みなさんこんにちは。このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、半導体メモリメーカーであるWestern Digitalの2023年4-6月期の決算を解説していきます。
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【プロフィール】
名前:東急三崎口
経歴:学生の頃から半導体の研究を始め、半導体メーカーで約3年勤務。ロジック半導体・メモリ半導体が専門
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Western Digitalの事業内容
まず簡単にWestern Digitalの事業内容を紹介します。
【Western Digitalの事業内容】
・HDD(ハードディスク)
・NANDフラッシュメモリ
Western Digitalは、HDDとNANDフラッシュメモリを作っている会社です。
もともと、HDDを作っていた会社ですが、NANDフラッシュメモリを作っていたSanDiskという会社を買収して、今ではHDDとNANDフラッシュメモリの両方を作っている会社になっています。
NANDフラッシュメモリを作っている会社は、半導体メモリ(NANDフラッシュメモリとDRAM)専業のメーカーが多いですが、Western DigitalはHDDとNANDフラッシュメモリを作っているのが特徴です。
2023年4-6月の業績を直近と比較
早速、Western Digitalの2023年4-6月期の業績を見ていきます。
公式のIRページはこちらから見ることができます。
売上高
売上高を直近の四半期と比べるとこのようになります。
2022年第四四半期から下がり続けていた売上高が、下げ止まったように見えます。
Western Digitalは、HDDとNANDフラッシュのそれぞれについて売上高を公表しています。
それぞれの売上を比較すると、このようになります。
HDDもNANDフラッシュも、長期スパンで見ると売上高が下がっています。
NANDフラッシュに関しては、前の四半期と比較すると少し戻っていますが、それでも1年前と比べると10億ドル近く減っています。10億ドルは、1ドル=140円で考えると、1400億円になるのでかなり減収となっていることがわかります。
粗利
次に、粗利を見ていきます。
HDDとNANDフラッシュの粗利をそれぞれ見ると、HDDは減少傾向ではありますが、ある程度の粗利を確保できています。
一方、NANDフラッシュに関しては先期(2023年1-3月期)から2期連続で粗利が赤字となっています。
粗利が赤字ということは、売上が製造原価を下回っていることになります。
NANDフラッシュメモリをはじめとした、半導体メモリは昨年から非常に市況が厳しい状況なことを反映しています。
当期純利益
Western Digitalの当期純利益はこのようになっています。
2023年4-6月期は、先期より回復しましたが、トータルで見ると赤字となっています。
先ほど見た、粗利から考えるとHDD部門は何とか利益を確保していますが、NANDフラッシュメモリ部門が粗利の時点で赤字なので、HDDの利益をNANDフラッシュ部門が食いつぶしている形になっています。
Western Digitalは、HDDとNANDフラッシュの両方を持っているのでHDD部門の利益が見込めますが、NANDフラッシュメモリ専業のメーカーだとさらに赤字幅は広がっていたでしょう。
全体で見ると、Westen DigitalとしてはNANDフラッシュメモリの売上は先期よりも回復しているので、少しだけ明るい兆しが見えているのではないかと思います。
ただ、NANDフラッシュメモリ部門の売上高と粗利に着目すると、売上高は増えているのに粗利が減っている点が気になります。
通常は、売上高が増加すれば粗利も増加するはずなんですが、逆の動きを見せているので、何かしら粗利が減るような出来事が社内で起こっている可能性があります。
大きく影響が無ければいいんですが、少し気になる傾向です。
貸借対照表から財務内容を見る
Western Digitalの貸借対照表から、財務内容を見ていきます。
3期連続の赤字となっているので経営は厳しい方向に向かっているのは間違いないと思いますが、財務内容としてはどうでしょうか。
図は、公式発表のデータから筆者が抜き出して作っています。
Western Digitalは、3期連続の赤字とはなっていますが、財務内容を見るとまだまだ余裕があるようです。
流動負債に対して流動資産は余裕がありますし、純資産も資産の半分近くあります。
NANDフラッシュメモリとHDDの市況の低迷が数年続くのであれば話は別ですが、今後半年で回復するのであればそれほど問題はなさそうに見えます。
今後のトレンド
Western Digitalの視点から見た、今後のトレンドについて考えていきます。
一番重要になってくると考えられるのが、現在でも協業しているキオクシアとの合併が行われるかどうかです。
Western Digitalの立場からすると、キオクシアと合併することでNANDフラッシュメモリのシェアを増やすことができるのが、大きなメリットでしょう。
Western Digitalとキオクシアの合併については、別の記事で詳しく解説しているので興味がある方こちらの記事を読んでみてください。
Western Digitalから見ると、キオクシアと合併できなければシェア4位の立場が続きます。
(1位:Samsung、2位:Kioxia、3位:SK Hynixです。)
シェア2位のキオクシアと協業しているとはいえ、NANDフラッシュメモリの市況回復が遅れれば、赤字を出し続けることになります。
半導体メモリは、研究開発と設備投資に多額の費用が掛かるので、シェアが小さいと不利な競争を強いられます。
その理由は、一定以上のシェアが無いと、研究開発と設備投資にかかった費用を売上から回収できないからです。
(こちらの記事で半導体メモリ業界の競争が厳しい理由について解説しているので、詳しく知りたい方は読んでみてください。)
簡単に考えると、シェアが小さいとその分不利な状況で他社と戦うことになるので、Western Digitalとしてはキオクシアとの合併が不可能になった場合、長期的にはNANDフラッシュメモリから撤退することも視野に入ってくるはずです。
Western Digitalが撤退するといっても、NANDフラッシュメモリ部門を本体から分離して、他社に売却することになるのが現実的な線ではないでしょうか。(Western Digitalともともと協業していたのは東芝で、東芝が経営危機に陥ったため半導体メモリ部門がキオクシアとして売却された経緯を考えると、似たようなことをWestern Digitalが行うようなものです。)
そう考えると、Western Digitalはキオクシアと合併できるかどうかというのは、NANDフラッシュメモリ業界のプレイヤーの数という意味では非常に大きな意味を持ちます。
まとめ
この記事では、Western Digitalの2023年4-6月期の決算について解説しました。
Western Digitalは、HDD部門とNANDフラッシュ部門があり、NANDフラッシュ部門が足を引っ張って全体として赤字となっています。
また、売上高は下げ止まったように見えるので、NANDフラッシュの市況の悪化は何とか止まったように見えます。
市況とは別に、Western Digitalの観点からすると、キオクシアと合併できるかどうかが、長期的にNANDフラッシュ市場に参加し続けるかどうかを決めるのではないかと、私は考えています。
この記事はここまでです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
このブログでは、半導体や半導体メモリについて色々書いているので興味がある方は他の記事も読んでみてください。
この記事はここまでです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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