Western Digitalの2023年10-12月期の決算を解説~NANDは復調の兆しだがメモリ不況の爪痕は大きい~

本ページは広告・プロモーションを含みます

みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、Western Digitalの2023年10-12月期の決算について解説します。

結論だけ先に書くと、NANDフラッシュは足元の価格上昇を受けて回復傾向にありますが、メモリ不況が財務に与えた影響は大きいことが見て取れます。

目次

売上と利益の推移

まずは、2023年10-12月期の売上と粗利・当期純利益について見てきます。

売上高

Western Digitalの売上高を4半期ごとに比較すると、このようになっています。

Western Digitalは、HDDとNANDフラッシュメモリの会社ですが、メモリ不況の影響を受けて2022年7-9月期から下落し続けていた売上高が、上昇に転じたことがわかります。

SK Hynixの決算でも感じましたが、売上高の観点から見るとメモリ不況の底は打ったように見えます。

Western Digitalは、HDDとNANDフラッシュのそれぞれの売上高も開示しています。

NANDフラッシュに関しては、メモリ不況前まで戻ってはいませんが、回復傾向にあることは間違いないようです。

HDDも、メモリ不況の影響を受けて売上の下落トレンドが続いていましたが、一旦底を打ったと考えられます。

粗利・当期純利益

売上高の次は、粗利と当期純利益を見ていきます。

まずは、HDDとNANDフラッシュの粗利です。

HDDはある程度コンスタントに稼げるのに対して、NANDフラッシュメモリは稼げるときは稼げるけれど、赤字のときはトコトン赤字になる特性を持っています。

2023年10-12月期の決算で特筆すべきところは、Western Digitalが、NANDフラッシュメモリの粗利がプラスに転じたところです。

粗利がプラスになったということは、売価が上昇傾向にあることを示しています。NANDフラッシュメモリは、各社が減産を行っていて、出荷する物量が極端に増えることは考えにくいです。

物量が増えていないのであれば、売上を上昇させる要素としては、売価の上昇があります。各社の減産で、業界全体でNANDフラッシュメモリの供給量を無理やり減らした効果が出ているんだと思われます。

最後に、当期純利益を見てみます。

全体としては、当期純利益はまだ赤字になっていますが、先期(2023年7-9月期)と比べて赤字幅は格段に減っていることがわかります。

この調子でNANDフラッシュメモリの売上が回復すれば、2024年1-3月期は黒字転換も不可能ではないように見えます。

とはいえ、NANDフラッシュメモリは、各社が減産を続けてやっと価格が上昇に転じたことを考えると、供給量を増やすと価格が下がるリスクは残っています。

貸借対照表から財務を見る

2023年10-12月期の貸借対照表を見てみます。2023/12/31現在のデータです。

こんなもんだよね、という感覚になる貸借対照表です。自己資本比率は、44.7%でした。

細かいことを言うと、株式転換権付き優先株という少し特殊な株式が発行されていますが、額がそれほど大きくないのと、優先株なので負債に入れるのはちょっと違うかなと思って、純資産に入れこんでいます。(大枠は変わりません。)

半導体メモリメーカーの中で、Western Digitalは下から二番目に自己資本比率が低いです。(他の会社の自己資本比率が高いのはあります。)

最新のデータで比べても、自己資本比率が50%を切っているのは、Western Digitalとキオクシアだけです。競合メーカーの財務体質が強い面はありますが、NANDフラッシュで協業している2社は、財務が弱い2社の連合というのは間違いないです。

株式転換権付き優先株

ここからは、個別で着目するコンテンツを紹介します。1つ目は、株式転換権付き優先株の話です。

英語だと、”Convertible Preferred Stock”と表現されています。

一般的に、優先株は普通の株と比べて、会社の財産を優先的に分配できるような条項や利率が付けられている代わりに、議決権が無いものが多いです。

株式転換権というのは、例えば優先株や社債などのように、最初は普通株のような議決権はない金融商品を、一定の時期や条件が到来した場合に、株式に転換することができる権利が付いているということです。

社債の場合、償還期限が来たら(会社が続いていればですけど)、社債の持ち主に発行額面を返す必要があります。一方、普通株に転換してもらえれば、会社としては現金を返すことなく、株式を渡すだけで済みます。

一見すると、株式に転換した方が会社としては良いように見えますが、当然デメリットもあります。優先株を普通株に転換されてしまうと、既に株式を持っている人の持ち分が減ります。(希薄化とよく書かれています。)なので、既存株主にはデメリットがあります。

あとは、優先株を株式に転換するときの株価がいくらかで、希薄化を計算するときの計算式が変わるようですが、この辺は実際に優先株を持っている人が自分の利益を最大化できる判断をすれば良いと思うので、詳しくは書きません。

とにかく、Western Digitalの決算発表資料等で、”Convertible Preferred Stock”というワードが出てきたら、株式転換権付き優先株のことだと思ってください。

コベナンツ条項

個別のトピック紹介の2つ目は、コベナンツ条項です。

Western Digitalは、メモリ不況で赤字を出していたので、借金のコベナンツ条項を24_1Q(2023年7-9月期)と24_2Q(2023年10-12月期)に満たせなかったようです。

決算発表資料から引用していますが、いくつか制約が増えたようです。

結局、Adjusted EBITDAはどう計算するのかを探すと、一応書いてありました。
(原本はWDの決算発表資料のp19にあるので、興味がある方は読んでみてください。)

複雑で、イマイチよくわからないんですが、ますトータルの損益から、EBITDAを計算します。

EBITDAから、ちょこちょこ調整額を足したり引いたりして、調整後EBITDA(Adjusted EBITDA)を出します。

最後に、金融機関との調整の金額を足してやって、”Credit Agreement Defined Adjusted EBITDA”が出てきます。これと、負債総額の割合が、”Credit Agreement Defined Leverage Ratio”になるようで、この値がコベナンツ条項で規定されています。

正直、EBITDAくらいまで追えるんですが、そのあとの計算は調整額が多すぎて、よくわからないですね。

ただ、”Credit Agreement Defined Leverage Ratio”は、利益が出ていれば値が小さくなりますし、借金が減っても値が小さくなります。要は、今後NAND市況が回復して、利益が出せるようになればいいわけです。

一方、NAND市況が再度落ち込むようなことがあると、コベナンツ条項に再度抵触するような可能性もゼロではありません。

わざわざ、決算発表資料につけているくらいなので、ピックアップして取り上げました。(もし、この辺の調整額等に詳しい方がおられたら、コメントしていただけると助かります。)

Western Digitalの今後の展望

最後に、Western Digitalの今後の展望を考えていきます。

第一に、NAND市況が回復に向かっているのは追い風です。HDD部門は、堅調なのでNANDが回復すれば、全体の業績としてプラスに向かうのは間違いありません。

次に、Western Digitalは2024年下半期にNAND部門のスピンオフを予定しています。NAND部門がスピンオフされるということは、NANDフラッシュメモリ専業メーカーになるということです。(キオクシアと一緒です。)

Western DigitalのNAND部門単体の会社がキオクシアと前工程を協業して、後工程は別会社として存在する価値があるのかどうかはわかりませんが、積極的な業界再編は起こりにくい状況なので、しばらくは現状維持が続くんだと考えています。

まとめ

この記事では、Western Digitalの2023年10-12月期の決算を解説しました。

NANDフラッシュメモリの市況回復の兆候が見られたことは、Western Digitalにとっては追い風になっていると考えられます。一方で、価格上昇に伴って、各社が減産を取りやめるタイミングが今後のキーになるでしょう。

優先株とコベナンツの話は、マニアックなので興味が無い方は流してもらって大丈夫です。

記事の中でわからないところや、誤っている点がありましたらコメントかお問い合わせフォームから連絡いただけると助かります。(過去にも、読者の方からの指摘を頂いて内容を修正したことがあります。)

このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。

あわせて読みたい
半導体業界への転職におすすめの転職サイト3選 みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。 この記事では、半導体業界に興味がある方向けに、半導体業界への転職に強い転職サイト3選を紹介します。 ...
あわせて読みたい
2nmプロセスがなぜ難しいと言われるのかをわかりやすく解説~初心者向け~ みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。 この記事では、ラピダスが量産しようとしている2nmプロセスが難しいと言われる理由を、ざっくりわかりや...
あわせて読みたい
【企業解説】フラッシュメモリメーカーのキオクシアについて解説 みなさんこんにちは。このブログを書いている東急三崎口です。 この記事では、NANDフラッシュメモリメーカーのキオクシアについて解説していきます。 キオクシアについ...

この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次