みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、キオクシアの2024年3月期の貸借対照表について見ていきます。
年に1度の決算公告
この記事を読まれる方は、ご存じの方が多いと思いますが、キオクシアは非上場の会社なので、経営状態を上場会社のような細かく開示する義務はありません。
四半期決算は公表されていますが、営業損益が中心で貸借対照表は公表されていません。
しかしながら、会社は年に1回は決算公告が義務付けられていて、キオクシアの決算公告が出たので内容を見てみようというのがこの記事の趣旨です。
ちなみに、この記事で出てくる貸借対照表は全て日本会計基準に基づいたものです。2020年に出された、キオクシアのIPO目論見書は国際会計基準で書かれていて、会計基準が違うので記事の図と単純に比較できないことをご了承下さい。
2024年3月期の貸借対照表
まずは、2024年3月期の貸借対照表を図にしてみてみましょう。(2024/3/31現在です。)
予想通りといえばそれまでなんですが、流動負債の額がトンデモない大きさになっています。流動負債で約1.3兆円です。
2024年3月期の貸借対照表という意味では、この図で完結しているんですが、もう少し深く見ていきます。
2023年3月期と比較
流動負債の額に圧倒される貸借対照表ですが、1年前の2023年3月期のものはどうなっていたのでしょうか。
2023年3月期の貸借対照表を図にすると、このようになります。
これでも結構負債総額は大きい(1.4兆円程度)ですが、流動負債は7000億円弱で済んでいます。
ちなみに、キオクシアの2024年3月期の決算は、このようになっていました。(四半期決算の営業損益は国際会計基準で公表されています。)
メモリ不況が直撃していた影響で、2024年3月期の通年決算は売上高1兆円、営業損失2527億円、当期純損失2437億円となりました。
営業利益の図を見るとわかるんですが、四半期で1000億円近い赤字を出している期があるので、かなり経営的には厳しい状況に置かれていたことがわかります。
NANDフラッシュメモリの市況が回復し始めたので、2024年1-3月期は四半期の営業損益としては黒字転換しましたが、通年の赤字を補填するには到底及びませんでした。
今回、2023年3月期と2024年3月期の貸借対照表を比較するために、公開されている資料を数字に起こして、それぞれの項目を比較しました。
細かい数字が見たい方は、拡大してみてください。
2024年3月期の値から、2023年3月期の値を引いたものを「差分」として定義しています。
大きく見ると、総資産は約2000億円の減少で、負債合計は1200億円程度増えています。純資産は、3158億円のマイナスですが、これは2024年3月期の通年決算が巨額赤字になった影響が大きいと思われます。
資本準備金が約1060億円減少していますが、これは2023/11/15付で行われたようです。
かつ、2024/6/27付で残りの資本準備金である約1170億円を減らす予定であり、もうすぐ資本準備金は0になると予測されます。
非常に目立つのは、固定負債が激減して流動負債が激増している点です。ここは、のちほど詳しく見ていきます。
あとは、細かいところですが、退職給付引当金が減っているのが少し気になりました。5%くらい減っているんですが、退職者が多かったということなんでしょうかね。
自己資本比率としては、2023年3月期の34.9%から2024年3月期は23.0%へ低下しています。自己資本比率が下がったのは、端的に2024年3月期が巨額赤字だったことが原因です。
巨額の負債の内訳
さて、2024年3月期に固定負債が減って、流動負債が激増した理由を簡単に書きます。
この理由は、2024年中に返済しないといけない銀行からの借金が、約7000-9000億円あるからです。
2023年3月期には返済期限まで1年以上あったので、固定負債扱いになっていましたが、2024年3月期では返済期限まで1年を切ったので流動負債扱いになったので、固定負債が減って流動負債が増えたように見えています。
この辺のことが知りたい方は、キオクシアのIPO目論見書を読むと一応書いてあります。(全部で400ページ近くあるので、読むのはおすすめしません。)
細かい部分は、IPO目論見書を読めば逐一書いてありますが、読むのが結構大変です。何が書いてあるのかを読めるように本にしているので、興味がある方は読んでみてください。
実質的な自己資本比率はもっと下がる
ここまでは、キオクシアの貸借対照表を素直に見てきましたが、ここからは実質的な自己資本比率はもっと下がるという話です。
これも細かい話なんですが、キオクシアは日本政策投資銀行から優先株として3000億円の出資を受けています。優先株と言っても、利子付きかつ現金での償還をいずれ行わないといけないものです。
ただ、株式として発行されているので、日本の会計基準だと純資産扱いになるようです。しかし、国際会計基準では優先株でも償還が必要な場合、負債扱いになります。
日本政策投資銀行から出資を受けた優先株3000億円の償還期限はもう少し先ですが、実質的な負債として3000億円を抱えていることには変わりありません。
そして、優先株を負債扱いすると、自己資本が減って負債が増えます。では、簡易的にキオクシアの貸借対照表の負債に3000億円を足して、純資産から3000億円を減らすと、自己資本比率はどうなるのかを見てみます。
計算して見ると、2023年3月期時点で27.7%、2024年3月期時点で9.4%となりました。(簡易的に見ているので、優先株を負債と扱う国際会計基準でどの程度の自己資本比率になるのかは、キオクシアの中の人しかわからないというのが実際のところです。)
ただでさえ負債が多い財務体質の中で、純資産を減らして負債を増やすことになるので、厳しい方向に向かいます。
自己資本比率が10%を切ってくると、自己資本:他人資本が1:9くらいになるので、10倍くらいレバレッジを効かせている計算になります。
儲かるときは儲かって、赤字の時はトコトン赤字になる構造を持っているのが半導体メモリ業界なので、これだけ負債比率が高いと、赤字になる時期に持ちこたえるのが、厳しくなってくると思われます。
借り換えは前提として負債はどうする?
キオクシアの流動負債が約1.3兆円ありますが、大半は1年以内に返済が迫った銀行からの融資です。
銀行が融資の借り換えを認めてくれれば、返済期限が延びるので固定負債に振り返ることができます。そうすると、流動負債を減らして固定負債を増やすような形になります。(2023年3月期の貸借対照表に戻るようなイメージです。)
短期的な資金がショートしなければ、借り換えを行うことで事業継続を図ることは可能でしょう。
このような負債比率の貸借対照表に中小企業が陥ってしまったとすると、銀行が借り換えを認めてくれなかったり、融資を引き上げられる可能性が高く、ほぼ資金ショートです。
キオクシアのケースでは、銀行が借り換えを認めない場合、会社を銀行が倒産させるような形になるので、おそらく借り換えは認められるのではないかと思います。というか、借り換えるしか方法が無いです。
借り換え自体は良いんですが、借り換えたとしても借金が減るわけでは無いので、どうやって返していくのかを明確にしないと借り換え期限をいつまで延ばせるかという交渉を延々と続けることになります。
あとは、借金の元本が巨額になると利子負担も巨額になります。例えば、1兆円の借金に対して利子が年利2%つけば、利払いだけで年間200億円ですから、相当な負担になるでしょう。
参考ですが、キオクシアの2024年1-3月期の当期純利益は103億円だったので、利払いだけで1四半期の当期純利益が吹っ飛んでしまうレベルです。
企業は事業継続が前提だが
キオクシアの貸借対照表を見てきましたが、巨額の負債を背負っていることがおわかりいただけたのではないかと思います。
基本的に会社は事業継続することを前提として運営されているわけですが、負債が増えすぎすると返済できなくなってしまうリスクが大きくなります。
NANDフラッシュメモリの好況期が続いて、莫大な利益を稼ぎ続けられればいいかもしれませんが、なかなかそうもいかない業界なので、負債をどうにかして減らしていかないと、次のメモリ不況がやってきた際にかなり厳しい状況になる可能性は高いと、私は考えています。
まとめ
この記事では、2024年3月期のキオクシアの貸借対照表について見ていきました。
借り換えが行われれば資金繰りのめどは立つと思いますが、借り換えたとしても借金が減るわけでは無いので、どうやって返していけるのか、もしくは負債を減らせるのかが重要なポイントになります。
記事の中でわからないところや、誤っている点がありましたらコメントかお問い合わせフォームから連絡いただけると助かります。(過去にも、読者の方からの指摘を頂いて内容を修正したことがあります。)
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。
この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
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