレセンティのコンセプトに由来していることはご存じの方が多いと思いますが、トレセンティの基本コンセプトらしきものが書かれていて、当時の時代背景を考えると短TATラインの考え方自体は理解できなくはないと思い至ったので、この記事を書いているわけです。

目次

短TATラインのコンセプトはトレセンティにあり

トレセンティの短TATラインのコンセプトが書かれた日立評論は、こちらのリンク先で読むことができます。

https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/2000/10/2000_10_08.pdf

テーマになっているのは、現在ではルネサスの那珂工場のN3棟をトレセンティとして建てた当時のコンセプトです。

書かれているのが2000年なので、2023年現在とは環境がかなり異なっています。

トレセンティ時代の背景

トレセンティによってN3棟が建てられた当時の背景で、現在と一番大きく違うのはウエハの口径が、200mmから300mmに移行する過渡期であったことです。

他にも異なる点は多々ありますが(逆に、同じところを探すのが難しいかもしれないです)、200mmから300mmになると単純に200mm時代と同じ台数装置を入れようとすると、装置が高額になるのでトータルの設備投資額が大きくなります。

300mmウエハ向けの装置を単純に導入すると、200mm時代よりも設備投資額が増加するので、200mm時代と同程度の投資で300mmウエハでラインを組もうとするとどうすればいいのかという観点で考えだされたのが、スケーラブルファブです。(詳しい図は、日立評論の図1をご覧ください。)

あとは、装置の使用工程数とウエハの処理能力からはじき出される、各装置の工程能力をそれぞれ見ていくと、余力のあるものと、そうでないものに分かれます。工程能力に余力のあるものは、処理チャンバー数を減らすことでトータルの設備投資を減らすことができるというロジックでした。

着想のポイントは、200mmの大規模工場レベルのラインをを300mmウエハのラインにそのまま置き換えると設備投資が増えるので、「200mmの大規模工場レベルの生産能力を300mmで設備投資を抑えて実現するにはどうすればいいか」ということだと考えられます。

300mmウエハを導入する初期であれば、設備投資が増えるのは工場として回収しなければならない額が増えるので、当時としては理解できる考え方なのではないかと個人的に感じます。(結果的に、N3棟はルネサスの工場として今でも動いているわけですし。)

あとは、大量のウエハを流すメモリと違って、ロジック向けのラインなので、枚葉処理にすることでロットの処理待ち時間を減らして短TAT化することで、サイクルタイムを減らすことができるというのが付加価値につながるであろうという流れです。

枚葉処理の場合処理時間はウエハ枚数に比例するので、ウエハ径を200mmから300mm化することでウエハ径拡大で同じチップ数を取るために必要なウエハ枚数が減るので、処理自体の時間も短縮できると述べられています。(200mmから300mmに移行する場合のメリットでしかないわけですが、当時はメリットだったはずです。)

20年前なら理解するが・・・

日立評論の内容をまとめると、設備投資を抑制したうえで300mmウエハ化を進めることができて、枚葉処理で300mmウエハを流すことでトータルの処理時間が減らせるので、スケーラブルファブかつ枚葉処理化はメリットがありますよ、ということです。

技術的な内容が書かれているからなのかわかりませんが、サイクルタイムを短縮する短TAT化は強調されていますが、短TAT化したメリットについてはあまり書かれていない印象でした。

結果的に、トレセンティは合弁相手だったUMCが撤退して日立が買い取り、ルネサスに移ったのが歴史です。

2000年当時は、2023年現在よりも先端ロジック半導体を作っている会社は多くありました。日本国内でも、NECや東芝もまだロジックをやっていた時代です。かつ、先端ロジック半導体がプレーナー型のトランジスタだったため、現代と比較すると研究開発と製造のために必要な設備投資は少なくて済みました。

翻って、現代の先端ロジック半導体メーカーを見ると、TSMC・Samsung・Intelの3社しか残っていません。(SMICもそのうち、追いついてくるかもしれませんが。)

2000年と比較して、ファブレスとファウンドリの分業が明らかに進んでいる現代において、短TATラインの意味は改めて考える必要があると私は考えています。

要は、ラピダスはファウンドリとしてチップを製造することをゴールにするならば、「超短TATだけど値段が10倍になる」ことを受け入れて製造委託するファブレス企業があるのか?を真剣に問う必要があるということです。

試作ラインを構築するだけであれば、短TATラインの方が効率が良いですが(同じ時間で回せる試作数が増えるので)量産となると話は変わってきます。

ラピダスに関しては、2nmプロセスの量産技術を獲得するだけでも十分ハードルが高いので、無理に超短TATラインで量産化を目指すのではなく、まずは先端ロジック半導体の量産プロセスを獲得することを第一目標とするべきだと私は考えています。このまま、超短TATラインに価値があると信じて突き進んで、結局顧客はいませんでしたというオチになるのを危惧しています。

ある意味、トレセンティは合弁相手だったUMC(UMCもファウンドリなんですけどね)が撤退して、N3棟は結局ルネサスになっていることを考えると、短TATラインで値段が上がることを価値と捉える顧客は少ないことは、歴史が既に証明しているように思えてなりません。

まとめ

この記事では、ラピダスが打ち出す「短TATライン」のコンセプトが、もともとどういうものだったかについて、20年前の日立評論をもとに解説しました。

私は、トレセンティができた時代には半導体業界にいなかったので、実際のところどういうインパクトがあったのか、そしてトレセンティが成功する見込みがあったのかについては、詳しく存じあげない部分があります。もしご存じの方がいらしたら、教えていただけると幸いです。

記事に関して、誤記などがあればコメントいただけると嬉しいです。

このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。

あわせて読みたい
半導体業界への転職におすすめの転職サイト3選 みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。 この記事では、半導体業界に興味がある方向けに、半導体業界への転職に強い転職サイト3選を紹介します。 ...
あわせて読みたい
2nmプロセスがなぜ難しいと言われるのかをわかりやすく解説~初心者向け~ みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。 この記事では、ラピダスが量産しようとしている2nmプロセスが難しいと言われる理由を、ざっくりわかりや...
あわせて読みたい
【企業解説】フラッシュメモリメーカーのキオクシアについて解説 みなさんこんにちは。このブログを書いている東急三崎口です。 この記事では、NANDフラッシュメモリメーカーのキオクシアについて解説していきます。 キオクシアについ...

この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次