みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、キオクシアが新規上場したことを記念して、上場後の展望について簡単に書いていきます。
上場前の業績等については、有価証券報告書を深読みする記事を書いているので、こちらを読んでください。
Bloombergさんの記事で、バリューでもグロースでもIPOの価格では買う理由がないと書かれていたので、ではどういうところに将来性が見えるのか?そして、今後の展望はどうか?について、この記事では書いていきます。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-12-17/SOKHXPT1UM0W00
上場時の報道で気になった点
上場日(2024/12/18)の初値は1440円で、終値は1601円でした。
個人的にはこうなると思っていなかったので想定外でしたが、結果的には良かったのではないかと思います。
IPO初日だったので、各社が色々記事を出してました。
1つだけ不思議だなぁと思ったのは、ロイターのこの記事です。
https://jp.reuters.com/markets/world-indices/DUVROI2TTFJFNIMKDQK5USJMTI-2024-12-17
「上場時点の流通株式比率が上場維持基準の35%を満たしておらず、適合状況が28.09%にとどまると公表した。」という話なんですが、これは有価証券報告書にも記載してあった内容です。
上場承認が出てるのに、あえて上場初日にニュースにする意味合いがイマイチ理解できませんでした。
東証プライム市場の流通株式比率は35%以上と規定されているので、キオクシアは上場時にどうやって満たすんだろうか?と思っていましたが、特例が適用されていて、長期的に35%以上の流通株式比率を目指すことが条件となっています。
これはつまり、長期的に見るとさらに既存株主の保有株式の売出が行われる可能性が高いことを意味しています。
当然といえば当然のことなので、株式を買うのであれば、織り込んでおくのはスタンダードでしょう。
上場してどうしたいのか
一般的に、株式市場に上場する場合、何を目的とするのかを考えたときに、資金調達・信用を上げる・知名度の向上等があげられます。
キオクシアの場合は、東芝から売却されたあとの上場なので、少し毛色が違いますがそれでも新株の発行による資金調達は行っています。
上場することで、不特定多数の投資家から資金を調達できるようになるので、非上場の時と比べると資金調達の選択肢は広がるといえるでしょう。
一方、上場することで上場にかかるコストを負担したり、情報公開を広く行わないといけない義務が発生します。
上場はゴールではなく、上場したうえで事業を拡大してキャッシュフローを稼ぎ、株主へ還元することが必要となります。
市場に上場することで、現在の大株主である東芝やベインキャピタルの株式を現金化していくことは行われると思いますが、キオクシアが会社としてどうしていきたいのかが、個人的には判然としない部分はあります。
とはいえ、延期に延期を重ねた上場が実現したのは、一つのマイルストーンと言えるでしょう。
NAND業界の再編
キオクシアは、上場したとはいえNAND市場にはプレイヤーが多すぎる状況は変わっていません。
NAND市場は、キオクシア含めて6社がしのぎを削っている状況です。(SolidigmはまだSK Hynix傘下ですが、将来的に上場する予定なのでSK Hynixから切り出して書いています。)
・Samsung
・SK Hynix
・Micron
・Western Digital
・Solidigm
・キオクシア
これだけ市場に参加している企業があり、好況不況を繰り返す市場なので、中長期的にはメーカーの再編が起こるのは自然な流れです。
Western Digitalは、NAND事業をスピンオフすることが決まっているので、この中でNAND専業になるのは、キオクシア・Western DigitalのNAND部門・Solidigmの3社です。
DRAMメーカーである、Samsung・SK Hynix・Micronの3社以外のシェアは、30-40%だと考えられます。
30-40%のシェアを3社で分け合うのは、競争の立ち位置から考えると分が悪いのは否めません。
キオクシアは既にWestern Digitalと協業しているので、連携を図っていくのが第一選択になるのではないかと考えられます。(とはいえ、合併等には多くのハードルが待ち構えています。)
どういう形になるのかを正確に予測することは困難ですが、NAND市場は中長期的に見ると、再編が行われざるを得ない市場であることは間違いないです。
どうなったら企業価値は上がるのか
上場を果たしたキオクシアが、今後企業価値を上げていくにはどうしたらいいのかを考えてみます。
現状、キオクシアは東芝から売却された時の経緯から、非常に負債が多い状況にあります。まずは、負債比率を減らしていくことが求められます。
一般的には、資本であれ負債であれ、資金調達コストが最小化されるような調達方法にすればいいわけですが、NAND市場は、好況と不況の波が激しいので、自己資本がある程度厚くないと不況期の巨額赤字に耐えられないという現実があります。
好況期に稼いだキャッシュで何とか自己資本を厚くしていきたいものです。
次に、NAND専業メーカーとして、どう稼いでいくのか?ということを、明示していく必要があります。
半導体メモリ市場は、全体のパイが拡大していく成長市場なので、市場の成長に合わせて投資していくことで、規模は拡大していきます。
ただ、キオクシアの有価証券報告書を読んでいても、市場の成長が見込まれいて、それに合わせて投資していくという表現はよく見られたんですが、キオクシアとしてどういう成長戦略を目指していくのかが、読み取れませんでした。
NANDフラッシュメモリや、SSDは良くも悪くも規格が決まった汎用品なので、競合他社との差が出しにくい製品です。
DRAM市場で、SK HynixがHBMに注力して躍進したのは、記憶に新しいです。DRAM市場においても、HBMに注力する選択をしたが故に、SK Hynixの現在の躍進があるわけです。(逆に、SamsungはHBMをそれほど重要視していなかったようです。)
NANDフラッシュメモリにしても、モバイル機器・SSD・車載等、アプリケーションする分野は分かれています。(SSDは顕著ですが、それぞれの分野の中でも細かく分かれていますが。)
選択があっているかどうかは歴史が証明するとして、NAND市場で何を目指してどこを取るのか?という明確な指針を打ち出してく必要があるのではないかと、私は考えています。
SCMやOCTRAMなど、新規事業につながる研究開発も重要ですが、短期的にキャッシュフローを稼ぐためには既存の主力製品で稼いでいく必要があります。
キオクシアは、好況期になるべく稼いで自己資本を厚くすることと、今後のNAND市場で目指す方向性を明確にしていくことの2つが求められると考えられます。
先端NANDは技術的には転換点
最後に、おまけです。3D NANDは単純な積層数競争から、技術的な転換点を迎えつつあります。
クライオエッチングも導入されていきますが、原理的に1スタック当たりで加工できる層数が増えないと、ビットコストは下がりにくくなります。
3D NANDの初期は、16層→32層→64層と、積層数を増やしながら、メモリホールを1加工で形成することでビットコストを下げていました。
ただ、先端品の積層数が200層を越えたあたりから、各社2スタック以上の構成になっています。(SK Hynixは、321層を3スタックで作っています。)
クライオエッチングで1回で加工できる層数が多少増えるとは思いますが、300層を1スタックで加工するのはさすがに困難でしょう。
とすると、3D NANDは大容量(と技術競争の指標としての積層数を追い求める)を必要とする高積層タイプと、高速化を目的にした低積層高速I/Oタイプに分かれてくるのではないかと私は考えています。
DRAMでも、汎用品とHBMでは技術開発の方向性が違うように、NANDでも大容量タイプと高速タイプの2つの方向性に最適化されていくのではなかろうかと感じます。
大容量タイプは積層数を増やすことで少しでもビットコストを下げる方向に行くでしょうし、高速動作が必要とされるタイプでは、積層数はそこそこにして、高速I/Oを求める方向にいくでしょう。
NANDが2タイプに分かれていくというのは、私の予測でしかないですが、単純な積層数競争の世界ではなくなってきているのは確かです。
このような技術的な転換点があると考えると、キオクシアはNAND専業ではありつつ、自社の方向性として何がなんでもビットコストを減らす方向に向くのか、高速化に舵を切るのかが、一つの判断になると思います。
まとめ
この記事では、キオクシアの上場後の展望について簡単に書きました。
上場はゴールではなくスタートであると思っています。
記事の内容に明らかな間違いや、誤植、誤解を招く表現等がありましたら、コメントかお問い合わせフォームでご連絡いただけるとありがたいです。(基本的に、頂いたコメント等には全てお返事しております。)
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。
この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
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