みなさんんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、2023/9/20に報道された「キオクシアとウエスタンデジタルの経営統合に向けて、メガバンクが融資の検討に入った」という記事を読み解いていきます。
報道していたのはBloombergで、記事の原文はこちらから読めます。
キオクシアの現状
まずは、キオクシアの現状について見ていきます。
簡単に解説すると、キオクシアはNANDフラッシュメモリの世界シェア第2位の会社です。2022年10-12月のデータですが、NANDフラッシュメモリのシェアはこのようになっています。
このグラフ中で、第4位のシェアを持っているのが経営統合の話が出ていたウエスタンデジタルです。(図中ではWDと略して書いています。)
キオクシアとウエスタンデジタルは、経営統合以前にフラッシュメモリの製造に関しては協業しています。
つまり、今回報道されている話は、既に協業している会社同士の経営統合です。
ウエスタンデジタルはアメリカの株式市場であるNASDAQに上場していて、キオクシアは東芝から売却されたあと非上場のままである違いはありますが、フラッシュメモリのメーカーであることは違いありません。
そして、この2社が経営統合した場合に設立される新会社のシェアを考えてみます。先ほどのシェアで、キオクシアとウエスタンデジタルのシェアを単純に足すとこうなります。
2社が経営統合して新会社が作られると、従来シェア1位であったSamsungに匹敵するフラッシュメモリメーカーが誕生するわけです。
キオクシアがウエスタンデジタルと経営統合せざるを得ない懐事情
次に、キオクシアがウエスタンデジタルと経営統合せざるを得ない懐事情について見ていきます。
2023/3/31現在のキオクシアの貸借対照表は、このようになっています。
2022年後半から、半導体メモリは市況が急激に悪化しており、各社が赤字を出している状況です。
他社も厳しい市況ですが、キオクシアの財務状況を見ると、競合他社と比較しても明らかに借金が多いです。(半導体メモリメーカー5社の財務状況を比較して解説している記事があるので、興味がある方は読んでみて下さい。)
実際問題、もともと借金が多かったのに加えて、半導体メモリ市況が悪化して赤字が続いていて、資金的に厳しくなっているのが、ウエスタンデジタルと経営統合を検討している報道がある背景にあると考えられます。
株主構成と利害関係者
続いて、キオクシアの株主構成と利害関係者を見ていきます。
株主構成
キオクシアは過去にIPOを目指していた時期がありました。(2020年の話です。)
この時に、IPOの寸前まで行っていたため、当時の株主構成(議決権ベースの割合に合わせて筆者が作成)が公表されています。
BCPE○○とついているのは、キオクシアが東芝から投資ファンドに売られた時に、キオクシアを買ったベインキャピタルというファンドが持っている株式です。ばらけていて、わかりにくいのでファンドが持っている株式を整理するとこうなります。
ベインキャピタルが54.3%、東芝が40.6%の株式(議決権ベース)を持っていることがわかります。
報道の中でも、現時点でのキオクシアの株式保有比率はこのように報道されているで、IPOしようとしたときからほとんど株主が変わっていないことがわかります。
キオクシアに56.24%を出資する米ベイン・キャピタルを主軸とする連合や、40.64%を出資する東芝
https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/6ad95c4bd204c67c38af5508fc9b01b105f0c207
利害関係者
キオクシアの株主構成で解説したように、キオクシアの現時点での大株主はベインキャピタルと東芝です。
利害関係者がこれだけで済めば話は早かったのかもしれませんが、キオクシアの株式を40%近く持っている東芝の株主構成も複雑でした。
東芝は、モノ言う株主(投資ファンド)からの影響を排除するために、2023/9/20を期限として日本産業パートナーズ(JIP)という投資ファンドがTOBを行っていました。
日本産業パートナーズは、東芝の株式のほとんどを株式市場から調達する予定です。
そして、日本産業パートナーズは東芝の買収に興味を示している会社が複数社出資しています。
つまり、キオクシアがウエスタンデジタルと経営統合を進める場合、株主の意見を無視することはできないので、利害関係者が4つあることになります。
・ウエスタンデジタル
・ベインキャピタル
・東芝
・日本産業パートナーズ(ファンドに出資した会社も含めると多数)
キオクシアの株式を保有している東芝がさらにTOBされているという複雑な関係性が、交渉を難しくしていたんだろうと考えられます。
持ち株比率から新会社の主導権を読む
Bloombergの報道によると、キオクシアとウエスタンデジタルが経営統合した場合に設立される新会社の株式保有比率は、このようになるようです。
【新会社の株式保有予定比率】
ウエスタンデジタル:50.5%
キオクシア:49.5%
新会社の持ち株比率を見ると、ウエスタンデジタルが主導権を握っている経営統合であることが、はっきりとわかります。
株式保有比率が50%を超えていると、株主総会で一般的な決議を単独で決定することができます。役員の選任や報酬の決定などが、行えるようになるため、新会社の役員などの決定はウエスタンデジタルが主導権を持つことになるでしょう。
50%を超える保有比率であれば、50.1%でもよさそうですが、50.5%になっている理由はよくわかりませんが、少なくともウエスタンデジタルが主導権を持った経営を持つことが予測されます。
逆に言うと、従来のキオクシアの経営陣は株式の保有比率から考えると、影響力が低下することが容易に予想できるので、すんなり経営統合の交渉が進まなかったのかもしれません。
融資を検討している4つの銀行
報道の中で出てきていた、融資を検討している4つの銀行を見ていきます。
・みずほ銀行
・三井住友銀行
・三菱UFJ銀行
・日本政策投資銀行
上の3つの銀行は、日本の3メガバンクと呼ばれていて、皆さんもご存知だと思います。
4つ目に出てきた、日本政策投資銀行はご存じでしょうか。一応民営化されていますが、財務省所管の特殊会社です。簡単に言うと、政府系の銀行です。
キオクシアのIPO目論見書を読むとわかるんですが、今回報道で出てきた4行は以前からキオクシアに融資を行っていた銀行です。(IPO目論見書に関しては、以前の記事で詳しく解説しています。)
3つのメガバンクは融資という形で、日本政策投資銀行は優先株という形でキオクシアへの融資および出資を行っています。(優先株は議決権が無いので議決権ベースの保有株式比率には出てきませんが、日本政策投資銀行はトータルで3000億円分の優先株を持っています。)
報道されている計2兆円の融資の内訳を見てみると、1.6兆円の融資と4000億円のコミットメントラインです。
メガバンク3行はIPO目論見書の時点でトータル約1兆円の融資をしているので、メガバンクの融資枠は増額されたようです。
一方、日本政策投資銀行は3000億円分の優先株が、3000億円の融資に変わっただけなので実質的には、3000億円を借り換えただけのような形になっています。
全体で見て見ると、メガバンクが少し融資枠を増枠して、日本政策投資銀行は以前の借金を借り換えただけのような形になっているようです。2兆円の融資と聞くと莫大な融資を受けたように見えますが、実情は借金の借り換え+αくらいにしかなっていないというところでしょう。
ファンドへの特別配当の原資はどこから
キオクシアが既存の株主(大半はベインキャピタルと東芝ですが)に対して、特別配当という形で配当を行うことで新会社への経営統合を行う方向性が、記事の中で書かれています。
新会社への株式の移行をどのような形で行うのかは、具体的にはわかりません。ただ、キオクシアの株式を50%以上保有しているベインキャピタルは、投資額に対してリターンを得ることが目的なので、ベインキャピタルに対して利益がある形になるのは間違いないと考えられます。
では、特別配当のお金の出どころはどこなんだろうかと考えてみると、今回の計2兆円の融資になるのではないかと思います。キオクシアは4四半期連続で赤字を出していますし、貸借対照表を見ても手元資金に余裕はなさそうです。
そうすると、融資で借りたお金を原資にして特別配当という形で、経営統合を目指すのではないかと考えられます。
ファンドが投資している以上、投資にはリターンが求められるので、ある程度ファンド側に利益をもたらすことは必要なんでしょうが、キオクシアから見ると借金して配当を払うという、自分で自分の借金を増やしている不思議な形に見えます。
借金である以上、長期的に見ると返さないといけないお金なので、今後の利益から借金を返していかないといけないことを考えると、フラッシュメモリで莫大な利益を稼がないと厳しい状況に置かれるのは間違いないでしょう。
なぜ9月20日に報道されたのか
ちなみに、キオクシアとウエスタンデジタルの経営統合に向けた融資の報道が9/20に行われた理由を考えてみます。
その理由は簡単で、キオクシアの大株主である東芝に対して9/20を期限にTOBが行われていたからです。
Bloombergの記事の配信時間が、15:15になっていることを見ても明らかです。株式市場が閉まる15時を過ぎてから、わざわざ報道したんでしょう。
経営統合への課題
最後に、キオクシアとウエスタンデジタルの経営統合の方向で話が進んだ場合に考えられる一番大きな課題を考えます。
両社が経営統合に合意したとしても、実際に経営統合を行うためには各国で独占禁止法の審査が必要です。
日本やアメリカが止めることはないでしょうが、一番リスクが高いのが中国です。
中国は現在、アメリカをはじめとした西側諸国から、半導体の輸出禁止や半導体製造装置の輸出禁止を受けています。この状況で、フラッシュメモリで日米の2社が経営統合し規模が拡大するのを、黙って見ているとは思えないわけです。
経営統合への話が進んだ場合でも、中国での独占禁止法の審査の過程で何かしらの要求がある可能性も十分あります。
独占禁止法の審査が、経営統合の方向で両社が合意したあとの一番大きな課題でしょう。こればかりは、現在の半導体情勢を見る限り避けることができず、一番障壁が高いと私は考えています。
匿名を条件にした関係者って何者なんだ?
最後は、おまけです。企業の経営統合や、合併の記事を読むと、よく「匿名を条件にした関係者からの話」とソースが書いてあります。これは、ニュースソースが書いてあるようで、書いていないのと一緒です。
もちろん、ニュースソースの秘匿性は守られるべきだとは思います。しかし、報道機関が報道しているとはいえ、結局ニュースソースは匿名ですという形で世界中に情報が配信されてしまうのは、どうなんだろうと思うところはあります。
情報源の信頼性という意味では、2chへの書き込みと同じくらいなのではないかと思ってしまうわけです。
どういう立ち位置の人が情報をリークしているのかはわかりませんが、中途半端に報道されるくらいだったら、公式情報を出した方がいいのではないかと私自身は考えています。憶測が憶測を呼ぶのが世の常です。もしかしたら、こういう情報を利用して株式市場で儲けている人がいるのかもしれませんが。
まとめ
この記事では、2023/9/20に報道された「キオクシアとウエスタンデジタルの経営統合に向けて、メガバンクが融資の検討に入った」という記事を読み解きました。
報道の原文を読んでもいまいちピンとこなくても、ある程度記事の背景をわかっていただけたのではないかと思っています。
このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。
この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
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