キオクシアの財務を公開情報から読み取るのは結構難しい

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みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、キオクシアに関する東洋経済の記事をもとに、財務のマニアックな部分に踏み込んで書いていきます。

記事の内容は、ほとんど書いてある通りだと思っていますが、細かい財務の数字は気を付けて見ないといけないので、マニアックな部分ですが書いていきます。

今回テーマにしているのは、東洋経済から出ているこちらの記事です。

キオクシア「上場塩漬け」で深まる2つのリスク

この記事でフォーカスするのはこの3点です。

・PBRの比較
・会計基準の違い
・連結と単体の違い

目次

他社とのPBRの比較

まずは、メモリ他社とのPBRの比較について見ていきます。

記事中では、キオクシア以外のメモリメーカー(Samsung・SK Hynix・Micron・Western Digital)のPBRを見ています。

上記4社は上場しているので、時価総額と純資産を比較することでPBRが出せます。値自体は、計算すれば出てくるので議論の余地はありません。

ただ、4社の会計基準は国際会計基準(IFRS)ベースの決算から出てきた純資産と時価総額を比較しています。

あとからも出てきますが、日本の場合採用する会計基準は会社によって違っていて、日本会計基準と国際会計基準の2通りがあります。

会計基準自体は、毎年変更が加えられていますが、日本基準と国際基準では違いがあります。(会計の専門家ではないので、細かい違いは書きませんが、色々違います。)

日本会計基準と国際会計基準の違いを詳しく知りたい方は、こちらのサイトがおすすめです。

https://www.obc.co.jp/360/list/post377

記事の中で使われている、キオクシアの純資産が日本会計基準のものなので、厳密に考えると競合メーカーとの比較としてはフラットではないかもしれないです。

とはいえ、だいだいの感覚を知るには有効な評価方法だと思います。(キオクシアのIPO目論見書が出れば、他社とのPBR比較がフラットにできると思っていて、目論見書が出次第メモリメーカーPBR比較から、キオクシアの時価総額はどの程度が妥当だろうか?という記事を書こうと思っていたくらいでした。)

そして、この会計基準の違いがキオクシアの純資産をどう見るのか?というところにつながってきます。

キオクシアの純資産をどう見る?

ここからは、本題のキオクシアの純資産の話です。

記事中で引用されているデータは、「2020年6月末時点での純資産」と「2024年3月末時点」の2つです。

前者の出どころは、キオクシアホールディングスが2020年に1回目にIPOしようとした時に提出したIPO目論見書です。

時期的に未監査の状態ではありますが、2020年6月30日現在で7040.99億円と書かれています。(2020年IPO目論見書p15より。)

後者の出どころは、官報に掲載されているキオクシア株式会社の貸借対照表で、純資産が4783.46億円と書かれています。詳しく知りたい方は、こちらの記事で解説しているので読んでみてください。

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この2つのデータは、ざっくり言えば「キオクシアの純資産」を示しているんですが、厳密に考えるとちょっと違うんです。

まず、2020年のIPO目論見書のデータから見ていきます。

2020年のIPO目論見書のデータは、「キオクシアホールディングス株式会社」の財務を「国際会計基準」で書いています。

一方、2024年3月末の官報のデータは「キオクシア株式会社」の財務を「日本会計基準」で書いています。

厳密に考えると、2つのデータは会社と会計基準が違うものになっています。

(じゃあ、厳密に同じ基準のもの同士を比較すればいいじゃないかと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、公開されている財務データがこの2つしかないので、キオクシアの純資産を比較しようとすると、この2つを使わざるを得なかったというのが実際のところだと思います。)

キオクシアホールディングス株式会社とキオクシア株式会社の違いは、次の章で書きます。ここでは、会計基準の違いにフォーカスしていきます。

日本会計基準と国際会計基準の違いはさまざまありますが、キオクシアの純資産を考えるうえで効いてくると考えられるのが、負債の扱いの違いです。

日本会計基準だと、株式と名がついているものは基本的に純資産扱いされます。上場しているような会社は、普通株式を発行していることが多いのであまり問題になりません。

ただ、キオクシアは普通株式と優先株式を発行しています。優先株式は、普通株式とは種類の違う株式で、何らかの条件がついています。

キオクシアが発行している優先株式は、ある期限までに現金で償還しないといけないものです。優先株式の分が、日本会計基準では純資産に入り、国際会計基準では負債に入ります。(IPO目論見書にも明記されています。)

優先株の額に関しては、色々わかりにくいのでのちほど書きますが、キオクシアの場合優先株式をそれなりの額発行しているので、日本会計基準で書かれた時の純資産よりも国際会計基準で書かれた純資産の方が小さくなることはほぼ間違いありません。

キオクシアホールディングスとキオクシアは厳密には違う会社

さて、最後にキオクシアホールディングスとキオクシアは厳密には違う会社であることを書いていきます。

持ち株会社としてキオクシアホールディングス株式会社があり、持ち株会社の下に100%子会社としてキオクシア株式会社があります。

キオクシアホールディングスは、キオクシアが主要な子会社でキオクシアの下に子会社が色々紐づいている形になっています。金融会社のホールディングスのように、ホールディングスの下に事業子会社がたくさんぶら下がっている形ではないので、あくまでもキオクシア株式会社が中心です。

上場しようとしているのは、持ち株会社であるキオクシアホールディングスです。

キオクシアホールディングスとキオクシアはほとんど同じに思えますが、実は違うんです。

2023年に日刊工業新聞に掲載されていた、キオクシアホールディングスとキオクシアの単体の決算公告のデータを載せています。このデータは日本会計基準のデータです。(期がずれているのは、キオクシアホールディングスの方があとから作られたからです。)

データを見ればわかるとおり、2社が単体決算で貸借対照表を出すとずれてるんですよね。(当たり前と言えば当たり前なんですが。)

かつIPO目論見書のデータは、連結決算が載っていますが、官報等の決算公告は単体決算の内容なので、グループ全体で連結貸借対照表がどうなっているのかは、現時点で知るすべはありません。公開情報で出ているデータとしては、IPO目論見書に載っている2020年6月30日(未監査)のものが最新です。

結局のところ、2024年にIPOが行われるならば、国際会計基準で書かれた連結貸借対照表が4年ぶりに公開されるはずだったんですが、残念ながらIPOは流れそうな雰囲気があるので、またお預けになりそうです。

この4年間で、どれだけ貸借対照表が傷んでいるのかは私自身興味があったので、少し残念です。

もう少し余計なことを書くと、キオクシアの優先株式にも2種類あります。

キオクシアホールディングスが日本政策投資銀行から出資されている、甲種優先株式・乙種優先株式は合計3000億円です。

実は、キオクシア株式会社も甲種優先株式を発行しています。合計2560億円分あります。(ホールディングスの甲種優先株式と名前は一緒ですが、別物です。よく読むとIPO目論見書に書いてありますが、登記簿を読むまで私も見落としていました。)

キオクシア株式会社の甲種優先株式は、東芝から売られた時に調達した優先株のうち、一部の名前を変えた形になっています。

優先株について詳しく知りたい方は、こちらの記事を読んでみてください。

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このように、キオクシアホールディングスとキオクシアは厳密に見ると違うので、少し注意が必要です。

公開情報から読み解くのは難しい

キオクシアの財務の部分について、重箱の隅をつつくような形でしたが詳しく見てみました。

決算データをただ見ているだけでは気づきにくいポイントですし、正直に書くとこんなことに気づく人はあまりいないのではないか?と思います。

純資産のデータも、IPO目論見書を読んでいないと引っ張れないですし、官報の決算公告とIPO目論見書の会計基準が違うことも意識的に見ていないと気づきません。(会計の専門家の方は別だと思いますが。)

公開情報を拾ってデータを解釈するにしても、決算データのルールや条件を見ていないと理解できない部分も多いと思います。

私自身、キオクシアのIPO目論見書を初めて読んだときは、何が書いてあるのかさっぱりわからなかった記憶があります。

改めて感じたことは、公開情報を読むにしても、その情報の背景を理解しておくことの重要さです。

かつ、キオクシアに関して記事を書かれる方は、公開情報が少ないかつ断片的なので、非常に苦労されているのではないかと感じました。紙幅の制限もある中で、わかりやすい記事を書いていただいて、ありがたい限りです。

今後キオクシアがIPOすれば、IPO目論見書も公開されますし、四半期ごとの決算も詳細な情報を公開しないといけなくなるので、上場してくれるとみられる情報が増えるのではないかと期待していますが、なかなか厳しそうですね。

まとめ

この記事では、キオクシアに関する東洋経済の記事をもとに、財務のマニアックな部分に踏み込んで書きました。

おそらく、日本語媒体でここまで細かく書いている記事は他にないと思います。

記事の内容に明らかな間違いや、誤植、誤解を招く表現等がありましたら、コメントかお問い合わせフォームでご連絡いただけるとありがたいです。(基本的に、頂いたコメント等には全てお返事しております。)

このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。

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この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

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