みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、半導体メモリメーカーであるMicronの2023年4Q(2023年6月-8月期)の決算について解説します。
Micronは、他の半導体メモリメーカーよりも1か月早く決算が出ます。(決算期が1社だけずれているからです。)
つまり、半導体メモリの市況を一足先に知ることができます。Micronの決算発表は、1か月後に出てくる他社の決算を予測する重要なキーになっている決算発表になるわけです。
決算内容
まずは、2023年4Qの決算を見ていきます。売上高推移・DRAMとNANDの売上・利益の推移の3つを見ていきます。
売上高推移
2023年4Qの売上高・粗利・当期純利益はこのようになっていました。
売上高:40.1億ドル
粗利:-4.3億ドル
当期純利益:-14.3億ドル
2023年6月-8月は、1ドル150円程度が相場だったので1ドル150円換算で考えると、売上高が約6000億円・当期純利益が約2145億円の赤字になります。
日本円で考えると、四半期で2000億円の赤字なので巨額の赤字に見えますが、これでも最悪の時期は脱しています。
売上高の推移をグラフにすると、このようになります。
2023年3Qをピークに売上高が急減していて、2023年1Qから3Qの間は横ばいとなっています。
横ばいに見える2023年1Qから4Qの間を詳しく見ると、2023年2Qが底で、2023年4Qは少し売上が回復しています。半導体メモリ市況が急激に悪化する前のレベルには及びませんが、市況は底を打ったと考えています。
DRAMとNANDの売上
Micronは、半導体メモリのDRAMとNANDフラッシュメモリを作っていて、DRAMとNANDフラッシュメモリのそれぞれの売上高を公表しています。(DRAMとNANDフラッシュメモリのそれぞれの売上を公表している会社は少ないので、各社の正確な売上はよくわからないのが実際のところです。)
DRAMとNANDフラッシュメモリの売上の推移を表すと、このようになります。
DRAM・NANDフラッシュメモリのどちらも、2023年3Qをピークにして売上高が急減してそのあとは横ばいです。
ただ、DRAMとNANDフラッシュメモリで少し違う部分があります。
DRAMは、売上が急降下した2023年1Qから4Qの間で売上高がほとんど増えていません。
しかし、NANDフラッシュメモリは2023年1Qから4Qの間をよく見ると、2Qが底になっていて3Q・4Qにかけてわずかに増加しています。
半導体メモリと一言で言っても、DRAMとNANDフラッシュメモリの動向は少しだけ違います。
ただ、どちらも市況が悪化する前の状況までは売上が回復していないのは間違いありません。
利益の推移
最後に、利益の推移を見ていきます。
粗利・営業利益・当期純利益をそれぞれ表しています。
粗利のトレンドは、売上高のトレンドと一致しています。
売上高よりも粗利を推移がわかりやすいです。2023年2Qが底になっていて、3Q・4Qと粗利が回復していることがわかります。とはいえ、底を打った2023年4Qでも粗利が赤字となっているため、売上高が製造原価を下回っています。
営業利益は、粗利から販管費と減価償却費などの費用を引いたものなので、粗利が赤字であればほぼ赤字になります。
営業利益も当期純利益も、ほぼ粗利と同じ動き方をしています。粗利と営業利益の差分を見ると、Micronは四半期の売上が2023年4Qより10億ドル程度増えないと黒字にはならないことがわかります。
四半期で10億ドルというと、約1500億円程度になります。Micronは、2022年2Q以前くらいの売上まで、半導体メモリ市況が回復しないと黒字にはならない構造であると考えられます。
財務内容
次に、財務内容を見ていきます。2023年4Qの貸借対照表を見てみます。(2023/8/31時点のデータです。)
貸借対照表
Micronの2023/8/31時点の貸借対照表を見るとこのようになっています。
やはり、Micronの財務状況は非常に良いですね。流動負債と固定負債を合わせたトータルの負債額よりも、流動資産の方が上回っているので、借金は少ない財務体質になっていることがよくわかります。
自己資本比率を計算すると、68.7%でした。2023年3Qの自己資本比率は69.1%だったので、わずかに下がりましたが非常に財務体質が良い状況を維持しています。
半導体メモリメーカー5社の貸借対照表を比較している記事があるので、他社の財務状況を見てみたい方はこちらの記事を読んでみてください。
半導体メモリの市況は底を打って回復に転じた
Micronの2023年4Qの決算を見てきました。
全体を見て感じたのは、半導体メモリの市況は2023年2Q(2022年12月-2023年2月期)を底として、回復に転じたことです。
2023年2Qから2023年4Qにかけて、営業利益が10億ドル回復しているので今後も回復傾向が見込めると考えています。
ただ、回復の勢いはそれほど強くないので、来期(2024年1Q)にかけて売上高は伸びるでしょうが、Micronはギリギリ黒字転換できるかどうかでしょう。
半導体メモリ市況が回復に転じた理由は、顧客の在庫が減ったことでしょう。半導体メモリメーカー側が減産を続けていたので(これまで減産してこなかったSamsungでさえ減産しています)、供給が減少し在庫が減ったと考えられます。
半導体メモリの在庫が減少したとはいえ、DRAMの需要増加はまだはっきりと見えていません。NANDフラッシュメモリに関しては、緩やかながら売上の回復の兆しが見えています。
Micronは、売上比率がDRAM:NANDで7:3くらいです。そうすると、DRAMの方が売上への寄与が大きく、DRAM市場が本格的に回復するまでMicronの業績の劇的な回復は無さそうです。
NANDフラッシュメモリに関しては、Micronのシェアは10%程度なのでそれほど高くありません。(高いどころか、5社の中で一番低いです。)NANDフラッシュの市況は回復するに越したことはありませんが、Micronの業績だけを考えるとDRAMの方が重要でしょう。
Micronの今後
最後に、Micronの今後について考えていきます。
Micronは、先ほども書きましたが、DRAMとNANDフラッシュメモリの両方を作っていますが、主軸はDRAMです。
DRAM市場は、Samsung・SK Hynix・Micronの3社で9割以上のシェアを持っている寡占市場です。寡占市場であるが故に、シェアを伸ばすのが難しい状態です。
NANDフラッシュメモリ市場は、作っているメーカーが5社存在しDRAMと比べると競争が激しいです。
DRAMより競争が激しい市場とはいっても、Samsungが1社で30%近いシェアを持っていて、キオクシアとウエスタンデジタルは協業しており、2社のシェアを足すと30%程度になります。
つまり、上位2グループ(1社と2社の連合)で全体の60%近いシェアを持っています。残りを、SK HynixとMicronが分け合っています。この状況を考えると、MicronはNANDフラッシュメモリの競争に関しては、不利な状況です。
単純にシェアは、現在各社が持っている製造能力を反映しているので、一朝一夕に伸ばすことはできません。MicronがNANDフラッシュメモリの製造をやめるとは思いませんが、シェアを増やす方向を考えないと、NANDフラッシュメモリ単体で見たときに収益性は低くなりがちになってしまうと考えられます。
会社の財務体質自体は、Samsung以外の会社と比べると非常に良いので、体力はあると思いますが、今後の成長の軸をどこにするのかがキーになってくると思います。
まとめ
この記事では、、半導体メモリメーカーであるMicronの2023年4Q(2023年6月-8月期)の決算について解説しました。
半導体メモリの市況が底を打ったことが見えて、少しだけ明るい兆しが見えてきたと私は考えています。各社が赤字を出す中、会社の体力勝負のチキンレースのフェーズからは脱したように見えるので、今後市況が伸びた時に需要の伸びに対応できるかが、今後の業績の差につながるでしょう。
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。
この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
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