キオクシアとウエスタンデジタルが合併したらフラッシュメモリ業界はどうなるのか

みなさんこんにちは。このブログを書いている東急三崎口です。

今回の記事では、久方ぶりに半導体について取り上げます。取り上げるのは、フラッシュメモリ業界です。

フラッシュメモリなんか普段使ってないと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、スマートフォンには必ず入っている大事な部品です。フラッシュメモリは、情報を記憶するデバイスでSDカードや、パソコンに使われるSSD、USBメモリの中にも使われています。ゲーム機のPS5の中にも入っているくらいです。

普段知らず知らずのうちに使っているフラッシュメモリですが、作れるメーカーは世界で5社しかありません。

SSDやSDカード自体は、色々な会社から売られていますが、その中に入っているフラッシュメモリ自体を作っているのは、5社のうちのどこかと言っても過言ではありません。

5社しかないフラッシュメモリメーカーのうち、2社が合併するかもしれないというニュースが出ていました。

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20230123-2572613/

合併するかもしれないという2社が、今回取り上げる「キオクシア」と「ウエスタンデジタル」です。この2社についてご存じない方も多いと思うので、会社についてさらっと紹介したあと、合併したらどうなるかについて解説していきます。

(2023/2/15追記) 2023年度第三四半期のキオクシアの決算が出たのでこちらの記事で解説しています。四半期で1000億円近い赤字になっていて、半導体メモリ業界は不況期に入ったようです。

キオクシアの決算から見える半導体メモリ業界の浮き沈みの激しさ~業績が激しく変動~

結論から言うと、2社が合併することは日本にとってはデメリットが大きいと私は考えています。

半導体業界に興味がある方や転職してみたい方は、こちらの記事も読んでみてください。

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目次

キオクシアとウエスタンデジタル

キオクシアとウエスタンデジタルについて、ご存じない方のためにそれぞれの会社について少し紹介します。

キオクシア

キオクシアは、もともと東芝の半導体メモリ部門でした。実は、フラッシュメモリは1980年代に東芝の技術者が発明したメモリで、フラッシュメモリを世の中に生み出した会社の今の姿です。主な製品は、フラッシュメモリです。

東芝が原発事業で巨額の赤字になり債務超過になったため、資金を調達するために東芝から外資に売られた半導体部門が現在では社名が変わってキオクシアとなっています。

社名は、東芝→東芝メモリ→キオクシアという変遷をたどっています。

もともと東芝の半導体部門だったため、会社も工場も日本国内にあり、日本の中の半導体メーカー売上高ランキングでは1位にいる企業です。

ウエスタンデジタル

ウエスタンデジタルは、アメリカの会社で主な製品はハードディスクとフラッシュメモリです。1970年に創業された会社で、当初は半導体のチップを作っていました。当時は電卓用のチップを作っていたようです。しかし、時代の流れによってハードディスク事業を行うようになり、現在でもハードディスクの大手メーカーです。

2015年に、フラッシュメモリ製造メーカーだったサンディスクを買収し、フラッシュメモリの製造も行うようになりました。もともと、サンディスクが当時の東芝とフラッシュメモリを共同で製造していたので、サンディスクを買収したウエスタンデジタルが、フラッシュメモリの製造メーカーになったというわけです。

フラッシュメモリのライバルメーカー

冒頭で、フラッシュメモリのメーカーは世界で5社しかないと紹介しました。

キオクシアとウエスタンデジタルのライバルメーカーにはどんな会社があるのでしょうか。フラッシュメモリを作れる残りの会社はこの3社です。

  • Samsung(韓国)
  • SK Hynix(韓国)
  • Micron(アメリカ)

Samsungは、スマートフォンも作っている韓国で最も大きな会社です。フラッシュメモリ以外にもいろいろな半導体を作っています。5社の中では、フラッシュメモリのシェアが一番大きく世界の3割程度のシェアをSamsungが持っていると言われています。

SK Hynixは、韓国の会社でSamsungの次に半導体で売上がj大きい会社です。SK Hynixは、キオクシアが東芝から売却されたときに、キオクシアの株式を14%程度保有していると言われています。10年間は、保有割合を増やせないなど、条件はついているようですが、SK Hynixから見るとキオクシアは投資に値する会社だと見えているのではないでしょうか。

Micronは、アメリカの会社でフラッシュメモリを製造しています。フラッシュメモリを製造しているメーカーとしては、ウエスタンデジタルと同じアメリカの会社です。Micronは、2012年に破綻した日本の半導体製造メーカーである「エルピーダメモリ」を買収したことでも知られています。エルピーダメモリを買収した関係で、アメリカの会社なのに日本に工場があるんです。

競合他社とキオクシア・ウエスタンデジタルの違い

フラッシュメモリを製造できるメーカーとしては、ライバルメーカーを含めて5社あります。競合他社と、キオクシア・ウエスタンデジタルの大きな違いが一つあります。大きな違いとは、競合他社は「フラッシュメモリ」と「DRAM」を作っているのに対して、キオクシア・ウエスタンデジタルは「フラッシュメモリ」しか作っていないことです。

いきなり、DRAMが出てきました。DRAMとは、パソコンに入っている「メモリ」のことです。パソコンだけではなく、スマートフォンやPS5の中にも入っています。DRAMも半導体から作られるメモリという点では、フラッシュメモリと同じです。

しかし、フラッシュメモリとDRAMには大きな違いが2つあります。1つ目は、DRAMの方が読み書きスピードは速いけど、容量が小さいということです。要は、DRAMは早いけれど容量当たりの単価が高いんですね。

2つ目は、フラッシュメモリは電源を切っても内容が記憶できて、DRAMは電源を切ると内容が飛んでしまう点です。半導体メモリの業界では、電源を切っても内容が消えないメモリを「不揮発性メモリ」といい、電源を切ると内容が消えてしまうメモリを「揮発性メモリ」といいます。

DRAMとフラッシュメモリの違うを詳しく知りたい方は、wikipediaを読んでいただければ感覚はわかるはずです。(内容がマニアックなのと書き出すと長くなるので、この記事ではではスキップします。もし要望があれば記事に書きます。)

DRAMを作っているメーカーは、世界でほぼ3社しかありません。そして、その3社がキオクシア・ウエスタンデジタルの競合メーカーとして挙げた、Samsung・SK Hynix・Micronなんです。

DRAMはほぼ3社しか製造していないので、寡占市場で大きな値崩れが起こりにくいです。大手で3社があって、価格競争が起こりにくいことは、日本のビールメーカーをイメージしていただければわかりやすいと思います。大手4社のキリン・アサヒ・サントリー・サッポロでかなりのシェアが占められているので、ビールの価格競争は起こりにくいのと一緒です。

寡占市場であるということは、価格が下がりにくいので製造メーカーは利益を得やすくなります。

DRAMを作って利益を上げやすい競合メーカーとフラッシュメモリの製造で競争をしないといけないのが、キオクシアとウエスタンデジタルなんです。(厳密に言うと、半導体業界は一般的に値崩れが起こりやすい構造をしているのも不利な理由の一つです。この理由に関しても、別の記事で紹介したいと思います。)

まとめると、キオクシアとウエスタンデジタルは、競合のフラッシュメモリメーカーよりも不利な条件で戦いを挑んでいるわけです。

合併したらどうなるか

では、キオクシアとウエスタンデジタルが合併したら何が起こるのでしょうか。この記事を書くときに読んだ記事には、「現在協議中の条件では、ウエスタンデジタルはフラッシュメモリー事業をスピンオフしてキオクシアと合併させ、米国で上場企業を誕生させる方針。」とありました。(引用元の記事)

要は、ウエスタンデジタルのフラッシュメモリ事業とキオクシアを合併させて、新しい会社としてアメリカで上場する予定だということです。

キオクシアとウエスタンデジタルのフラッシュメモリ部門が合併しても、DRAMを作る技術を持っていないので、合併してできた新会社とSamsung・SK Hynix・Micronの4社の中で、新会社だけがDRAMを作れない構造は変わりません。

今までキオクシアとウエスタンデジタルが販売していた顧客を統合できるのと、単純にシェアが上がることはメリットとしてあるかもしれません。キオクシアとウエスタンデジタルが合併すれば、現在フラッシュメモリのシェアが世界1位のSamsungと同等レベルのシェアになります。

とはいえ、2社が合併することで劇的なメリットが生まれるかと言われると、それほど大きな効果は無いと考えられます。

日本にメリットはあるのか

キオクシアとウエスタンデジタルが合併することで、日本にとってメリットがあるのかを考えてみます。

キオクシアは、もともと東芝の半導体メモリ部門だったこともあって、本社や工場が日本国内にあります。日本の会社が日本で半導体を製造するという点では、良い条件がそろっています。

キオクシアがウエスタンデジタルと合併したとすると、アメリカで上場する予定ということですから、もともとアメリカの会社であるウエスタンデジタルが主導権を握ることになると考えられます。そうすると、形としては日本に工場が残ったとしても、日本でフラッシュメモリを製造する会社が無くなってしまうことになります。

製造拠点が日本にあれば問題ないと思われる方も多いかもしれませんが、日本で働く人はいたとしても、会社が生み出した利益はアメリカに持っていかれてしまいます。そうすると、日本側から見たメリットは薄いです。キオクシアとウエスタンデジタルが合併して、アメリカで新会社が上場することになると、キオクシアがウエスタンデジタルに吸収されたような形になります。

キオクシアの経営陣からしても、ウエスタンデジタルと合併するとなると、経営権はアメリカ側にもっていかれますし、合併による相乗効果は少しあったとしても、独立した経営はできなくなります。と考えると、キオクシアの経営陣側にもウエスタンデジタルと合併するメリットは薄いように思えます。

それでは、なぜキオクシアとウエスタンデジタルの合併交渉のニュースが出るのかを考えてみます。その理由は、おそらくキオクシア側の資金がかなり厳しい状態にあるのだと考えられます。キオクシア側にメリットが薄い合併を検討せざるを得ない状況に追い込まれている可能性はあります。

フラッシュメモリに限らず、半導体メーカーは製造するための先行投資が巨額で、巨額な先行投資を続けられえないと競争に残っていけない過酷な業界です。とすると、キオクシアが巨額な投資を続けられなくなっている可能性は十分にあります。キオクシアは未上場企業なので、決算書類を見ることはできませんが、良好な経営状況であるならば、新規上場(IPO)をすることも選択肢に入ってくるはずです。上場がいまだに行われていないことを考えると、あまり状況は良くないと言えるでしょう。

ウエスタンデジタル以外と合併するとしたらどこがいいのか

キオクシアがウエスタンデジタルと、合併せざるを得ない状況にあるのだとしたら、どの会社と合併することが一番メリットが大きいのか考えてみます。

結論を言うと、Micronと合併するのが一番メリットが大きい合併になると考えています。その理由は、Micronは日本にDRAMの工場を持っているので、Micronとキオクシアが合併すれば(合併というより、吸収かもしれませんが)日本国内でDRAMとフラッシュメモリを製造する拠点が維持できるからです。

仮に、Samsungとキオクシアが合併した場合、世界のフラッシュメモリを1社で製造することになり、独占禁止の観点から許可されない可能性が高いです。1社で世界の半分のシェアを持つことになれば、価格競争がかなり起こりにくい製品になってしまいます。

残る選択肢としては、SK Hynixが挙げられますが、SK Hynixとキオクシアが合併した場合でも、Micronと合併した場合とあまり状況は変わらないかもしれません。SK Hynixは、日本国内に製造拠点は無いので、シナジー効果はMicronより薄いと考えられます。

というわけで、ウエスタンデジタルとの合併よりもMicronとの合併(吸収?)の方がまだメリットがあるのではないかと、私は考えています。

まとめ

今回の記事では、キオクシアとウエスタンデジタルが合併したらフラッシュメモリ業界はどうなるのかについて解説しました。2社の合併はキオクシア側のメリットが薄く、合併した新企業ができたとしても、フラッシュメモリ業界での構造は変わらないというのが結論です。

おわりに

長くなりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。記事の中でよくわからない点がありましたら、コメント欄かお問いあわせフォームからご連絡いただければお返事できるようにいたします。

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