キオクシアの借金が借り換えの見通しという記事から見えるもの

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みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、キオクシアが最大9000億円の借り換えと1000億円の融資を受けることについて、記事から読めることについて書いていきます。

読売新聞の記事はこちらです。無料で読むことができます。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240610-OYT1T50242

目次

借り換え+融資の内訳

簡単に今回の報道による借り換えと融資の内訳を説明します。

読売新聞の報道によると、6月中に返済期限を迎える約9000億円の借金の借り換えと、1000億円の追加融資を銀行団が行うことに決めたという内容です。

9000億円の借金の借り換えは、5年前にキオクシアが銀行団から借り入れた借金の返済期限を延ばしてもらう形になっています。(のちほど詳しく触れます。)

追加融資の1000億円は、運転資金として借り入れるようです。(リボルビングの枠が追加される形になるんでしょうかね。)

トータル1兆円の融資ですが、9割の9000億円は既存の借金の借り換えなので、実質的にキオクシアが使えるのは新規の融資枠である1000億円です。

約9000億円の借り換えは、キオクシアが存続しようとしたときに必須だったので既定路線としても、追加で1000億円を融資してもらえる形になったので、当座の資金繰りは改善すると思われます。

借り換えがキオクシアの存続のために必須だったのは、2024/3/31の貸借対照表を見れば一目瞭然です。こちらの記事で解説しているので、興味がある方は読んでみてください。

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銀行団の思惑は

9000億円の借り換えと1000億円の追加融資を行う銀行団の思惑について考えてみます。

もともと、借り換えを行う9000億円に関しては、シンジケートローンになっており、三井住友銀行がメインバンクとなり、メガバンク3行+三井住友信託銀行が融資する形になっていました。

東芝のメインバンクが三井住友銀行なので、その流れを汲んでメインバンクが三井住友銀行になっていると考えられるので、今回の借り換えも三井住友銀行がメインバンクになっていると思われます。

銀行団からすると、9000億円の融資の返済期限が2024/6/17となっていましたが、キオクシアの財務状況を見ると全額一括で返済することはできないのは明らかです。

借り換えを認めずに9000億円の返済を求めるということは、事実上銀行がキオクシアの資金を絶つことになります。

キオクシアの直近の業績を見ると2会計年度連続で赤字で、財務制限条項はほぼ確実に抵触しており、お世辞にも業績が良いとは言えません。

今まで借金を行ってこなかった会社が、キオクシアのような財務状況で新規融資を申し込んでも、ほぼ確実に断られるでしょう。

一方で、キオクシアに融資している額はトータルで9000億円と巨額であり、運転資金が確保できれば事業継続は可能なので、消極的な判断ですが借り換えおよび融資を行ったと考えられます。

また、読売新聞の記事によれば、キオクシアが経産省から受けられる補助金は設備投資の1/3ですが、2/3部分は担保にできることを確認したと書かれています。要は新規投資する装置等を担保にすることで、融資および借り換えに対してGoを出したということでしょう。

キオクシアの補助金については、こちらの記事で解説しているので、興味がある方は読んでみて下さい。

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先日、キオクシアは四日市工場の土地をヒューリックに売ってしまったので、工場の土地は担保にすることができません。(そもそも、工場の土地だけでは9000億円規模の融資の担保にはなりませんが。)

工場の土地も売ってしまったくらいですから、キオクシアは短期で現金化できる資産や担保になりうるような不動産や資産はあまり残っていないと考えられます。

結果的に、新規に投資を行う設備を担保にする形に落ち着いたと私は予測しています。(よくよく考えると、補助金はまだ全額出たわけでは無いですし、将来買う予定の装置に対して担保権を付けるのは不思議な話です。現物や権利として保有していないものを担保にするわけですから。)

5年前からどのくらい返せたのか

今回、借り換えが行われた9000億円の出どころを簡単に紹介します。

直接的な出所は、2019/5/31にメガバンク3行から受けた融資です。枠がいくつか分かれていますが、この時総額9115億円+リボルビング借入枠1100億円の融資を受けています。

2019/5/31に受けた融資の返済期限が約5年後である2024/6/17だったわけです。

数字を見ればわかる通り、5年前に約9000億円の融資を受けて、約9000億円の借り換えを行っているので、ほとんど元本が減っていないようですね。

直近2年の業績は赤字に沈んでいますが、5年間を振り返ると黒字の年もありました。直近9か年のキオクシアおよび東芝のメモリ部門の営業損益を図にするとこのようになります。

トータルで見るとマイナスなんですが、2022年3月期は約2000億円の黒字を出しています。

直近のメモリ不況が厳しかったですが、NANDフラッシュメモリを含む半導体メモリ業界では、設備投資と研究開発に巨額の先行投資が必要な割に、市況の変動をもろに受けます。

好況期でも投資を行い続けないと、競合他社との競争に生き残っていくのが難しいので、9000億円もの借金を返すのは容易ではありません。

もともと、この借金の出どころがどこなのかやキオクシアが売却された時の流れについては、こちらの本で解説しているので興味がある方は読んでみてください。(Kindle Unlimitedに登録しているとタダで読めます。)

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DBJの優先株も借り換えだろう

今回メガバンク3行+三井住友信託銀行からの融資に対する借り換えの報道が出ましたが、キオクシアは日本政策投資銀行(DBJ)から優先株として3000億円の出資を受けており、実質的な借金となっています。

優先株の方は、銀行からの融資と違って色々条件がついているんですが、どんな場合でも2025/6/17には強制的に現金で償還される形になっています。

とはいえ、現時点で9000億円の借り換えを行っているので、1年後に3000億円の優先株の償還を行うのはちょっと現実的ではありません。(2025年3月期に巨額の黒字を出せれば無理ではないかもしれませんが、それでも3000億円の償還は厳しいでしょう。)

民間のメガバンクが借り換えの判断を行った以上、政府系金融機関であるDBJが借り換えを行わない選択は無いと考えられます。

仮にDBJが優先株の償還を求めたことが原因で、キオクシアが資金繰りに困窮することになったら、メガバンクがリスクを負って借り換えの判断を行った意味は何だったんだ?ということになりますからね。

このことを考えると、キオクシアはメガバンクからの巨額の負債の借り換えを行ったことで、流動負債を固定負債に入れ替えて、当座の資金繰りを凌いだと言えます。

当座の資金繰りを凌いだと言っても、おそらく借り換えの期限が5年後に設定されていて、5年返済期限を先延ばした形になっただけで、借金を根本的に解決したわけではないですが。

なぜ読売から出たのか?

さて、今回のキオクシアの借り換えの記事は、読売新聞が最初に報道しました。

キオクシアに1000億円融資、銀行団と最終調整…9000億円借り換えも
読売新聞 2024/6/11 配信

そのあと、テレビ朝日系列・共同通信・産経新聞・時事通信からも後追い記事(ニュース)が出ています。

半導体大手キオクシアHD 銀行団が約1000億円の追加融資で最終調整
ANN 2024/6/11 配信

【速報】キオクシアに1千億円追加融資へ
共同通信 2024/6/11 配信

キオクシアに追加融資へ 三菱UFJなど銀行団が1000億円 6600億円借り換えも
産経新聞 2024/6/11 配信

キオクシア、銀行団から追加融資1000億円 最大9000億円借り換えも
時事通信 2024/6/11 配信

だいたい、最大9000億円の借り換えと1000億円の新規融資を銀行団が認める形だという方向性の書き方です。

産経新聞だけ、借り換え額を6600億円と書いていました。2019/5/31時点の借り入れ契約だと、枠は最大9000億円で、3か月ごとに返済する枠もあるので、借り換え額が6600億円でも不思議ではないですが、1社だけ6600億円になっているのは妙ですね。

海外の通信社である、ロイターやBloombergからは記事は出ていません。国内の主要な報道機関で報じていないのは、朝日新聞と日経新聞くらいでしょうか。

記事を全部読んだうえでうかがえるのは、「銀行団が正式契約前に融資を表明する書類を提示する見込み」という書き方がなされていることです。

かつ、ロイターやBloombergがまだ報じていないところからすると、この報道のニュースソースは銀行側であることは明らかです。

読売新聞は経済誌ではありませんが、2024/4/16にキオクシアのIPO案を報じました。

半導体大手「キオクシア」に上場案、銀行団に説明…巨額投資に対応
読売新聞 2024/4/16配信

IPO案に関しても出どころは銀行でしょうから、読売新聞はキオクシアに融資している銀行団の関係者にツテがあるのでしょう。

そう考えると、今後見込まれるIPOなどの話は読売新聞発の記事が出る可能性が高いと考えられます。

対照的なのが日経新聞です。経済新聞ですし、WDとキオクシアの合併話などをよく取り上げていて、私自身有料会員に登録しているんですが、執筆時点(2024/6/11 20:00)でまだキオクシアの借り換えに関して記事が出ていません。

読売新聞は出元なので置いておいて、共同通信・時事通信・産経新聞が報じているくらいなので、記事が出てもよさそうですが出ていないということは、裏が取れていないのか、出せない事情があるのか、出そうとしているけどまだ出せていないのかのどれかでしょう。

大衆紙が報道しているのに日経が出さないのは、何かあるのではないか?と勘繰ってしまいます。

IPOでの資金調達が現実的な解

キオクシアは借り換えの目処がついたことで、直近の資金繰りは改善されたといえます。

今後の方向性としては、読売新聞が過去に報じていたように、IPOを目指すのが現実的な解だと考えられます。

その理由は、キオクシアの現状の株主構成が複雑なことと、市場から資金調達を行って少しでも負債を減らしていかないと利子負担だけでも莫大な金額になることです。

キオクシアの株式を多数保有している投資ファンドからすれば、何らかの形でExitを目指す必要があります。

また、借り換えられたといっても、最大1兆円の借金があると、年利2%の利子負担でも年間200億円にのぼります。利払いだけで年間200億円が飛んでいくのは、なかなか厳しいところがあります。

これらの理由から、キオクシアはIPOを再度目指すと考えられます。メモリ不況は底を打って、最悪期は脱した状況なので、過去5年間を振り返ったうえで考えると、このタイミングでIPOするのが数少ないチャンスでしょう。

5年後までにNANDの不況期はもう一度訪れる可能性が高い

キオクシアは借り換えで借金の返済期限を先延ばしにできたこと自体は、非常に大きいです。一方で、借り換えても元本が減るわけではないので、借金は返し続けていく必要があります。

半導体メモリは、好況期と不況期を繰り返す宿命となっていて、NANDフラッシュメモリは参入している会社が多いので、好況と不況のサイクルを今後も繰り返していくでしょう。

ついこの前、メモリ不況の底を脱したところですが、残念ながらメモリ不況はまた必ずやってくるでしょう。

次のメモリ不況が来た時に、現在と同じような財務状況のままだとかなり厳しい戦いを強いられることになります。莫大な先行投資を行いながら、巨額の負債を返していくのは容易ではありませんが、少しでも財務体質を改善していくのが、現時点で取れる策ではなかろうかと感じます。

まとめ

この記事では、キオクシアの借り換え報道について簡単に解説しました。

とりあえず、返済期限が直近に迫っている借金の借り換えが行えて、追加融資もしてもらえるというのはキオクシアからすると間違いなくプラスでしょう。

内容が間違っている部分がある場合も、ご連絡いただけると嬉しいです。

このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。

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この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

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