ナノインプリントリソグラフィー(NIL)を解説~EUVとの違いと実用化への課題とは~

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みなさんこんにちは、このブログを書いている東急三崎口です。

この記事では、キヤノンが独自に開発しているリソグラフィー技術であるナノインプリントリソグラフィー(NIL)について解説します。

今回のメインテーマはこの3つです。

・そもそもNILとは何なのか?
・EUVとNILの違い
・なかなか実用化されない理由

目次

そもそもNILとは何なのか?

まずは、簡単にそもそもNILとは何なのかを解説します。

NILはナノインプリントリソグラフィーの略です。一般的なリソグラフィーは、半導体ウエハの表面に感光性の樹脂(レジスト)を塗布して、マスク越しに光を当てます。そして、感光したレジストを現像することで、マスクに描かれたパターンをウエハ上に転写します。

つまり、ウエハ表面にレジストは塗布しますが、パターンを描く時には光を利用するので、物理的に何かを接触させることは基本的にありません。

一方、ナノインプリントリソグラフィーは、ウエハ表面にレジストを塗るところは一緒ですが、レジスト越しにウエハ表面に物理的な型を押し付けることでウエハ上にパターンを描きます。

NILをやっているキヤノンのサイトにわかりやすい解説があったので、詳しくはこちらのページを見てみてください。

https://global.canon/ja/technology/nil-2023.html

EUVとNILの違い

NILとよく比較されるのがEUVです。

EUVは、Extreme Ultra Violetの略で、日本語だと極端紫外光と呼ばれます。13.6nmのX線領域の光を使って露光を行うものです。EUV以前の露光機と比べて、非常に細い線幅(最小線幅は13nmだそうです)を一発で露光できるので、先端ロジック半導体やDRAMの製造に使われるようになっています。

NILも線幅だけを見ると、最小線幅14nmまで形成可能なので、形成可能な最小線幅に関してはEUVと同等です。

EUV露光機は、13.6nmの光を作り出すために多くの電力を消費するのと、装置を製造しているのがオランダのASML社のみで、1台当たり100億円すると言われていて非常に高価です。

一方、NILはEUVと比べると消費電力は1/10で、装置価格もEUVよりは安くなると考えられます。

これだけ見ると、NILのメリットが大きいように見えますが、半導体デバイスの量産工程には使われていません。なぜなのでしょうか?

なかなか実用化されない理由

実用化できればメリットが大きそうなNILがなかなか実用化されてない理由は、大きく2つあります。

異物が存在するとアウト

1つ目の理由は、異物が存在すると即不良品になってしまうことです。

NILは物理的にマスクをレジストの上に押しあてることで、パターンを形成します。この時、レジストとマスクの間に異物が存在すると、異物が入った部分は不良となります。

半導体デバイス製造で、異物は基本的に避けねばならないものです。NILで形成できる最小線幅は14nmです。14nmというと、人間の髪の毛はおろか(だいたい0.1mmくらいだと言われています)、ウイルスですら(20~800nmくらいのサイズです)異物となってしまいます。

物理的にレジストに押し付けるマスクとレジストの間に、ウイルスが入っただけでも不良品になってしまうようなサイズ感の線を描かないといけないのに、マスクとレジストは物理的に接触させないといけないわけです。

原理的に物理的な接触が必要になり、異物が入り込んだ瞬間NGとなってしまうのが、なかなかNILが実用化されない理由の1つです。(物理的な接触を避ける方法が無いので、本質的に難しい点です。もちろん、キヤノンも対策は打っているようですが、原理的な難しさなので根本的に解決するのは難しいでしょう。)

重ね合わせ精度が相対的に低い

2つ目の理由は、重ね合わせ精度が相対的に低いことです。

NILと比較されるEUV露光機の場合、重ね合わせ精度は1.5nm程度です。(現物はもう少し実力があるかもしれませんが。)

一方、NILの重ね合わせ精度は4nmとなっています。NILで重ね合わせ精度が低くなってしまう理由は、やはりマスクとウエハを接触させないといけないところにあります。

シリコンウエハを使う場合、ウエハは温度変化によって微妙に伸び縮みします。これは、物質が本質的に持っている熱膨張の影響なので回避することはできません。微妙に伸び縮みするウエハに対して、マスクに描かれているパターンは原寸大なので、シリコンウエハ側のスケールをマスクと合わせないと、マスクに描かれた位置とウエハに描くパターンの寸法がずれます。

キヤノンは、シリコンウエハ側の温度をレーザーを当てることで調整しているようです。(通常、ウエハ側に温度を掛けると熱膨張の影響をうけるので、あまりやらない方法です。)

とはいえ、1つのマスクの面内でシリコンウエハのサイズとマスクの寸法を完全に合わせるのはかなり難しいので、重ね合わせ精度がEUVより低くなっているようです。

イメージ的に、14nmの線に対して4nmの重ね合わせ精度だと、どのくらいずれが生じるかを見てみましょう。

極端な話ですが、14nmの配線に対して14nmで断面が円形のビアを作る場合を考えてみます。
理想的な重ね合わせ精度が0の場合は、下図のようになり配線に円がすっぽり入っています。(灰色の部分が配線のイメージです。)

一方、重ね合わせ精度が4nmで、X方向・Y方向に4nmずつズレた場合を考えると、このようになります。

ズレた円と、円の中心を通る補助線を赤色で書いています。重ね合わせ精度4nmと言われると小さいように感じますが、実際に図に描いてみると結構なズレに見えます。円の下側1/3くらいは配線からはみ出しています。

これでも、設計的にズレが許容されるのであれば問題ないんですが、ズレが許容できない場合、なかなかNILを採用するのは難しいでしょう。

重ね合わせ精度を意識することは、普段無いと思いますが、14nmの線幅に対して4nmの重ね合わせ精度になると、どうなるかを少し詳しく見てみました。

NILが実用化されるならNANDフラッシュか

最後に、NILが実用化されるとしたらどのデバイスなのかを考えてみます。

NILを開発しているキヤノンは、NANDフラッシュメモリメーカーであるキオクシアと共同で開発を行っています。

半導体デバイスの中でも、ロジック半導体とメモリ半導体では、回路のイメージが変わります。ロジック半導体は、演算を行う論理回路がメインなので、論理回路のどこかに1つでも不良があると、チップ全体が不良になってしまいます。

一方、メモリ半導体は、記憶を行うメモリセルの構造は全て同じで、同じ構造を持つメモリセルが大量に配置されています。つまり、メモリセルの部分は1つ1つのメモリセルが大量に繰り返しパターンとしては配置されているわけです。

NANDフラッシュメモリは3D化して、立体的にメモリセルを積み上げていますが、メモリセルへの配線を引き出す場所は、同じようなパターンの繰り返しになります。(ビット線を引きだし領域などが当たります。)

かつ、メモリの場合は仮に1つのメモリセルの領域に不良があったとしても、他のセル領域が生き残っていれば、不良部分を電気的に切り離せば救済することができます。(どこまでやるかは場合によりけりですが、少なくともロジック半導体より不良に対する冗長性は高いです。)

こう考えると、マスクとウエハの間に異物が入ることで不良が発生しやすいNILは、ロジック半導体よりもメモリ半導体で使われる可能性が高いといえます。

現状キオクシアとキヤノンが共同で開発しているので、NILが実用化されて量産に使われることがあれば、キオクシアの製品(おそらく、NANDフラッシュメモリ)が一番最初になるでしょう。

まとめ

この記事では、キヤノンが独自に開発しているリソグラフィー技術であるナノインプリントリソグラフィー(NIL)について解説しました。

原理的な解説もしましたが、重ね合わせ精度の部分は、普段あまり考えないのでフォーカスしてみました。

このブログでは、半導体に関する記事を他にも書いています。半導体メモリ業界が中心ですが、興味がある記事があれば読んでみてください。

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この記事はここまでです。最後まで読んでくださってありがとうございました。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • EUVでオランダ社製と日本電子社製の違いを教えていただけると嬉しいです。

    • 高野様。コメントありがとうございます。東急三崎口です。
      お返事が遅くなってすみません。
      ご質問の件なんですが、EUVと言っても、EUV露光の装置を作っているメーカーと、EUV露光用のマスクを作っている会社があります。
      現状、EUV露光装置を作れるのは、オランダのASML社だけです。
      一方、日本電子は電子顕微鏡等で有名ですが、電子ビームを扱っているので、半導体製造に使われるフォトマスク等の製造に使われる電子ビーム描画装置を扱っています。
      こんな形で、答えになっているでしょうか。
      今後ともよろしくお願いいたします。

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