みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、半導体メモリメーカー5社の財務状況を比較していきます。
半導体メモリメーカーは、世界でだいたい5社あるんですが、財務などについてちゃんと比較している記事が見当たらなかったので自分で書きました。
世界の半導体メモリメーカー5社をおさらい
まずは、世界の半導体メモリメーカー5社を見てみます。
・Samsung(韓国)
・SK Hynix(韓国)
・Micron(アメリカ)
・Western Digital(アメリカ)
・Kioxia(日本)
このように、5社あります。どの会社も、大企業であることには間違いありません。
5社の中で、半導体メモリのうちDRAMとNANDフラッシュの両方を作っている会社と、NANDフラッシュメモリだけ作っている会社の2つのグループに分かれます。
【DRAMとNANDフラッシュの両方を作っている会社】
・Samsung
・SK Hynix
・Micron
【NANDフラッシュだけを作っている会社】
・Western DIgital
・Kioxia
大きく分けると、2つのグループに分かれますが、半導体メモリで競争を繰り広げていることには変わりありません。
どの会社も大企業ではありますが、大企業の中でも「資金的にどの程度余裕があるのか?」ということに関してみていきます。
各社の決算期の関係で、Micronだけ1か月ズレた時期の財務諸表となっていますが、どうしてもずれてしまう点なので、各社を比較するうえで、一番近い決算期のデータを持ってきました。
財務諸表を全く読んだことが無い方は、こちらの記事を読んでから読み進めていただけるとわかりやすいと思います。
各社の財務内容をBSから見る
各社の財務内容を財務諸表である、貸借対照表(BS)の観点から見ていきます。BSの日付は、Micron以外の会社は2023/3/31現在のデータです。Micronは決算期がずれているので、2023/2/28現在のデータとなっています。
Samsung
まずは、Samsungです。BSのデータを見てみるとこのようになっています。
最初にSamsungのデータを出しているので他社との比較が難しいですが、圧倒的に負債(借金や支払わないといけないお金)が少ないのが特徴です。
Samsungは、半導体メモリ以外にもたくさんの事業を行っている会社で、BSも他の事業を含めた形になっていますが、それでもこれだけ借金が少ないのは驚異的です。
半導体メモリのシェアを見ても、DRAM・NANDフラッシュメモリともに、トップシェアを持っています。
トップシェアを持っていて、かつ借金が少ない経営をしているというのは、競合メーカーからすると、追いつくのはかなり難しいでしょう。
株式投資なんかをするときに、自己資本比率を出すことがあります。自己資本比率は、簡単に言うと会社が持っている資産の中で返さなくていいお金の割合がどの程度あるのか?を示した数字です。
SamsungのBSから、自己資本比率を計算すると79.2%となりました。他社でも自己資本比率を出していきますが、Samsungの数字は、5社の中でトップです。それだけ、借金の少ない経営をしていることが見てとれます。
SK Hynix
次に紹介するのが、SK Hynixです。
SK Hynixは、半導体メモリ業界以外だと知名度が下がるかもしれませんが、半導体メモリ業界では、Samsungに次いで規模の大きい会社です。
SK HynixのBSはこのようになっていました。
SK Hynixは、資産の側が流動資産と固定資産に分かれています。簡単に言うと、流動資産は現金や現金同等物などの現金化しやすい資産、固定資産は土地・不動産・機械装置などの、現金化しにくい資産のことを指しています。
こう見ると、SK HynixはSamsungと比較して負債が多いことがわかると思います。(それでも、多いわけではないでしょうが。)
Sk Hynixの自己資本比率は、58.4%でした。Samsungが、79.2%だったので、そこと比較すると自己資本比率は下がっています。
Micron
3社目に紹介するのが、Micronです。
Micronまで、DRAMとNANDフラッシュメモリの両方を作っている会社です。
Micronは、流動資産・固定資産・流動負債・固定負債を全て開示してくれています。
流動負債と固定負債の違いは簡単で、1年以内に返さないといけない借金が流動負債で、1年以上先に返さないといけない借金が固定負債です。
例えば、住宅ローンを借りている場合、ローンの総額の中でも1年以内に返さないといけない額は流動負債に、1年以上先に返せばいい額が固定負債に当たります。
Micronは、Samsungには及びませんが、借金が少ない会社であることがおわかりいただけると思います。
流動資産の額が、流動負債と固定負債を合わせた額を上回っているので、借金を返そうとすれば全部返せるくらいの資金力を持っていることがわかります。
Micronの自己資本比率は、71.0%でした。Samsungには及びませんがSK Hynixよりも借金が少ない経営をしていることがわかります。
Western Digital
4社目に紹介するのが、Western Digitalです。
アメリカの会社で、NANDフラッシュメモリ専業の会社で、DRAMは作っていません。
BSを見るとこのようになっています。
だいたい、半分くらいが借金になっています。
今まで見てきた会社の中で、一番借金の割合が高くなっています。自己資本比率を計算すると、49.6%と50%をギリギリ割っていました。
半導体メモリの生産には、莫大な設備投資が必要になるので、設備投資のための費用が重いのではないかと考えられます。
Kioxia
5社目に紹介するのが、日本の半導体メモリメーカーであるKioxiaです。
Kioxiaは、Western DIgitalと同じようにNANDフラッシュメモリだけを作っていて、DRAMは作っていません。
BSはこのようになっています。
今まで見た5社の中で、一番借金が多いのがおわかりいただけると思います。
流動負債と流動資産がほぼ同額になっているのは驚きです。1年以内に返さないといけない借金と、短期で現金化できる資産が同じくらいしかないということは、かなり借金が多いことを意味していると思います。
自己資本比率を計算すると、34.9%でした。
自己資本比率だけで判断することはできませんが、他の半導体メモリメーカーと比べて自己資本比率が低いということは、借金が多い経営を行っていることは間違いないでしょう。
KIoxiaは借金が多い
半導体メモリメーカーの財務状況を見てきました。5社の自己資本比率をまとめるとこのようになりました。
【半導体メモリメーカーの自己資本比率】
・Samsung:79.2%
・SK Hynix:58.4%
・Micron:71.0%
・Western Digital:49.6%
・Kioxia:34.9%
このように並べてみると、相対的にKioxiaの自己資本比率が低いことがはっきりとわかります。
借金が多いということは、2つの意味があります。
1つ目は、自己資金に対してレバレッジが掛けた経営をしているということです。
半導体メモリの製造には、莫大な設備投資と研究開発費が必要です。全額を自己資金で負担できればいいんですが、莫大な設備投資を手元のお金で全てまかなうのは大変です。
その分を借金でまかなって、半導体メモリの研究開発になんとかついていっている側面があります。
2つ目は、借金が多いと利子を払う必要があるので、資金が流出することです。
例えば、1000億円の借金を年率1%で借りた場合、年間で10億円の利子負担が発生します。(元本の返済とは別にです。)
そうすると、借金をしなかった場合と比べて、10億円余計に払わないといけなくなります。
借金の利子負担よりも、利益率が高ければいいですが、利益が上げられれない状況になると、利子負担が重くなります。
自己資本比率を比較して感じたのは、半導体メモリメーカーの設備投資は莫大なお金がかかりますが、借金が増えれば増えるほど経営は難しくなるので、自己資本比率が高い会社が有利であることは間違いないということです。
チキンレースは資金力の差で決まる
最後に、半導体メモリ業界独特のチキンレースが、自己資本比率とどう関係してくるかについて、考えていきます。
半導体メモリ業界では、儲かるときはとことん儲かりますが、市況が悪化すると、各社赤字を出すような、ジェットコースターのような構造をしています。
各社が赤字を出すような市況の悪い時期にダイレクトに効いてくるのが、自己資本比率の低さです。
各社が赤字を出すくらい市況が悪い状況なのに、借金が多いと借金の利子負担が重くなります。また、チキンレースと呼ばれるように、最終的にどこまで赤字を出しても会社が持ちこたえらえるかは、自己資金の割合がどのくらいあるかである程度決まります。
どれだけ赤字を出していてもお金を貸してくれる銀行があればいいんですが、一般的に大赤字を出していて赤字が改善される見込みが無ければ、なかなか新規でお金を借りるのは難しくなります。
そうすると、赤字になった時にどのくらい持ちこたえられるかは、自己資本比率が高いほど有利になるわけです。
しかも、半導体メモリ業界のチキンレースは、あくまでも同業他社との勝負です。同業他社の自己資本比率が低ければ、自社の自己資本比率が高くなくても、勝負に勝てる可能性はあります。
しかし、半導体メモリ業界の同業他社は、自己資本比率が高い会社が多いです。つまり、自己資本比率が一番低いKioxiaから見ると、同業他社にチキンレースを挑まれると、勝てる見込みはほとんどありません。逆に、自己資本比率が一番高いSamsungから見れば、他社にチキンレースを挑まれても、自社の限界に至る前に他社が負けることになるわけです。
Samsungの自己資本比率の高さが、20年近くメモリで減産を行わなかった原因なのではないかと思っています。減産しない状況でチキンレースが始まったとしても、他社が先に負けることは明らかなので、自社で減産はしないという、王者の考え方です。
財務の面で大きく見ると、有利なメーカーはSamsungが1番で、次にMicronが来るでしょう。不利なメーカーは、圧倒的にKioxiaで次にWestern Digitalが来ます。
今回の記事では、技術開発は完全に無視して財務だけにフォーカスしていますが、財務を見るとKioxiaの一人負けの状況は明らかです。
まとめ
この記事では、半導体メモリメーカー5社の財務状況を比較しました。
各社の自己資本比率は、このようになっています。
【半導体メモリメーカーの自己資本比率】
・Samsung:79.2%
・SK Hynix:58.4%
・Micron:71.0%
・Western Digital:49.6%
・Kioxia:34.9%
Samsungの強さを、財務の面でも再確認できました。
わからない部分があったり、もう少し専門的に書いてほしいというご希望・ご意見がありましたら、コメント欄かお問い合わせフォームからご連絡いただけると幸いです。必ずお返事するようにいたします。
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。
この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
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