みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、Western Digital(以下WDと略します)の2024年7-9月期の決算について解説します。
公式の決算発表情報は、こちらのIRサイトに掲載されています。
先期のWDの業績も解説しているので、興味があれば読んでみてください。
売上
まずは、売上高を見ていきます。
全体
WD全体の四半期ごとの売上高を図にすると、このようになります。
WDはHDDとNANDフラッシュメモリのメーカーですが、ストレージメーカーとしてメモリ不況の影響を受けていることがわかります。
他の、メモリメーカーと同様に、2023年7-9月期前後を底として、売上は回復傾向です。
ただ、DRAMとNANDの両方を作っているメーカーと比べて、メモリ不況後の回復は弱く、メモリ不況前の売上高まで回復しきっていないのが特徴的です。
NAND・HDD別
WDは、NAND・HDD別の売上高も開示しているので、四半期ごとのデータを図にするとこのようになります。
NANDとHDDごとの売上高を見ると、メモリ不況後の売上の回復は主にHDDによるものであることがわかります。
NANDも不況期より回復してはいますが、伸びは弱いですね。
かつ、NAND単体で見ると、メモリ不況前の水準まで売上高は回復しておらず、2022年7-9月期と同程度の水準にとどまっています。
粗利
WDは、NAND・HDD別の粗利も開示しているので、それぞれを図にするとこのようになります。
メモリ不況期は、NANDの粗利が赤字になっている時期もありましたが、最悪期は脱しています。
2024年7-9月期の粗利は、NAND・HDDともに38%程度となっていました。
粗利の推移だけを見てもわかりますが、HDDは(NANDと比べて)比較的粗利が安定していますが、NANDの浮き沈みの激しさがうかがえます。
粗利が赤字であれば、どう頑張っても営業利益が黒字にはならないので、赤字になる時はトコトン赤字になる事業としての性質を持っていることがよくわかります。
利益
WDの当期純利益を図にすると、このようになります。
メモリ不況後、回復フェーズにあることもあって、今は稼ぐ時期に入っています。
不況期に5期連続赤字が出ているのが厳しいところですが、2024年は一安心といったところでしょう。
図に含まれている、2022年から2024年7-9月期の当期純利益を合計するとマイナスになっていて、ここ2年くらいは厳しい状況が続いていたことも、図から読み取れます。
そう考えると、メモリ不況からの回復はメーカーから見るとプラスにはたらきますが、もう少し好況期が続いてくれないと、稼ぎきる前に再度不況がやってくる形になります。
メモリ市況がどうなるかは、予測できないですが、WDからするともう少し好況期が続いてほしいのが本音ではないでしょうか。HDD部門は比較的安定していますが、NAND部門は特に影響を受けると思います。
貸借対照表から財務を見る
WDの2024/9/30現在の貸借対照表を図にすると、このようになっています。
WDはメモリメーカーの中では、自己資本比率が低い方ですが、こんなもんだろうと感じるくらいです。ちゃんと計算すると、47.9%でした。
のちほど少し触れますが、NAND部門のスピンオフの時に、会社の資産がどのように分配されるのかが今後の鍵になるでしょう。
コベナンツ
WDでおなじみの、コベナンツに関する説明があるのでさらっと載せておきます。
出典は、WDのIR資料のpptのp18です。
コベナンツ条項に関しては、色々書いてありますが、credit Agreement Difined Levarage Ratioの倍率を一定以下にすることが求められています。
調整項目がたくさんついていますが、ざっくり捉えると負債総額とEBITDAの比率で計算されています。
今は好況期なのでそれほど問題になっていませんが、不況期が再来すると、コベナンツ条項に抵触する可能性が出てきます。
コベナンツは、金融機関との取り決めなので、条項に抵触した場合どの程度のペナルティがあるのかはわかりませんが、融資する側から見るとあまりにもレバレッジが掛かりすぎていると貸せない面もあるのでしょう。
スピンオフはいつ?
最後に、WDのスピンオフについて少しだけ書きます。
WDは、2024年下半期にNAND部門をスピンオフすることを2023年に発表していました。
タイミングは、キオクシアとWDの合併話が破談になったタイミングでした。
結果的に、WDはキオクシアとの合併話ではなく、NAND部門のスピンオフを選んだ形になりました。
もうすぐ2024年も終わってしまうので、そろそろスピンオフの話が出てもいいのではないかと思いますが、まだ公式発表はありません。
NAND部門がスピンオフされると、スピンオフされた会社は正真正銘のNAND一本足の事業となります。キオクシアと似たようなものです。
ここまでくると、同等規模でNAND一本足の会社同士がわざわざ別会社の形で、前工程を協業する形を取るのがいいのかどうかもわからなくなってきます。
(今のキオクシアとWDの協業スキームが始まった時は、東芝とSanDiskの協業という形でした。)
どこかのタイミングで、NAND部門を新会社として分離することになるのでしょうが、NANDの市況の上下とプレイヤーがまだ多いことを考えると、なかなか厳しい道になるのではないかと私は予測しています。
まとめ
この記事では、Western Digitalの2024年7-9月期の決算について解説しました。
WD全体としては、売上高も利益も増えていますが、NAND単体で見ると伸びが弱いように感じます。ここ半年以内に好況期から不況期に転じる場合、稼げていないうちに不況期に突入するので、NAND部門から見ると厳しい状況に置かれるように見えます。
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このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。
この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
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