みなさんこんにちは。このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、Samsungの2023年4-6月期の半導体部門の業績について解説します。
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【プロフィール】
名前:東急三崎口
経歴:学生の頃から半導体の研究を始め、半導体メーカーで約3年勤務。ロジック半導体・メモリ半導体が専門
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Samsungの事業内容
Samsungは、半導体メモリ業界の中で一番規模の大きい会社です。
半導体メモリ業界は、メモリ専業メーカーが多いですが、Samsungはメモリ以外にもロジック半導体やCMOSイメージセンサも作っています。
半導体以外にも、スマートフォンや家電なども作っている大きな会社なので、資金力と規模では他社を圧倒しています。
Samsung全体の決算は部門ごとに分かれているので、この記事では半導体部門にフォーカスして解説します。
2023年1-3月期の決算については、こちらの記事で解説しているので、この記事を読んでから先を読んでいただけるとわかりやすくなっています。
Samsungの事業構成は大きく4つに分かれています。
DX(Devixce Experience)
DS(Device Solutions)
SDC(Samsung Display Company)
Harman
半導体部門は、DS部門です。大きく4つに分かれている部門の売上と利益の比率を簡単に見ていきます。
売上比率
Samsungの4つの部門の売上比率はこのようになっています。
DS部門は、メモリの市況が落ちていて売上高が減少したのが原因で、全体に占める売上高の比率が2割程度になっています。
利益比率
次に、4つも部門の利益比率を見ていきます。本当は円グラフで割合を見るとわかりやすいんですが、DS部門が赤字で円グラフにするとよくわからないので、棒グラフにしています。
一見してわかる通り、DS部門が大幅に赤字です。他の部門が黒字なので、Samsung全体で見ると、かろうじて黒字を確保している状態です。
Samsung全体で見ると、半導体部門の大赤字を他の部門が稼いだ利益で穴埋めしているような形です。
1ウォン=0.1円程度の為替レートとして、大まかに計算するとDS部門の4兆ウォンの赤字は4000億円程度の赤字に相当します。
3か月で4000億円の赤字ですから、年換算すると年間1.6兆円レベルの赤字です。
日本の会社で、年間1兆円超えの赤字になるような会社はあまり思い当たらないです。Samsungは、会社の規模が大きいとはいえ、半導体部門の赤字は巨額であることに変わりはありません。
半導体部門の業績
Samsungの半導体部門が、巨額の赤字であることを確認したうえで半導体部門の業績について細かく見ていきます。
Samsungの半導体部門は、半導体メモリ業界の競合他社と違って、3つの部門を含めた数字になっています。
【DS部門の事業】
・システム LSI
・ファウンドリ
・メモリ
システムLSI部門は、スマホやPCに使われるCPUを作っています。
ファウンドリ部門は、他のファブレスメーカーから依頼を受けて半導体チップを作っています。
そして、半導体メモリ部門はDRAMとNAND Flashを作っています。
Samsungは、半導体と言っても大きくこの3つの部門に分かれていますが、主力製品は半導体メモリです。
半導体メモリとして知られる、DRAMとNANDフラッシュメモリの両方で世界シェアNo1を持っている、世界最強のメモリメーカーです。
売上高
まず、DS部門の売上高を見ていきます。Samsungは、DS部門全体の売上と、DS部門の中のメモリ部門だけの売上の両方を公開しています。DS部門全体と、メモリ部門の売上をそれぞれ図にするとこうなります。
青色の線が、DS部門全体の売上です。オレンジ色の線が、メモリ部門だけの売上です。
灰色のDS-メモリの線は、DS部門全体の売上からメモリ部門の売上を引いて筆者が計算した数値です。
DS部門の売上高は、メモリ部門の売上高と連動していることがわかります。
また、DS-メモリの売上高がそれほど変わっていないことからわかるように、Samsungの半導体部門の主力は半導体メモリです。
2022年第二四半期(2022_2Q)から、半導体メモリの市況が悪化していて、売上高が減少しています。
世界最強のメモリメーカーであるSamsungも例外ではなく、メモリの売上が急減していることがわかります。
2023年4-6月期は、メモリの売上高の減少が止まったように見えます。2022年中盤から減少し続けていた、半導体メモリの市況は底を打ったように見えます。
Samsungは、DRAMとNANDフラッシュメモリの売上比率を公表していないので、詳しいことはわかりませんが、他社(SK Hynix)の決算から推測する限り、DRAMの市況が回復し始めていると考えられます。
SK Hynixの2023年4-6月の決算は、こちらの記事で解説しているので興味がある方は読んでみてください。
営業利益
DS部門の営業利益を見ていきます。
他社の場合、半導体メモリ専業メーカーなので、会社全体の営業利益や当期純利益を見ています。しかし、Samsungの場合、会社全体の利益を見てしまうと他の部門も込々の数字になるので、あえてDS部門だけの営業利益を見ています。
2022年第二四半期から営業利益が急降下していましたが、2023年4-6月期では営業利益の減少が止まったように見えます。
これは、売上高の減少が止まって底を打ったことが原因でしょう。
そもそも、Samsungは半導体部門で赤字を出すのはかなり珍しいです。2023年は、メモリの市況が非常に悪いので2期連続で赤字になっていますが、10年後振り返った時にかなりレアなことだと思います。
赤字額が5兆ウォン近いので、巨額であることは間違いないですが、今後半導体メモリの市況が回復すれば、黒字転換することはほぼ間違いないと思われます。
財務体質
最後に、Smasungの財務体質を貸借対照表から簡単に見ていきます。
貸借対照表は、読み方がわからないと何が書いてあるかわからないので、一度も読んだことが無い方はこちらの記事を読んでから読んでいただけるとわかりやすいと思います。
貸借対照表
Samsungの貸借対照表は、会社全体のものなので半導体部門単独ではありません。
しかし、Samsungという会社の財務体質が非常に強いことが一目でわかります。
固定資産・流動資産・流動負債・固定負債の区別がはっきりされていないので、資産と負債はまとめて表記しています。
一目見てわかる通り、資産が大きくて負債が小さい貸借対照表になっています。
資産が大きくて負債が小さいということは、返さなくていいお金である純資産が多いので、端的につぶれにくい会社だといえます。
1年近く、半導体メモリの市況が悪い状況が続いているのにもかかわらず、負債が非常に少ないことを見ると、財務体質は盤石と言えるでしょう。
貸借対照表を見る限り、もうしばらく半導体メモリの市況が回復しなかったとしても、経営が傾くことは無さそうに見えます。
Samsungの今後の展望
最後に、Samsungの立場から見た今後の展望を考えます。
半導体メモリの市況は、売上高の減少が止まったことから、底を打ったように見えます。
20数年ぶりにSamsungが半導体メモリの減産に踏み切ったあとに、市況が底を打ったのを見ると、減産したことが市況全体にプラスの影響を及ぼしていることが予測されます。
DRAMとNANDフラッシュともに、SamsungはシェアNo1を持っていますが、今後に影響があるとすれば他社の動向です。
DRAMは寡占市場でSamsungを含む3社(SK HynixとMicron)で市場の9割を占めているので、シェア争いは起きにくいと考えられます。
一方、NANDフラッシュメモリは、Samsung含めて5社でシェア争いをしているので、DRAMより競争が激しいです。
NANDフラッシュメモリ業界では、キオクシアとWestern Digitalの合併が取りざたされています。Samsungから見ると、この2社が合併すると、NANDフラッシュメモリ業界でSamsungに匹敵するシェアを持つことになるので、競争が激化することが予測されます。
Samsungの経営はそう簡単に傾くことは無いと考えられますが、NANDフラッシュのシェア争いは今後も続くことになりそうです。
まとめ
この記事では、2023年4-6月期のSamsungの半導体部門の業績について解説しました。
半導体メモリの市況は、やっと底を打ったように見えます。
半導体メモリの市況が悪い状況が続いていたにもかかわらず、Samsungの経営は強いこともはっきりとわかりました。
半導体業界に興味がある方や、半導体業界に転職してみたい方には、こちら記事もおすすめです。
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