キオクシアのIPO目論見書を読み解く~負債をどうやって返すんだろうか~

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みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、日本で唯一のNANDフラッシュメモリメーカーであるキオクシアの財務状況について読み解いていきます。キオクシアは、東芝のフラッシュメモリ部門が分離されて作られた会社で、売上高は1兆円クラスですが上場していません。(2023/3/4現在)

上場企業ではないので、決算発表でも損益計算書や貸借対照表は公開していないんですね。ただ、2020年に新規上場(IPO)しようとしていた時期がありました。IPOしようとすると、上場企業と同じレベルで財務内容の開示が求められます。この時の、IPO関係の書類(IPO目論見書)を読むことで2020年の情報ですが、キオクシアの財務内容を見ることができました。

IPO目論見書を手に入れられたのは良かったんですが、pdfファイルで422ページ書いてあるんですよ。これを全部読む人はいるんだろうかと感じてしまったくらいです。非常に情報量が多くてわかりにくいですが、財務諸表の部分にフォーカスして内容を紹介します。

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目次

キオクシアの沿革

まずは、今回解説するキオクシアの沿革について簡単に説明します。

キオクシアはもともと、東芝の半導体事業の中のフラッシュメモリ製造部門です。東芝で原発事業の巨額損失が発覚した際に、債務超過になることを回避するために稼ぎ頭であったフラッシュメモリ部門が売却されることになりました。

フラッシュメモリ部門は東芝から分社化されて東芝メモリになったあと、キオクシアという社名に変わっています。

東芝からフラッシュメモリ部門を買い取ったのが、ベインキャピタルを中核としたファンドが作ったPangeaという会社です。そして、東芝から売却された東芝メモリ(現キオクシア)の出資比率が日本側が50.1%の議決権を持っている形で再出資が行われました。

東芝から単純に分社化されたわけではなく、一旦Pangeaが東芝メモリを買い取り、東芝メモリと合併して、再度出資比率を分配するようなスキームになっているので、非常にわかりにくいんです。(こんなスキーム思いつく人いるんやなぁと思うくらいです。)

株式の出資比率を見ても、どの会社がどのくらい影響力を持っているのかよくわからないというのが正直な感想です。

2020年にIPOを予定していた

東芝から売却されて、海外のファンドに売却された東芝メモリですが、東芝とHOYAが50.1%の議決権を持ち、日本企業が過半数の議決権を持つ形になっているようです。

他の部分は、ベインキャピタルを中心とした投資ファンドが持っているようです。ファンドが会社を買った時に目指す目標としては、株を買い取った会社のを上場させてその時に株を売って得られる利益を取りにいくことです。つまり、どこかのタイミングでキオクシアは上場することがターゲットになっているわけです。

そして、2020年に東京証券取引所に新規上場する計画であることが発表されました。2020/10/6に上場する予定で手続きが進められていましたが、2020/9/28に新規上場を中止することが発表されました。(公式発表のリンクはこちらです。)

結局、キオクシアの上場はこの時延期になり、2023年現在でも行われていません。

上場に関するニュースは特に出てこず、決算発表も簡易的に売上高・粗利・営業利益等は出していますが、財務諸表は公開していないので、どんな経営状態になっているのはよくわからないというのが実際のところです。

フラッシュメモリとDRAMを作っている会社は5社ありますが、キオクシア以外の会社は上場していて損益計算書と貸借対照表を公開しているので、経営状態が比較的わかるようになっています。

キオクシアの財務諸表が見れないかと思っていましたが、IPOしようとしていた時のIPO目論見書を見てみると、IPOしようとしていた当時のデータですが、財務諸表が載っていました。全部読むと422ページありますが、今回はバランスシートに着目していきます。

IPO予定時の財務諸表

貸借対照表

まず、IPO予定時のキオクシアの貸借対照表を見てみます。(2020/3/31現在のデータです。)

資産の部を見ると、流動資産が6700億円・非流動資産が2兆円で総資産は2.7兆円くらいです。非流動資産の2兆円のうち、有形固定資産が1兆円くらいあるので、フラッシュメモリの製造のために必要な工場関連の固定資産がかなり占めているであろうことはわかります。

次に、負債を見ると、流動負債が5000億円・非流動負債が1.5兆円で、負債合計が2兆円です。資本合計が7000億円なので、ざっくり考えると自己資本比率は25%程度であることがわかります。

図にするとこんな形になります。入っている数値は各項目の百万円単位の金額です。

資産の部を見ると、固定資産が非常に多いですし、負債の部を見ると固定負債が多いです。1.5兆円の固定負債がかなり大きく、固定負債をどうやって何とか減らしていかないと、利子だけでもすさまじい額になりそうです。1兆円の借金があったとすると、金利が年率1%だとしても利息だけで100億円になるわけですから、相当な額です。

損益計算書

次に、損益計算書について見ていきます。2019/4/1~2020/3/31の期間の損益計算書になります。

まず、売上高が9872億円で、売上原価が9865億円です。この時点で、粗利が6.7億円なので販管費を引いたら確実に赤字になってしまいます。

販管費が1740億円で、その他利益とその他費用が50億円ずつ程度あり、営業利益は1730億円の赤字です。

営業利益から、金融費用や税金等を差し引いて最終的な当期純利益は1659億円の赤字です。

この業績が続くとかなり厳しいことは、想像に難くないです。

借金の条件で設備投資の上限が決まっている

借金の内容として、いくつか記載があるんですが、2019/6/17付で、メガバンク3行+三井住友信託銀行の4行から約8700億円を借り入れた旨が書かれています。額が大きいだけに、メガバンクでも3行ついているのが驚きです。

情報としては古いですが、この融資にはいくつか条件がついています。

まず、利率は年利2.25~2.5%+αです。+αの部分は、TIBORというもので2019年当時のレートを見ると年0.136%程度なので、実質的な年利は2.25~2.5%程度だといえます。

他にもいくつか条件はありますが、特に注目すべきところは「設備投資額を一定以下にしなければいけない」ことと、「2会計年度連続で赤字になってはいけない」というところです。

設備投資額としては、2020年の3月期であれば5777億円以下にしなければならないことが明示されています。これは、設備投資できるお金があるかどうかは置いておいて、キオクシアの設備投資額は銀行の制限が掛かっていることを示しています。

また、2会計年度連続で赤字になってはいけないという点も大きいですね。というのは、2年連続赤字決算になることがあれば、その時はかなり会社の経営的に厳しい状況だと思われますが、半導体メモリ事業の場合、半導体メモリの価格が暴落すると、多額の赤字を出すことがありえて、実際に赤字に耐えられず市場から撤退する会社もある業界です。

そんな業界で、メモリの価格が暴落しているときには、1企業の努力で決算を黒字化することは不可能なので、もし決算が2年連続で赤字になったとすると、借金を返さないといけない可能性が出てきます。

よく見ると優先株も発行している

ここまで、キオクシアの財務諸表と借金の条件について見てきました。実は、銀行からの借金とは別に「優先株」というものがあります。

優先株は、株式の一種ですが、普通の株とはちょっと違います。普通の株は、普通株式と言って保有割合に応じて株主総会の議決権が発生します。しかし、キオクシアが発行している優先株は議決権は無い代わりに、配当が高めに設定されています。

優先株には、甲種優先株式と乙種優先株式が存在し、それぞれ1800株と1200株です。株数自体は少なく見えますが、1株当たり1億円なので、トータルで3000億円です。1株1億円って、株式市場で売買されるような値段ではないことがおわかりいただけると思います。

そんなお化けみたいな優先株をどこが持っているのかというと、甲種・乙種ともに株式会社日本政策投資銀行が持っています。株式会社日本政策投資銀行は普段聞かない銀行だと思います。それもそのはずで、株式会社ではありますが株式を100%財務大臣が持っている(2023/3/4現在)、政府系の金融機関です。

甲種・乙種の優先株式は、細かい条件はありますが、議決権が無い代わりに、配当が4%前後になっています。細かい条件については、詳しく書きませんが、読んでもわかる人は少ないと思います。(金融系の専門家が読まないとわからないと思います。)

このトータル3000億円の優先株は、償還の条件がいくつかありますが、その条件が特に生じなかった場合には2025/6/17が償還期限となっています。償還期限ということは、キオクシアは金銭で優先株を買い取らないといけないということになります。

政府系の金融機関ですし、別途合意があれば期日の延長があるのかもしれません。

単純な出資ではないので、いつかは返さないといけないわけですが、2022年12月の決算を見ても四半期で1000億円近い赤字なので、現状は返せる状況では無さそうです。

ここ数年の業績を見てみる

IPO目論見書の財務諸表の内容は、2020/3/31までの内容がほとんどなので、ここ最近の業績について見てみます。キオクシアの2023年度第三四半期の業績について書いている記事もあるので、興味があれば読んでみてください。

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2020/3/31以降の営業利益について見てみると、このようになります。

2020/3/31は、2020_4Qの末なので、2021_1Qから2023_3Qの間は損益計算書や貸借対照表は公表されていません。2022年後半から2023年前半は黒字決算になっており、良かったんですが2023年度第三四半期では3か月で1000億円近い赤字になっています。

2023年度3Qのような業績が続くと、かなり厳しいことが予想されます。2020年度末から、長期借入金がどの程度減っているかわかりませんが、売上の減少と借入金の返済が同時にやってくると資金が持つか心配になるところです。

まとめ

今回の記事では、日本で唯一のNANDフラッシュメモリメーカーであるキオクシアの財務状況について読み解きました。2020/3/31のデータではありますが、固定負債が非常に重く、直近の決算でも四半期で1000億円近い赤字になっているのは気がかりなところです。

おわりに

長くなりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。記事の中でよくわからない点がありましたら、コメント欄かお問いあわせフォームからご連絡いただければお返事できるようにいたします。。Twitterもやっているので、面白かったらフォローお願いします。

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