みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事は、「株式って何なんだ?」ということを、上場株式の売買ではなく、株式の本質的価値から考えてみようというのがコンセプトです。
書いている内容は、そんなの当たり前だよ、と思われる方もいらっしゃると思います。
ただ、「株」と聞くと、上場株式の市場内売買がメインに見えてしまいがちですが、実は会社の株式をを買うということは、上場株式の売買は本質ではないということを伝えたいと思って書いております。
そもそも株式を買うことの位置づけ
この記事を書くことにしたきっかけは、Xのある方のpostです。
株式投資は、上場株式の売買が一番簡単な方法ですが、上場株式の売買は会社にとって何かメリットがあるのか?というところがよくわからないという感覚を持ちました。
上場株式の場合は、市場で売買できるので極端な話、お金があれば買えますし買った株は売買が成り立つ値段であれば、売ることができます。
しかし、株式の本来的な意味は、現金と引き換えに会社の所有権を持つことです。
例えば、ある会社が株式を1株100万円で100株売り出すことができれば、1億円の資金調達を行うことができます。
会社の株式が全部で100株だとすると、1株持っていれば会社の1%の所有権を持っていることになります。
1%の所有権を持っているということは、株主総会の議決権の1%を持てますし、会社が清算することになった場合、残余財産の1%を受け取ることができます。
もちろん、会社が利益を出せている場合には、利益の額に応じた配当も株式の所有権の割合に応じて受け取ることができます。
会社の株式を持つことの根源的な仕組みは、会社の所有権を持つということになります。
もちろん、所有権の割合が高くなれば、株主総会の議決を単独で阻止できたり(拒否権行使のことです。33.3%以上持っているとできます。)します。株式の保有比率が上がるほど、単独でできることが増えます。
上場株式の売買は何をやっているのか
会社の株式を持つということの、根源的意義は会社の所有権を保有することでした。
それでは、上場株式の売買は何をやっていることになるのでしょうか。
上場株式を買う場合、市場で付いた値段に買いたい株数を掛けた価格を出して株式を買うことになります。
つまり、現金と上場株式を交換していることになります。株式を買うと、「買った株数/発行済株式数」の割合だけ、株式を買った会社の所有権を持つことができます。
これだけ見ると、株を買うことで会社の所有権を持つという本質的な意味合いと変わりません。
極端な話、キャッシュを生み出し続けられる会社の株式を買って、ずっと持ち続けておくのであれば、会社の所有権を持つことに限りなく近くなります。
しかし、株式「市場」が存在するということは、常に株式に値段がついていることになり、株式の値段である株価は常に変動し続けます。
市場が存在して、株価が変動するということは、安く買って高く売ることができれば差額を儲けることができます。(空売りを使えば逆もあり得ますが、簡単のために現物買いで安く買って高く売ることを例に出しています。)
この、株を安く買って高く売ることで得られる利益をキャピタルゲインと呼びますが、市場があって売買が行われるものでは、キャピタルゲインを狙って取引が行われます。
このような売買方法は投機と呼ばれることが多いですが、株式に限らず市場が存在していて、売買の流動性が高いものでは投機が必ず発生します。
上場株式に限らず、外国為替・国債・社債・不動産・原油・金・仮想通貨などなど、市場があって売買できるものであれば、ほとんどすべてのものが投機の対象になりえます。
投機で儲けるという観点でいえば、会社自体の成長性よりも株価が上がること(空売りであれば下がること)に重きが置かれます。実態はどうあれ、株価が上がらないと利益が出せないわけですから。
投機も投資も、やっていることは株式を市場で買ったり売ったりしているだけなので、表向き区別はつきません。
どっちにしても、既に流通している株式を市場で売買しても、株式を発行した会社にお金が入るわけではありません。(証券会社は手数料を受け取ることができますが。)
企業の資金調達の方法
上場株式の売買について考えたので、次は株式を発行する企業の観点から、資金調達の方法を考えてみます。
企業は上場すると、資金調達の方法が増えますが、非上場企業では資金調達の方法は大きく2つに分けられます。
図にした方がわかりやすかったので、こちらの図を見て下さい。
図は、貸借対照表と損益計算書を概念的に書いています。左側が貸借対照表、右側が損益計算書です。
非上場企業が資金調達をする場合には、株式を発行する方法と、銀行などから融資してもらって借金をする方法の2つがあります。
2つの大きな違いは、返す必要があるかどうかです。
株式を発行する場合は、現金と引き換えに株主に株式を渡すので、原則返済する必要はありません。
一方、銀行などから借金した場合には、必ず返済する必要があります。ただ、借金の場合には株式を渡さないので、利子は付きますがお金を返せば株式を渡す必要はありません。
事業がうまく行っている会社であれば、顧客から受け取った売上から費用を差し引いた利益が、純資産に繰越利益剰余金の形で入ってきます。
極端な話、事業から得られる利益が潤沢で外部から資金調達する必要が無いくらいキャッシュがある場合には、わざわざ借金したり、株式発行をして資金を集める必要はないということになります。
株式によって企業が資金調達を行えるのは、新株を発行する場合だけです。
上場すると、社債の発行ができたり、公募増資ができるようになったりします。
一般的には、不特定多数の人から株式で資金調達するのは出資法で禁じられています。しかし、上場企業はその例外として公募増資を行うことが認められています。
上場企業の株式は、市場で不特定多数の人が売買するので、会社情報の公開が義務付けられているわけです。なので、上場企業は公募増資を行うことができるわけです。
どちらにせよ、企業側が新株の発行で資金調達できるのは、最初の発行時のみで、そのあと株価が上がっても下がっても、最初に調達した資金が増えたり減ったりすることはありません。
新規上場時のキャピタルゲインの出どころ
さて、上場すると、自社の情報などを公開しなければならなくなったり、外部の投資家に株式を渡すことになるのに、企業はなぜ上場するのでしょうか?
情報公開しなければならない範囲は、非上場の会社の方が圧倒的に狭いです。極端な話、法的義務があるのは年1回の決算公告だけですし、株主総会を開く必要はありますが、情報公開は株主だけにすればいいわけです。
上場企業の有価証券報告書を読むと、事細かに財務状況や事業のリスクなどが書かれています。これは、投資家保護のためです。不特定多数の人が株式を売買するので、情報を得たいと思った投資家が誰でも読めるようにしておかなければならないわけです。
企業がわざわざ上場を目指す理由は、いくつかあると思いますが、一つは信用を上げることと、資金調達の方法が増えることがあります。
上場企業になるためには、クリアすべき指標がありますし、そもそも上場基準を満たさなければ上場の審査を受けることもできません。
日本だけでも会社自体はたくさんありますが、上場している会社は割合としては非常に少ないので、上場していることで基準を満たしていて株式が売買されているという信用を得ることができます。
また、上場することで社債の発行や公募増資が可能になるので、資金調達の方法が非上場の場合と比べて広がります。
もう一つは、創業者利益を得るためです。
新規上場する場合、既存株主がいて、既存株主の株式を売却したり新株の発行を行ったりすることで資金調達が行われます。
既存株主の構成次第ではありますが、創業者が多数の株式を保有している場合、それまでの出資額と、市場での評価額との差分が創業者の手にする利益になります。(どの程度株式を売却するかによりますが。)
創業者だけではなく、上場前から出資していたベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などの投資家も上場時に株式を売却することで利益を手にすることができます。
では、上場前の投資家が出資した金額と上場後に売却する時の株価の差分は、どこから生まれるのでしょうか。
これは、上場するときには、不特定多数の人が株式を売買できるようになるので、その会社に対する期待で決まります。
既存の株主が出資した額は確定しているので、上場後の会社の成長への期待に基づいて、株式を買いたい人が多ければ株価が上がりますし、誰も買いたくなければ株価は下がります。
既存の株主が出資した額よりも、市場での評価が高ければ既存の株主は儲かりますし、逆であれば損することになります。ただ、損することが明らかな場合には、新規上場は行われないでしょうが。
例えば、キオクシアのIPOを考えて見ると、具体的に見えると思います。
キオクシアの場合、既存株主はベインキャピタル・東芝・HOYAです。
ベインキャピタルは、東芝から約2兆円でキオクシアを買いました。2兆円は、借金でまかなわれている部分と、出資の部分がありますが、出資額は既に確定しています。
新規上場する既存株主から見れば、自分たちの出資額と比べて上場時の株価が上がれば差分が利益になりますし、上場時の株価が下回れば損になります。
投資という観点で見ると、自分たちの出資額より、上場時の株価が下がることは何としても避けねばなりません。
株価は何で決まるのかを考えると、不特定多数の市場の投資家が、その会社の株を買いたいと思うかどうかで決まります。
買いたい人が多ければ株価が上がりますし、買いたくないと思う人が多ければ株価は下がります。
それまで非上場だったベンチャー企業の上場と比べて、企業規模が大きいので難しいところはありますが、結局のところ投資家が買いたいと思えば株価が上がり、買いたい人が少なければ株価は下がります。
株主と従業員の位置づけ
最後に、株主と従業員の位置づけを考えます。
株主は会社の所有権を持っているわけで、従業員は会社の使用人に過ぎないという考え方もあると思いますが、私はそこまで極端な考え方は持っていません。
もちろん、株主は会社の所有権を持っているので、会社に対して企業価値を上げるように要求することは当然です。
企業価値を上げることは、株価を上げることもありますが、利益を増やすことも含まれます。(配当は企業の利益からしか出せませんから。)
損益計算書だけ見ると、従業員への給料は販管費に含まれるので、経費になります。数字上は、従業員数を減らせば販管費が減るので、経費を減らせて利益が増えるように見えます。
ただ、実際にはそうはいきません。会社が利益を上げるための原資である、売上を立てるためには、従業員が必要で有形無形のノウハウや経験を持っているからこそ、会社が売上を立てることができているわけです。
一瞬だけ利益を増やすためには、従業員削減が有効に見えますが、長期的に見た時に従業員を減らすということは、企業の成長を止める形になるので、メリットはそれほどないと考えられます。(企業が成長しない前提で考えるのであれば、話は別ですが。)
また、企業は基本的に将来的に無期限に事業を継続することを前提にしています。(ゴーイング・コンサーン)
無期限に事業を継続していくうえでは、従業員の力が必要ですし、社内で蓄積された知見やノウハウをうまく継承していけないと、事業を継続していくことが困難になります。
この観点から考えると、従業員は株主と並んで企業の重要なステークホルダーであり、企業の事業継続において非常に重要な役割を果たしていると言えます。
これは個人的な意見ですが、経費削減のために従業員を安易にカットするのは、一時的な経費削減には効果的ですが、企業の事業を将来にわたって継続するという点では、デメリットしかないように思えます。
株主としても、株式を持っている企業が将来的に渡って利益を生み出していくことを考えれば、従業員は重要なステークホルダーであることは明白なので、従業員は企業の「使用人」に過ぎないというのは、いささか行き過ぎた考え方ではなかろうかと感じます。
株主に利益をもたらしてくれている会社の事業を進めていくうえでは、従業員の存在が必要不可欠なのですから。
株式会社はお金を作り出す装置
株式って何なんだ?ということを切り口に記事を書いてきましたが、株式会社はお金を作り出す装置に過ぎません。
会社の所有権を分割して、多くの人から資金を調達し、調達した資金で事業を運営し利益を得るための仕組みです。
非常によくできた仕組みだなぁと、私自身感じさせられます。
上場株式だと、安く買って高く売る投機としての側面が強くなりがちですが、株式のそもそもの意味合いを考えると、会社の事業を見て継続的に利益を生み出せる会社に対して投資していくことが王道であることは間違いないです。
まとめ
この記事では、「株式って何なんだ?」ということを、上場株式の売買ではなく、株式の本質的価値から考えてみました。
いつもと違う感じの記事になっていますが、読者の方の参考になれば幸いです。
普段は、半導体についての記事を書いているので、興味がある方は他の記事も読んでみてください。
この記事はここまでです、読んでくださってありがとうございました。
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