みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、先端ロジック半導体メーカーであるIntelについて、直近の業績を見てみます。
Intelという会社の歴史は、先端ロジック半導体の歴史を紐解くことになるので、別の記事で書きたいと思います。
Intelの事業分野
intelは、先端ロジック半導体を作っている会社で、現代広がっているファブレス・ファウンドリではなく、垂直統合のIDMの形態を取っている会社です。
ファウンドリ事業も持っていますが、近年になってファウンドリを始めたので、事業規模としてはそれほど大きくありません。
先端ロジック半導体では、無数のファブレスメーカーと世界最大のファウンドリであるTSMCでチップを作ることが普及していますが、intelは昔ながらのIDMの形態を続けています。
2024年現在のintelの主力事業は先端ロジック半導体の設計および生産ですが、その中でも5つの分野に分かれています。
【Intelの事業分野】
・Client Computing Group(CCG)
・Date Center and AI(DCAI)
・Network and Edge(NEX)
・Mobileye
・Intel Foundry Service(IFS)
CCGは、PC向けのチップを主力にしています。
DCAIは、サーバーやHigh peformance Computer(HPC)向けのチップが主力です。
NEXは、ネットワーク系のサービスが主力でデータセンターを運営している会社が主要顧客になっています。
Molileyeは、車載向けのアプリケーションが主力です。
IFSは、ファウンドリでファブレスからの受注生産が中心です。
このように、分野は5つに分かれていますが、先端ロジック半導体チップの生産が主要事業であることは一貫しています。
製造拠点
Intelの製造拠点を紹介します。
図はIntelのAnnual reportから引用しています。本社はアメリカ西海岸のサンノゼにあり、前工程の製造拠点はこの5か所です。
・オレゴン(アメリカ)
・アリゾナ(アメリカ)
・ニューメキシコ(アメリカ)
・アイルランド
・イスラエル
建設予定の工場として、オハイオ(アメリカ)、ポーランド、ドイツの3つが挙げられています。
ロジック半導体やメモリ半導体の製造工場は、アジアに立地していることが多いですが、intelは前工程のチップ製造拠点はアジアには無いようです。少し意外でした。
直近の業績
ここからは、intelの直近5年間の業績を見ていきます。経営が危ないというわけでは無いですが、結構衝撃的な業績でした。
まずPLから見ていきます。
PL
直近5年間(2019年から2023年)のintelの売上高と粗利を図にするとこのようになります。
2021年から2023年は絵にかいたような右肩下がりになっていて、売上高の減少に連動して粗利が減少しています。
とはいえ、2023年でも粗利率は40%程度を確保していて、製品を高く売っていることがうかがえます。(メモリとは違う商売の仕方に見えます。)
事業分野ごとの売上と利益も開示されていました。図にするとこのようになります。
売上高の減少に関しては、主力であるCCGとDCAIの売上高の減少がダイレクトに効いています。他の3つの事業は、過去3年間で急激に売上が減少している傾向はありません。
営業利益に関しては、売上高の減少に伴って、CCGとDCAIの減少幅が大きいです。他の事業は相対的に営業利益は小さいです。IFSに至っては赤字ですが、全体の利益に対する影響は小さいです。
これらのことから、Intelの直近3年間の売上および営業利益の減少は、ファウンドリ事業が立ち上がらないことではなく、主力事業であるCCGとDCAI事業の売上の減少が大きく効いているといえます。
次に、営業利益と研究開発費を図にしています。
売上高の減少に伴って、2021年から2023年の3年間で、営業利益が激減しています。2023年はプロットしていないわけではなく、ギリギリ黒字だったのでグラフの高さが小さすぎて見えなくなっています。
営業利益だけを見ると、直近3年で利益が激減していて危ないように見えます。
ただ、ここで注目したいのが研究開発費の推移です。一般的に、売上が減少して利益が出しにくくなると、研究開発費は削減されます。一方、intelの場合は2021年と比較して、2022年と2023年はむしろ研究開発費が増えています。
営業利益がこれだけ減っているのに、研究開発費を削減せずむしろ増やしているのは、intelが目指している方向性によるものです。(あとから、理由がわかってきます。)
BS
次に、BSを見てみます。2019年と2023年のBSをそれぞれ図にすると、このようになります。
2023/12/31現在のBSはこのようになっていました。
intelは、先端ロジック半導体のIDMであるが故に、固定資産の比率が高くなっています。やはり、自社で製造設備を持ち、研究開発向けの投資も行うことを考えると、固定資産が増えるのは当然のことだといえます。
自己資本比率は57.4%でした。製造業としては普通くらいのレンジです。
2012/12/31から5年前である2019/12/31のBSを図にするとこのようになります。
図にすると、それぞれの比率はそれほど変わっていません。それぞれの項目について、2023年の方が額は増えていますが、比率としては似たような状況を維持しています。2019年の自己資本比率は56.8%でした。5年間でほとんど変わっていません。
このように、intelのBSを見るとそれほど自己資本比率が低いわけではありません。
ただ、固定資産として計上されている工場や半導体製造装置がどの程度の価値を持っているかは、帳簿上の価格をそのまま信じられるわけではないので、固定資産の価値が目減りすると少し話は変わってきます。
開発ロードマップ
ここからは、Intelの開発ロードマップについて少しだけ見てきます。
IntelのAnnual Repostでは、2024年から5N4Yという表記がなされています。5N4Yとは、4年で5つのプロセスノードを出すということです。
4年で5つのプロセスノードを開発するのは、それだけでも相当チャレンジングな目標だと思われます。
かつ、開発するプロセスノードが
Intel7
Intel4
Intel20A
Intel18A
Intel14A
となっています。
(図はIntelの2024_1Qの決算発表資料から引用しています。)
FinFETの最終世代から、GAAの世代を一気に開発するスケジュールになっており、果たして本当にできるんだろうか?と私は感じてしまいました。
一方で、PLの部分で触れましたが、Intelは売上高が下がっているにもかかわらず、研究開発費を増やしています。
チャレンジングな目標を設定したうえで、研究開発費を投じて、将来的に先端ロジック半導体の開発をリードできるような立ち位置に戻らなければならないと考えていることがうかがえます。
Intelが置かれた環境
Intelの2023年Annual Reportを読んでいて気になった部分がありました。それは、Risk Factors and Other Key Informationの部分です。
原文はこちらのリンク先から読めます。Risk Factors and Other Key Informationは、p48からp62の14ページに渡って書かれています。
特に気になったのは、競合他社の競争の激化と開発の遅延です。
競合他社との競争の激化の面では、ファブレスとファウンドリの分業化が進んでいることが取り上げられていました。
分業化が進んでいない時は、顧客はチップの選択肢はあまりなく、Intelのチップを買わざるを得ない状況ありました。
しかし、現代ではファブレスメーカーが回路を自社設計して、ファウンドリ(TSMCなど)に生産委託することで、チップを手に入れることができるようになっています。
AMDやQualcomは、ファブレスとしてTSMCへ生産委託しているでしょうし、Appleも自社設計したチップをTSMCに生産委託しています。
Intelもファウンドリ事業はやっていますが、ファブレスメーカーがIntelにわざわざ生産委託を行う理由は無く、キャパと値段が合えばTSMCに委託するでしょう。結果的に、Intelのチップを買う人が減っているといえます。
私自身、PCはIntel製のCore i5を積んでいますが、スマホはQualcom製のSnapdragonですし、iPhoneを使っていた時代もA〇〇のチップだったので、TSMCでしょう。
このように考えると、PCを買わない人も増えていますし、スマホやタブレットなどのモバイル機器でIntel製のチップを使う製品は減っていく一方でしょう。
サーバーやHPCでは一定の需要はあるでしょうが、ファブレスメーカーのチップの方が性能が良ければ、Intel製を使う必要性は減ってきます。このように、Intel製のチップを買わざるを得なかった時代から、ファブレス製のチップとの競争が厳しい時代に変わっていることは事実です。
Intelの立場から見ると、従来と比較して競争が激化し、売上高が減少する方向性を止めるのは難しいでしょう。だからこそ、ファウンドリビジネスを始めたのだと考えられます。
次に、開発の遅延です。
Intelは、FinFETの世代である10nm世代と7nm世代の開発が遅れ、結果的にTSMCの方が先端プロセスで先を走る形になりました。
Intelが開発で先行していれば、CPUの需要に対して先行できて先行者利益を得ることができるので、競合との優位性を出すことができますし、チップも高く売ることができます。
しかし、開発遅延で先端品が作れない状況に置かれると、純粋にファウンドリとの競争に置かれます。ここで、競争相手とあるのはTSMCです。
TSMCは、世界中からファブレスメーカーの注文を集めて生産に特化するわけですから、製造キャパとコストでIDMのIntelが勝負するのは困難な道です。
過去の競争の結果、Intelと競合するメーカーは、世界中からファブレスメーカーの注文を集めるTSMCとSamsungのLSI部門だけとなったわけですが、それでもTSMCと伍するのは相当分が悪いでしょう。(Samsungファウンドリは、どこまでうまくいっているかよくわかりません)
かつ、純粋なファウンドリであるTSMCとIDMでファウンドリ事業を持っている、Intel・Samsungには大きな違いがあります。
IDMの会社は自社ブランドでチップを売っているので、最終製品の段階で受託生産しているファブレスメーカーのチップとマーケットで競合することになります。
一方、TSMCは純粋なファウンドリなので、自社ブランドのチップをマーケットで売ることはありません。
そう考えると、ファブレスメーカーから見れば、チップ製造を委託する時に、仮にIntelファウンドリとTSMCが全く同じ値段で同じキャパだったとしたら、TSMCを選ぶでしょう。
このように、Intelは先端プロセスの開発遅延やファブレスメーカーの台頭を受けて、競争が激化しているため、置かれている状況が厳しくなっていると考えられます。
今後のトレンド
Intelは、ファブレスメーカおよびTSMCとの競争が激化している中で、取っている方向性としては先端プロセスを先んじて開発することです。
5N4Yで紹介したようなチャレンジングな開発目標や、売上高が減少している中でも研究開発費を増やしているのは、先端プロセス競争で再び先頭に立つことで、先端ロジック半導体での競争優位性を取り戻そうとしているのだと私は考えています。
これを実現するために必要なことは、先端プロセスの開発をTSMCに先んじて行うことと、量産立ち上げをいかに早く行えるかだと思います。
Intel20Aからは、GAA構造に入る領域になると思いますが、GAA構造をやろうとしているので世界でも4社しかありません。
・TSMC
・Samsung
・Intel
・Rapidus
現状、TSMCが大本命で、Samsungはよくわからず、Intelは後方から捲りを狙い、Rapidusはまずは作れるようにするというような状況でしょう。
まとめ
この記事では、Intelの直近の業績について簡単に解説しました。
先端ロジック半導体のプロセス開発の先頭を走っていた時代のIntelを懐かしく感じました。あの時代とは、置かれている環境が変わっているというのが、この記事の趣旨です。
内容が間違っている部分がある場合も、ご連絡いただけると嬉しいです。
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。
参考文献
https://www.intc.com/financial-info/financial-results
この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
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