みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事ではSK Hynixの2025年7-9月期決算について書いていきます。
公式の決算発表資料は、こちらのリンク先から見ることができます。
https://www.skhynix.com/ir/UI-FR-IR01
前の期である2025年4-6月期の決算は、こちらの記事で解説しています。

売上と利益の推移
まず、売上と利益の推移を見ていきます。
全社売上高
SK Hynixの全社売上高を四半期ごとに図にすると、このようになります。

少し落ち着いたかと思っていましたが、また驚異的な伸びを示しています。
全社売上高で約25兆ウォンですから、年換算すると100兆ウォンレベルの売上ペースです。
日本企業で考えると、日立が2025年3月期の連結売上高で9.7兆円です。事業が多角化している日立の連結売上高に迫る売上をメモリ専業で叩き出していると考えると驚異的であることがおわかりいただけると思います。
メモリ別売上高
SK Hynixは、DRAM・NAND別の売上高も公表しているので、四半期ごとに図にするとこのようになります。

売上高の伸びのほとんどは、DRAMの伸びであることがわかります。
NANDに関しては、先期と比べて微増ですが、大きく伸びているようには見えません。
SK HynixのNANDの売上高は、Solidigmも含めた数字なので、思ったよりもNANDは伸びていないことがうかがえます。
利益
四半期ごとの、粗利・営業利益・純利益について図にするとこのようになります。

粗利に関しては、売上高の伸びに連動して先期からさらに伸びています。
営業利益も、粗利に連動していることがわかります。純利益の伸び方だけ、少し他と違って見えますが、この点はおそらくキオクシア株式の評価益が乗っかていることに起因すると私は考えています。(のちほど少し書きます。)
貸借対照表
次に、2025/9/30時点の貸借対照表を図にしています。

着々と流動資産が増えているのが、毎四半期決算をウォッチしているとよくわかります。
自己資本比率は、67.4%でした。
2024/9/30時点(1年前)のBSはこのようになっていました。

資産総額が増えながら、純資産を着実に積み上げていることがよくわかります。
この1年で、流動資産が負債を上回ったのを考えても、メモリの好況期の追い風を受けてキャッシュを着実に増やす財務を築いていることがうかがえます。
キャッシュフロー
先期から始めた、各種キャッシュフローについても見ていきます。
キャッシュフロー(以後CFと書きます)は、営業CF・投資CF・財務CFの3種があります。本当は、全て同じ図に入れ込みたかったんですが、小さくなって見にくかったのでそれぞれ図にしています。
営業CF
四半期ごとの営業CFを図にすると、このようになります。

売上高の増加に伴って、営業キャッシュフローは順調に増えています。四半期で14兆ウォンの営業CFは、おそらく初めてで過去最高だと思われます。
投資CF
四半期ごとの投資CFを図にすると、このようになります。

稼いだ営業CFから、着実に投資を進めていることがうかがえます。とはいえ、2025年1-3月期と比べると投資CFは半分程度になっています。
CFの出方は、設備投資のタイミングに連動するので、若干タイミングはずれていると思われます。
しかしながら、四半期で5兆ウォンレベルの投資ができるだけのキャッシュを持っていることは、驚異的です。
財務CF
四半期ごとの財務CFを図にすると、このようになります。

財務CFは、好不況に伴って上下しますが、今期は若干プラスになっているようです。とはいえ、手元キャッシュは積みあがっていると思われます。
こうやって並べてみると、財務CFがどうなっているのかを見てみると、メモリの好不況がよく見える形になっています。
不況期でキャッシュアウトが続いているときは、財務CFがプラスになりますが、市況が改善すると財務CFが減っていき、好況期にはマイナスになり借金を返していく形がよく見えます。
フリーCF
四半期ごとのフリーCFを図にすると、このようになります。(フリーCFは、営業CF+投資CFで計算しています。)

フリーCFは営業利益とだいたい連動していることがわかります。
設備投資を大きく行うと、マイナスに転じる期もありますが、基本的には営業CFが稼げている好況期はフリーCFは大きくプラスになるのが通例です。
半導体デバイス業界は、巨額の設備投資を続けないと生き残っていけない世界でありながら、投資のタイミングをうまく考えないと不況期がやってきてキャッシュアウトに見舞われる厳しい世界です。
どんな会社もキャッシュは有限なので、このあたりの設備投資のタイミングは非常に重要な経営判断であるといえるでしょう。
営業利益と純利益のずれ
Hynixの今後の展望を見る前に、今期特徴的だった営業利益と純利益のずれについて簡単に見てみます。
今期の決算資料には、”Non-operating Profit”として、3.41兆ウォンが計上されています。
このうち、”Valuation gain on investment assets”が3.3兆ウォンです。これが、大半を占めていることがわかります。
“Valuation gain on investment assets”が意味するのは、四半期で生じた保有資産の評価益ということです。
四半期で約3000億円もの評価益が出うる資産は、SK Hynixが保有している資産を考えるとキオクシア株式しか考えられません。
というわけで、SK Hynixが間接保有しているといわれているBCPE Pangea Cayman2の保有株式数から、6月末と9月末の評価額を見てみます。
Edinetに公開されている大量保有報告書から、BCPE Pangea Cayman2の保有株数を見ると77,400,000株となっています。
この株数に変更が無いと仮定して(大量保有報告書が更新されていないのでおそらく変動はないはずです)、6月末時点での時価総額を概算すると約1937億円です。
一方、9月末時点での概算時価総額は、約3773億円です。
この2つの差分は、1835億円でした。円ウォンレートを見ると、9.4ウォン/円前後なので1.77兆ウォンになります。
ある程度説明はつきますが、3.3兆ウォンには少し足りないですね。
SK Hynixは、BCPE Pangea Cayman2以外にもBCPE Pangea Caymanにも出資しています。BCPE Pangea Caymanへの出資分は、Covertible Bondの形で行われているようなので、株式の時価総額としての評価額とは少し違った形で見えてきます。
ただ、3.3兆ウォンに対して少し足りない分は、BCPE Pangea Caymanへの出資額の評価と考えて差し支えないでしょう。
結果的に、SK Hynixはキオクシアへ出資したことで、四半期で3000億円近い利益が計上できているわけです。(保有資産の評価益なので、直接利益が生じているわけではありませんが。)
というわけで、SK Hynixから見ると、現時点ではキオクシアへの出資が自社の決算にもプラスで働いていることがわかります。もちろん、メモリ不況期には評価損を計上していたので、すべてがプラスではありませんが、競合他社の株式を大量保有することは基本的にできないので、SK Hynixはキオクシア株式を保有し続けるのではなかろうかと予測できます。
Hynixの今後の展望
最後に、決算発表資料の中で触れられていた内容を簡単に見てみます。
技術的な点でみると、HBMに関してはHBM4をリリースして、2026年にはキャパを増やしていく方向性のようです。
HBMが稼ぎ頭でしょうから、この領域の投資は惜しみなくやるでしょう。
DRAMに関しては、1c nm世代に注力しているようです。
NANDに関しては、321層世代の生産とeSSDに注力するようです。
全体的に見て、「AI向けのメモリに投資します」と書いてあるように見えます。
メモリの売上高を見ても、DRAMはサーバー向けとグラフィック向けで、NANDはSSD向けで過半数を占めている状況なので、サーバーやハイエンド品に注力して稼ぎますというのがSK Hynixの方向性なのでしょう。
AI向けの需要が落ち込むタイミングが来ない限り、SK Hynixの躍進は止まらないことは間違いなさそうです。
今後もしばらくは、AI向け用途で売上高が伸び続けていくことが予測されます。
バブルなのかは終わってみないとわからない
最後に、結局HBMをはじめとしたメモリの好況がバブルなのか、バブルでないのかについて私見を書きます。
タイトルにも入れましたが、「バブルなのかは終わってみないとわからない」というのが私の考えです。
ここで言及している「バブル」は、HBMをはじめとしたメモリ自体の需給の話であって、株式市場の株価の話ではないことは明示しておきます。
半導体メモリ業界は、過去を振り返っても好況と不況を繰り返すサイクルを続けてきました。これは、歴史の観点から見て明らかです。先端DRAMメーカーが、3社の寡占市場となっていることからも明らかです。
これは、半導体デバイス製造の構造的な宿命です。産業構造から考えて、需給バランスを一定に保つことが難しく、先端技術開発を続けながら設備投資を行って競争し続ける産業ですし、製造装置や工場建設のタイミングと実際に製品が市場に出てくるまでのタイムラグが長いこと、そして生産ラインでの歩留まり向上の推移から考えても、必ず需給バランスが崩れる瞬間がやってきます。
ただ、生成AI向けの投資によって、DRAMメーカーは着実に稼いでいてキャッシュを積み上げていることもまた事実です。SK Hynixは特に顕著です。
AI需要に支えられて稼いだキャッシュは、装置メーカー、従業員、株主に回っていることもまた事実であり、お金の循環という意味では誰も損していないです。
半導体メモリは歴史的に考えても、「メモリ自体」に価値が生まれることは少なく、メモリを使う「出口」に需要があって需要が増えます。
過去を紐解くと、PCでありスマホであり、現代では生成AI向けのGPUです。
では、この生成AI向けのGPU需要によるハイエンドDRAM特需が何に牽引されているのかと考えてみれば、生成AI向けのサーバー増強を行っている会社です。
生成AIがキャッシュを生み出しているのであれば、持続的な成長と投資が続くでしょうし、キャッシュを生み出せなければどこかで先端サーバー向けの投資は終わります。(キャッシュを外から稼げなければ、手持ちキャッシュはいつか尽きるので。)
結局のところ、生成AIがキャッシュを生み出せる産業になれば、この需要はバブルではなく持続的な成長が可能でしょうし、キャッシュを稼げず人々の期待だけで終わるのであれば、いつか投資のキャッシュが尽きて需要は減少に向かうでしょう。
生成AIがキャッシュを生み出せる産業になるかどうかを正確に予測することはできないですし、人々の期待感から生成AIのアプリケーションを提供する会社に出資が集まる状況が続けば、この好況は続くと考えられます。
しかし、これがいつどのタイミングで変わるのか?そして、外からキャッシュを稼いで持続可能な産業になるのかは予測できないので、結論としてはバブルは終わってみないとわからないということになります。
これは私見ですので、異論・反論等あって構わないと思っています。
まとめ
この記事では、SK Hynixの2025年7-9月期の決算について解説しました。
しばらくの間は、ハイエンドDRAMの伸びは続きそうな感覚になります。
記事の内容に明らかな間違いや、誤植、誤解を招く表現等がありましたら、コメントかお問い合わせフォームでご連絡いただけるとありがたいです。(基本的に、頂いたコメント等には全てお返事しております。)
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。





この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

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