SCMの市場はありそうで無い~使いどころが見当たらない~

本ページは広告・プロモーションを含みます

みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、SCMの市場はありそうで無いだろうという話を書いていきます。

オピニオン系の記事なので、解釈が変わると結論が変わる部分もありますが、ご指摘等はコメント・お問い合わせフォームから承っておりますので、お気軽にご連絡くださいませ。

目次

SCMにフォーカスしたきっかけ

今回、SCMにフォーカスして記事を書こうと思ったきっかけは、SEMICON JAPANでキオクシアの社長が新メモリを開発したいと語ったという記事です。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO85464900T11C24A2TEZ000/?type=my#AAAUAgAAMA

半導体メモリは、揮発性(電源を切ったらデータ消える)であるDRAMと、不揮発性(電源を切ってもデータが消えない)のNANDが二大巨頭として君臨しています。

限界だと言われつつも、現代にいたるまで進化を続けている二大巨頭に対して、新規メモリは話は出てきますが、なかなか実用化する例が出てきません。

新規半導体メモリがなかなか出てこないのは、一体なぜなんだろうか?という話です。

メモリの階層

半導体で仕事をされている方であれば、当たり前のように出てくるのがメモリの階層です。

簡単に図にすると、このようになります。

図で上に行くにしたがって、速度が早くなり、下に行けばいくほど、速度が下がります。

SRAMもメモリではありますが、トランジスタから構成されていて、CPUのキャッシュメモリとして使われている特性上、ここではフォーカスしません。

半導体メモリの二大巨頭であるDRAMとNANDですが、二つの間には大きな違いがあります。それは、揮発性か不揮発性かというところです。

揮発性か不揮発性かという点で線を引くと、このようになります。

DRAMとNANDの間に、揮発性か不揮発性かの線が入ります。半導体メモリに限らず、HDDなども記録媒体として使われますが、電源を切ってもデータは消えないので、不揮発性です。(CD・DVD・磁気テープなどの媒体も、同様に電源を切ってもデータを保持しておくために使われます。)

さて、SCMをこの図の中に書き加えると、このようになります。

DRAMとNANDの間に、SCMが入りました。かつ、SCMは不揮発性であることが求められます。

なぜなら、NANDより速くDRAMより遅いスピードを持っていたとしても、揮発性であればDRAMの下位互換でしかないからです。

DRAMより遅いのに揮発性なのであれば、誰も使いませんよね。DRAMを使えばいいじゃんという話になります。

つまり、SCMを規定すると、「不揮発性」であり「NANDより速い」ことが求められ、価格としてはDRAMとNANDの中間あたりが相場になります。

だいたい、この辺の相場を満たそうとしてSCMの候補として挙げられるのはだいたい3種類です。(FeRAMが入る場合もあるかもしれません。)

・PCM
・MRAM
・ReRAM

SCMを作れることは、技術的には価値があると思いますが、最終的に世の中で使われなければ製品は売れませんし、利益にも貢献しません。

SCMは、かつてIntel・Micronが実用化して製品化していたという過去があります。

SCMに挑戦して撤退した過去のIM

Intel・Micronは、SCMとしてPCMを選び、Optaneという商品名で実際に製品化まで行っていました。(2024年現在では、二社とも撤退しています。)

構造としては、セレクタと相変化による抵抗変化が生じる層を組み合わせた2端子メモリだったようです。

もう10年くらい前になりますが、福田昭さんがoptaneについて書かれています。

https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/713996.html

https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/semicon/1434846.html

実際に製品化していたので、Amazonで買うこともできます。(現在では在庫品が投げ売りされている形になっていますが。)

製品化までこぎつけていたのに撤退した理由は、はっきりと示されているわけではありませんが、おそらく需要が無く結果的に値段が合わなかったと考えられます。

需要が無いと考えらえるのは、不揮発性メモリでDRAMより遅いけどNANDより速いという立ち位置が、中途半端であることが理由です。

DRAMとNANDが強すぎる

DRAMより遅く、NANDより速い不揮発性メモリであるSCMについて考えてみましょう。

速度面では、DRAMより遅くNANDより速いわけですが、使い道を考えた場合、DRAMより遅いのでDRAMは必ず必要になります。

また、DRAMより遅いストレージのデータをSCMにストレージしておいて、ストレージのデータを読み出すための時間を短縮することができます。

ただ、SSD全盛の現代において、SSDのデータをわざわざSCMにストレージしておく必要性がどこまであるのか?という疑問は残ります。

ストレージとしてHDDが全盛の時代であれば、HDDからDRAMへのデータの読み出しを高速化するために、SCMが必要とされたかもしれませんが、現代では内蔵ストレージとしてはSSDが標準的になっているので、SCMをどうしても必要とする環境はほとんど無いでしょう。

さて、価格面から考えてみます。ユーザーの視点から考えると、不揮発性でNANDより速いメモリにどの程度の価値があると考えるのか?という話です。

NANDより速くて、DRAMより遅い不揮発性メモリが、どうしても必要なのであれば、付加価値が付くかもしれませんが、現時点でSCMに高い値段を払うくらいなら、DRAMの増強か、SSDの容量増の方を選びませんか?

かつ、SCMは記憶容量当たりの単価ではNANDより安くすることは困難ですし、容量単価がDRAMより高ければ、DRAMとの違いである不揮発性に付加価値が無いと買ってもらえませんが、SCMがどうしても必要な人がいなければ付加価値は認識してもらません。

NANDは容量当たりの単価は今後もある程度下がっていくでしょうし、DRAMは高速化が進んでいくと考えられます。

SCMは、SCMという立ち位置を取っているが故に、容量単価の点でDRAMとNANDの間にしか存在し得ないメモリです。

SCMの両側に存在するDRAMとNANDは、半導体メモリの二大巨頭であり、技術革新も初期よりもかなり進んでいます。マーケットの中で、そんな二大巨頭と勝負をしなければいけないSCMは、立ち位置自体が不利であることは明らかです。

キオクシアがSCMを手掛けるのは悪手

最後に、今回SCMの記事を書こうとしたきっかけである、キオクシアがSCMを手掛けることについて考えます。

私は端的にキオクシアがSCMを手掛けるのは悪手だと考えています。理由は3つあります。

・市場が無い
・Intel-Micronが撤退した歴史がある
・仮に製品化できても、利益が出せるまでに時間がかかる

1つ目の理由は簡単で、現状SCMの市場が存在しないからです。市場が存在しないものを開発して製品ができたとしても、ユーザーに認識して買ってもらうまでには、高いハードルがあります。

もちろん、市場が無い製品を作って世界に売れるケースもありますが、SCMの場合は市場が無さそうであることは容易に想像ができます。

2つ目の理由は、Intel-MicronがPCMを製品化したのに撤退した歴史をどう考えているのか?という点です。

ある意味、Intel-Micronの製品化は、市場における先行者であったわけですから、その当時に需要があれば莫大な先行者利益を得ていた可能性はあるわけです。

しかし、結果的に二社ともに事業から撤退しました。キオクシアがやるときに、Intel-Micronが撤退した時と同じ轍を踏まないだけの理由があるなら話は別ですが、そう簡単な話ではないでしょう。(かつ二社とも、キオクシアよりも資金力のある会社です。)

3つ目は、仮に製品化に成功できたとしても、市場に製品が浸透して利益が出せるようになるまでに時間がかかることです。

資金的に余力のある会社であれば話は別ですが、キオクシアは巨額の負債を抱えながらメモリ市況の浮沈の影響をダイレクトに受ける事業構成になっています。

その状況で、市場が無くキャッシュフローを稼げる可能性が低い製品に投資を行うのは、非常にリスキーに見えます。

SCMを開発できれば、技術的には非常にインパクトがあると思いますが、技術があっても市場が無ければ製品は売れないので、稼げるかは別の問題です。

以上の3つの理由から、キオクシアがSCMを手掛けるのは悪手だと、私は考えています。

まとめ

この記事では、SCMの市場はありそうで無いことについて書きました。

当たり前の話ではあるんですが、一度記事に起こしておいた方が残るだろうと思って、記事化しました。

記事の内容に明らかな間違いや、誤植、誤解を招く表現等がありましたら、コメントかお問い合わせフォームでご連絡いただけるとありがたいです。(基本的に、頂いたコメント等には全てお返事しております。)

このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。

あわせて読みたい
45nmプロセスのフローを断面に起こして解説 みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。 この記事では、ロジック半導体の45nmプロセスのフローを断面に起こして解説します。 45nmプロセスは、200...
あわせて読みたい
2nmプロセスの技術的な難しさを詳しく紹介~半導体に詳しい人向け~ みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。 この記事では、ロジック半導体の2nmプロセスの技術的な難しさを詳しく紹介していきます。2nmプロセスにつ...
あわせて読みたい
半導体について学びたい方向けにおすすめの本を紹介 みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。 この記事では、半導体について学びたい方向けに、半導体を勉強するために向いている本を紹介します。 あ...
あわせて読みたい
半導体業界への転職におすすめの転職サイト3選 みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。 この記事では、半導体業界に興味がある方向けに、半導体業界への転職に強い転職サイト3選を紹介します。 ...

この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (3件)

  • 東急三崎口様

    いつも記事、ありがとうございます。興味深く拝読しております。

    SCMについての考察、私も同様な思いでいます。
    一方でキオクシア早坂CEOのコメントされているOCTRAMのようなDRAMへのアプローチはいかがでしょうか? OCTRAM自体の是非というよりも、微細化が頭打ちのDRAMの三次元化についてです。設計・デバイス開発能力の懸念は残るものの、プロセスという観点で3DNAND技術の転用という形でそのような分野に参画していけるのか? ご意見頂けると幸いです。

    • 通りすがり様
      コメントありがとうございます。東急三崎口です。
      記事読んでいたいて、ありがとうございます。

      OCTRAMは、3D-DRAMにおけるリーク電流の抑制には非常に効果的な技術だと考えています。
      DRAMは、微細化するにしてもどうしても限界があるので、3D化するに当たって意味のある方向性ではないかと感じます。
      技術的には非常に面白いと思いますが、DRAMに参画していくのは困難であることは変わりないでしょう。
      3D NANDの技術があっても、3D DRAMが作れるかと言われると作れないですし。
      ただ、DRAMも構造が変わる転換点にあるので、従来と比べれば参入するチャンスではあると思います。
      (DRAMの開発および設備投資ができる資金力がキオクシアにあるかと言われると疑問符ではありますが。)

      私としては、このように考えております。
      今後ともよろしくお願いいたします。
      東急三崎口

      • 東急三崎口様

        ご意見ありがとうございました。
        お金の話は最後まで付きまといますね。

        IPO成立してからどうなっていくのか注視したいところですね。

コメントする

目次