みなさんこんにちは。このブログを書いている東急三崎口です。
この記事では、NANDフラッシュメモリメーカーのキオクシアについて解説していきます。
キオクシアについては、既にいくつか解説記事を書かれている方がいらっしゃいます。(2023/5/29現在)
https://www.semiconductor-industry.com/kioxia/
https://dopodomani.biz/kioxia/
https://paradigm-shift.co.jp/media/kioxia-acquisition/
一通り読んでみたんですが、NANDフラッシュメモリの技術的な観点や、競合他社との競争についてあまり書かれていなかったので、その辺をちゃんと書こうと思ったのがこの記事を書いたきっかけです。
というわけで、キオクシアの置かれている状況・技術的な観点・成長性について解説していきます。
何をやっている会社なのか
キオクシアはNANDフラッシュメモリ専業メーカー
いきなり、NANDフラッシュメモリ専業メーカーと書いていますが、キオクシアは半導体メモリを作っている会社です。
半導体メモリは、大きく分けて2つに分けられます。
【半導体メモリの種類】
・NANDフラッシュメモリ
・DRAM
半導体メモリには、2つのメモリがありますが、キオクシアはNANDフラッシュメモリだけを作っているメーカーです。
あとから出てきますが、競合他社はNANDフラッシュメモリとDRAMの両方を作っていることがほとんどです。
DRAMとNANDフラッシュメモリの違いは、こちらの記事で詳しく解説しています。
沿革
キオクシアは東芝の半導体メモリ部門が分離されてできた会社
キオクシアという会社名に、あまりなじみが無い方もいらっしゃるかもしれません。
キオクシアは、もともと東芝の半導体メモリ部門でした。しかし、東芝は不正会計事件でキャッシュを作る必要が出てきて、半導体メモリ部門を売却することになります。
半導体メモリ部門を丸ごと売却して独立してできたのが、キオクシアです。(2017/4)
売却された直後は、東芝メモリという名前でしたが、2019/10/1にキオクシアに名前が変わっています。
キオクシアが作っている、NANDフラッシュメモリはもともとは東芝のエンジニアが発明したものなので、由緒正しい会社といえるでしょう。
ライバルメーカー
半導体メモリを作っている会社は、5つくらいあります。
【半導体メモリメーカー】
・Samsung(韓国)
・SK Hynix(韓国)
・Micron(アメリカ)
・Western Digital(アメリカ)
・Kioxia(日本)
5つの会社全てが、NANDフラッシュメモリを作っています。
一方、KioxiaとWestern Digital以外の3社は、DRAMも作っています。
DRAMのシェアはこのようになっています。
Samsungが1社で4割程度のシェアを持っていて、残りをSK HynixとMicronで分け合っているような状態です。
DRAMのシェアが3社で寡占になってしまった理由に興味がある方は、こちらの記事を読んでみてください。
NANDフラッシュメモリのシェアは、このようになっています。
NANDフラッシュメモリでも、Samsungが30%近いシェアで1位となっています。
キオクシアは、シェア2位につけています。2位といっても、Samsungが1強で、Kioxia・SK Hynix・Western Digitalが3社並んでいるような状態です。
キオクシアの競合になる会社は、4社あるわけですがどの会社も半導体メモリでシェアを取り合っていて、かなり資金力がある会社なので、競争は厳しいです。
半導体メモリ業界の競争が厳しい理由については、こちらの記事で詳しく解説しています。
Western Digitalとの関係性
【KioxiaとWestern Digitalの関係性】
・NANDフラッシュメモリのチップは協業して作っている
・製品を売る段階では競合メーカー
NANDフラッシュメモリのシェアのところで、しれっとKioxiaとWestern Digitalを別の会社として書いていました。
実際問題、この2社は別の会社なんですが、協力してNANDフラッシュメモリを作っています。
協力してNANDフラッシュメモリを作っているのに、売る段階では競合メーカーになるというすこし不思議な関係性です。
NANDフラッシュメモリを作る工程は、大きく分けて前工程と後工程に分けられます。
前工程は、チップ自体を作る工程で非常に大きな設備投資が必要になります。
一方、後工程は作ったチップをパッケージ化したり、コントローラと組み合わせてSSDにしたりする工程です。
KioxiaとWestern Digitalは、前工程では共同でチップを作っていますが、後工程は別会社となっていて、市販のSDカードも2社が別ブランドで売っています。(KioxiaはKioxiaブランドで、Western DigitalはSanDiskブランドで売っています。)
キオクシアとWestern Digitalは合併を水面下で進めているとの報道が出ていますが、合併したらどうなるのかについてはこちらの記事で解説しています。
他社との技術開発競争
キオクシアは技術開発競争で他社に遅れをとりつつある
キオクシアのシェアと、Western Digitalとの関係性について見てきました。
他社との技術開発競争についてみていきます。
NANDフラッシュメモリをはじめとした、半導体メモリは技術開発のスピードが非常に速いです。
だいたい、2年おきに新しい世代の開発を行わないと、技術開発競争についていくことができません。
最近のNANDフラッシュメモリは、3次元的に積み上げていく構造になっているので、メモリを何層積み上げたかを基準にして技術開発の進み具合を見ます。
現時点(2023/5/29現在)の各社の、先端開発状況を表したのがこちらの図です。
キオクシアを表しているのが、黄色い線です。
キオクシアの視点で見ると、赤い丸で囲った部分と、青い丸で囲った部分の2つのゾーンに分けられます。
赤い丸で囲った部分は、キオクシアが他社に先行して技術開発を行っていた時期です。
層数が高くなれば、それだけ技術開発が進んでいることになります。赤い丸で囲った部分では、比較的他社よりも上に黄色い線がきています。
これは、キオクシアが他社よりも技術開発が進んでいたことを意味しています。
一方、青い丸で囲った部分では他社より下に黄色い線がきています。これは、他社と比べて技術開発が遅れていることを意味しています。
簡単に言うと、2018年くらいまでは技術開発競争でリードしていましたが、2020年以降は他社にリードされている状況です。
技術開発競争については、こちらの記事で詳しく解説しています。
競合他社との比較
NANDフラッシュメモリのシェア・技術開発競争の内容を念頭に置いて、キオクシアと競合他社を比較していきます。
観点はこの4つです。
【キオクシアと競合他社を比較する観点】
・強み
・弱み
・成長性
・リスク
強み
・日本国内でNANDフラッシュメモリを製造
・NANDフラッシュメモリ1本で勝負
キオクシアの強みは、日本国内だけで製造を行っていることと、NANDフラッシュメモリ1本で勝負していることです。
近年の米中半導体戦争の影響で、中国に工場があるメーカーは、先端半導体に指定された製品を作っている工場に新規等を行うことがかなり厳しい状況になっています。
一方、キオクシアはNANDフラッシュメモリを製造する工場が日本国内のみなので、米中半導体戦争の影響を受けにくいです。
また、NANDフラッシュメモリ1本で勝負しているので、経営資源や開発リソースをNANDフラッシュメモリだけに集中することができます。
DRAMとNANDフラッシュメモリの両方を作っているメーカーだと、どうしても両方に対して技術開発と投資を行わないといけないので、得られる利益も大きいですが研究開発や設備投資に必要な費用も大きくなります。
NANDフラッシュメモリだけで勝負している分、開発に必要なリソースと費用を集中させることができます。
弱み
・他社と比べると資金力に不安がある
・DRAMを作っていない
キオクシアの弱みは、大きく分けて2つあり「資金力の不安」と「DRAMを作っていないこと」です。
資金力に関しては、競合他社が強いということが大前提としてあります。しかし、キオクシアは東芝から独立した影響もあって、他社と比較するとかなり借金の割合が多いです。
詳しい内容は、こちらの記事で解説していますが、2020年時点での貸借対照表を見ると2兆円近い借金がありました。
2兆円借金があると、金利1%だとしても利子だけで200億円ですから、相当金利負担は大きいのではないかと考えられます。
また、DRAMを作っていないことは、他社と比較した時に強みでもあり、弱みでもあります。
競合他社は、Western Digital以外DRAMを作っているので、DRAMの利益を享受しています。
NANDフラッシュメモリと比較して、DRAMは単価が高いので利益率も高くなります。競合他社がNANDフラッシュメモリ1本であれば、簡単なんですがそうはいきません。
他社がDRAMで利益を得て、その分研究開発費と設備投資の原資を稼いでいる中、キオクシアはNANDフラッシュメモリ1本足であることを考えると、利益を得るという観点からは不利です。(SamsungはDRAMも持っていて、キオクシアよりNANDフラッシュメモリのシェアは大きいわけです。)
成長性
NANDフラッシュメモリの市場は今後も成長し続けると考えられる
キオクシアの成長性を考えると、今後も成長が見込めると考えられます。
NANDフラッシュメモリの市場は、今後も成長し続けると考えられるからです。
その理由は、世の中のデータを貯めておく需要が増えると、NANDフラッシュメモリの需要が増えるからです。
例えば、スマホのストレージは10年前と比べたら圧倒的に増えているはずです。また、データをクラウドに保存することも増えています。クラウドに保存したデータは、大きなデータセンターの中のSSDやハードディスクに記憶されます。
世の中でデータを貯めておく需要が減ることはなく、むしろ今後も増え続けていくので、NANDフラッシュメモリの需要は増え続けていくと考えられます。
市場規模が増えていくことから、市場の中で一定のシェアを持っていれば市場の成長に伴って、会社の売上も伸びていくわけです。
リスク
・市況が悪化したときに資金的に耐えきれるか
・増大する研究開発費と設備投資費を負担し続けられるか
キオクシアに起こりうるリスクは2つあり、簡単に言うと「資金力」と「開発競争についていけるか」です。
資金力に関しては、弱みの部分で少し触れました。他社と比較して借金が多いので、金利負担がのしかかってきます。
また、半導体メモリは需要が急減して市況が暴落することがある程度のスパンで起こります。
市況が暴落した時に、会社が耐えられるかどうかはどれだけ自己資金をたくさん持っているかが効いてきます。
市況が暴落する度合いが大きければ大きいほど、資金力が尽きるまでチキンレースをすることになります。
キオクシアは借金が他社より多い以上、チキンレースになった時に、耐えられる資金を持っておけるかどうかが、一つのリスクです。
また、研究開発費と設備投資費を負担し続けられるかも大きなポイントです。
技術開発を進めるためには、研究開発を先行して行う必要があります。また、新しい世代の製品を作るためには、設備投資を先行して行う必要があります。
研究開発費と設備投資費は、技術が高度になればなるほど増えていきます。この負担ができなくなると、技術開発競争についていけなくなります。
NANDフラッシュメモリに限らず、半導体メモリは技術開発競争が激しいので、競争についていけなくなると、あっという間に他社にリードされてしまいます。
キオクシアに関しては、研究開発と設備投資の費用を今後も出し続けられるかどうかが、今後重要になってくるはずです。
まとめ
この記事では、NANDフラッシュメモリメーカーであるキオクシアについて解説しました。
内容をまとめます。
キオクシアはNANDフラッシュメモリ専業メーカー
キオクシアは東芝の半導体メモリ部門が分離されてできた会社
【半導体メモリメーカー】
・Samsung(韓国)
・SK Hynix(韓国)
・Micron(アメリカ)
・Western Digital(アメリカ)
・Kioxia(日本)
【KioxiaとWestern Digitalの関係性】
・NANDフラッシュメモリのチップは協業して作っている
・製品を売る段階では競合メーカー
キオクシアは技術開発競争で他社に遅れをとりつつある
【強み】
・日本国内でNANDフラッシュメモリを製造
・NANDフラッシュメモリ1本で勝負
【弱み】
・他社と比べると資金力に不安がある
・DRAMを作っていない
【成長性】
・NANDフラッシュメモリの市場は今後も成長し続けると考えられる
【リスク】
・市況が悪化したときに資金的に耐えきれるか
・増大する研究開発費と設備投資費を負担し続けられるか
資金的な負担と、競争が激しい研究開発についていけるかどうかが、キオクシアの今後の鍵になるでしょう。
このブログでは、半導体や半導体メモリ業界についてたくさん記事を書いています。興味があれば、他の記事も読んでみて下さい。
この記事はここまでです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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